23話 風邪? 〜体調不良じゃ済まなかったみたい2〜
ラウルの案内で鍛冶場に足を踏み入れると、暖かい空気が体全体を覆う。
煙が充満しているわけではないが、多少の息苦しさを感じた。
周りを見渡せば、石造りの炉の隣で鋳型に金属を流し込む職人が目に入る。
桶に張った水の中に、赤々と熱せられたスプーン程の大きさの金属を突っ込み、焼入れをしている職人の姿も。
カンカンと音の響く方に視線を向けると、砥石や革砥を使って包丁や小ぶりのナイフを砥いだり、ハンマーで鍋のへこみを直したりと様々な加工や修復を行っていた。
……おぉ~、手作業の加工ってカッコイィ~。
あのような作業を見ると、わたしは前世で見ていた金属加工の動画を思い出す。
知識があるわけではないが、金属がツルツル、ピカピカと手作業で研磨されていく様子を見ているのも、好きだったのだ。
そんな光景を見て、若干興奮気味だったわたしを疑問に思ったのか、アイナが声をかけてきた。
「ああいうのが好きなの?」
「うん。結構、好き……かも」
「へぇ~、もっと女の子っぽいのが好きなのかと思った。これじゃ、エステラそっくりじゃない」
アイナはエステラの方へと顔を向けて「妹ちゃん、エステラにそっくりね」と、笑った。
……金属の加工って、やっぱり男の子っぽいのかな? これぞ職人技って感じで良いと思うんだけど……。
でも、悪い気はしない。
ノックスにも似て、エステラにも似て、やっぱり兄妹、姉妹なんだなって思うと嬉しくなってくる。
◇ ◆ ◇
ラウルに案内され、加工場の隣にあった商談用と思われる小さな部屋に通された。
わたしたちは「ほらよ」と、用意された熱いお茶を飲みつつ、ラウルに試作品の用途の説明をしながら、親方の帰り待つ。
「それを使って新しい料理ねぇ」
「何が出来るかは、料理人次第ってとこね」
「ふ~ん……まぁ、仕事だからな。んで、持ち手はどういう形にする?」
ラウルの表情が徐々に真剣さを増し、エステラの説明に聞き入っている。
ポールもそうだったが、仕事の話になると顔つきが変わるラウルも、立派な職人だなと思う。
アイナが言うには、洗礼が終わると職人の家では修行が始まる。
成人するまでは見習いという立場だが、やっていることは一般の職人と大差がないらしい。
もちろん、難しい加工等は熟練の職人が担当するが、一般的な職人の仕事は、一通り経験済みなようだ。
……六歳からやってたら、もう六年目。そりゃ、技術面なら一人前にもなるかぁ。
「料理なら、マルコがいいかもな。あいつの舌は一流だぞ。伊達に食ってねぇ」
「マルコって、料理できるの?」
マルコが料理を担当していることには、エステラは初耳だったらしく、目を瞬かせて聞き返していた。
アイナも同様のようで「あのマルコが……」と、驚いている。
「あの宿屋の味付けは、ほとんどマルコが担当だぞ」
マルコの父親が経営する宿屋の料理は、元々美味いと評判らしい。
近年は食べやすい、味が良くなったなどと耳にする機会が住民の間でも増え、食事を目的に来る客も増えたようだ。
最近は宿屋というよりも、もう食堂のような状態らしい。
それもこれも、マルコが店の料理に口を出し始めてからだという。
……マルコって、食べてるだけじゃなかったんだね。
マルコの評価を上方修正すると同時に、なかなか良い情報を得られた。
おろし金を試してもらう料理人に、マルコも追加すべきだろう。
「ところでよ、ちっこいの。顔色わりぃぞ。大丈夫か?」
マルコの話をしながら図面を作成していたラウルが、突然そんなことを言ってきた。
隣にいたアイナもわたしの顔を覗き込んで、「ほんとだ。妹ちゃん大丈夫」と心配そうだ。
……見て分かる程、わたしの顔色って悪いのかな?
確かに、どんどん体調は悪くなっている気がする。
座っている分には少し頭がぐらぐらする程度だが、立って歩くとなると、ちょっとしんどいかもしれない。
「もぉ~、夜中に窓開けてニヤニヤしてるから、風邪でもひいたんじゃない?」
……バレてるぅ~。
夜中に窓を開けていることはエステラにバレていたようで、寒い思いをさせてしまったと、ばつが悪い。
しかも、ニヤけた顔まで見られていたようだ。
申し訳なさと恥ずかしさで、複雑な心境だ。
……これは、言い訳できない。
そんなわたしの額に、エステラがそっと手を当て熱を診る。
「う~ん、ちょっと熱あるかも」
「エステラどうする? 四の鐘も鳴って結構経つし、戻ろうか?」
アイナの言葉に、エステラがわたしを見て頷いた。
五の鐘がなる頃には、辺りはだいぶ暗くなっているだろう。
今、親方が戻って来ても、大した話はできない。
体調のこともあるし、今日はもう引き上げた方が良いかもしれない。
「親方には俺の方で話しておくよ。ちっこいのも無理すんな」
「……うん」
ラウルにも、これ以上、気を遣わせてしまっても悪い。
わたしは机に手をついて「よいしょ」と立ち上がり、そのまま一歩踏み出そうとした瞬間、力が抜けて足元がふらついた。
「大丈夫? 無理してたんじゃないの?」
アイナの顔は本当に心配そうだ。
自分でも無理をしている自覚が多少はあったが、周りの反応を見ると相当に無理をしているように見えるようだ。
わたし的にはまだ平気なのだが、わたしはまだ五歳の子供だ。
周りから心配されて当然かもしれない。
ここは、これ以上心配させないためにも、笑顔で大丈夫とアピールすべきだろう。
「えへへっ……大丈夫だよ」
「笑って誤魔化しても駄目! もうっ!」
……駄目だった。




