23話 風邪? 〜体調不良じゃ済まなかったみたい1〜
わたしは昼食を済ませると、エステラと一緒に洗濯板や洗剤の報告も兼ねて、ノックスの待つ商会の倉庫へ向かった。
「薄めて洗剤に……」
洗濯板の報告を終え、洗剤の話をする。
肌を洗う物で衣類を洗うとは予想外だったらしく、ノックスに大きく驚かれた。
かなりの衝撃だったようで、いつもの暴走も忘れるほど、微動だにしなかった。
現在、ぬか石鹸の商品化は保留になっており、使い道がなかったので商会としても万々歳だろう。
洗濯板と違って、見ただけでは真似出来ないため、金額の方も期待できそうである。
「書類は用意してあるから。アイナ、あとは頼むね」
「あぁ、うん。わかった……」
何か閃いたようで、自信有りげな顔つきに変わったノックスは他の説明をアイナに任せ、足早に倉庫から出ていった。
すぐにでも、会長に掛け合うつもりなのだろう。
ノックスの後ろ姿を見送ったアイナが小さく頭を振り、エステラと顔を見合わせて溜息をついた。
「ああなると止まらないね……エステラ、わたしたちも行こっか」
「兄さん、工房へ行くの忘れなきゃいいけど」
多少の懸念を残しつつも、わたしたちは鍛冶場を訪ねることにした。
何か思いついた様子だったが、ノックスのことなので心配しなくても大丈夫だろう。
それよりも、今、ちょっとだけ立ち眩みのような感じがしたけど……。
……ん? まぁ、大丈夫でしょ。
◇ ◆ ◇
商会の倉庫でノックスと別れたわたしたちは、そのまま鍛冶場へと向かう。
わたしは、自分の発案で迷惑をかけていないか気になったので、アイナの話を聞きながら路地裏を進んだ。
案の定、立て続けに商品の発案が重なり、かなり忙しいようだ。
ほとんど仕事の割合を占めているのが、材料の確保らしい。
らしいというのも、アイナがまだ深く商会の仕事に関わっているわけではないため、あくまでノックスの傍で見ていた感想だ。
それにしても、わたしの心配は杞憂だったようだ。
確実に言えるのは、忙しそうだが笑顔と活気が店全体に溢れているということだった。
あくまで自分のために考えた商品だったが、こうして周りの人たちの反応を聞くと、わたしもちょっぴり嬉しく思った。
……料理もそうだけど、やっぱり周りが笑顔になるっていいよね。
鍛冶場へ向かって歩いていると、三馬鹿の路地に差し掛かった辺りでラウルに出会った。
やはり、この路地は遭遇率がやたらと高い。
だが、今回は鍛冶場に用事があるので、ラウルに出会ったのは運が良い。
背負った袋から木材が顔を出しているところを見ると、工房へ立ち寄った帰りだろうか。
わたしたちに軽く手を上げ「よう、あまり見ない組み合わせだな」と、ラウルが珍しい物でも見た顔で挨拶してきた。
エステラが手を上げて応じ「鍛冶場に用があるの。アンタも一緒に来て」と、手招きすると、「俺も?」と自身を指差し、ラウルが首を傾げた。
「そう、アンタも。仕事の依頼よ」
エステラがそう告げると、アイナが鞄から書類を取り出し、ラウルに見せる。
「レント商会からの書類もあるんだよ。丁度いいから、親方に取り次いでくれないかな?」
エステラとアイナにそう言われたラウルは「なんだ。そういう事か」と、納得した様子で頷いたが、少し間があって申し訳なさそうに口を開いた。
「親方さ、屋根の修理に行っちまっててよ。少し時間がかかるかもしれないぞ」
「あ~、雪に備えてかぁ。そんな時期だもんね……」
困り顔で「参ったなぁ~」と、エステラが頭を掻いた。
どうやら親方は留守らしい。
この時期は雪に備えて、屋根の点検や修理で忙しいようだ。
「二人はどうする? どっちにしろ、この書類も渡さないといけないし、ラウルに説明しながら待とうか?」
アイナの提案にエステラが頷く。
わたしも賛成だ。
ここで引き返してもしょうがないので、鍛冶場で親方を待つことになった。
ラウルの案内で、路地から馬車がすれ違える程の通りに出た。
その通りを北門の方へ進むと、黒く薄汚れた煙突から、灰色の煙をモクモクと吐き出している鍛冶場らしき建物が見えてきた。
……あれかな? いかにも鍛冶場って感じだね。温かい場所だといいけど――さっきから寒気がするんだよね。本当に風邪引いたかも。
なんとなく頭もぼ~っとする。
さっきも倉庫を出る時に、眩暈がしたような……。
昨晩、普段よりも長く窓を開けていたせいだろうか。
これは本格的に、風邪を引いてしまったかもしれない。
今日は帰宅したら、薬を飲んで休んだ方が良いだろう。
そういえば、病院のような施設はあるのだろうか。
今まで、重い病気や怪我はしてこなかったので、確認はしていない。
機会があれば、確認しておこう。
……さてと、今は大体どの辺かな?
確か、ポールの工房は路地から西側へ向かったので、三馬鹿の路地を中心に考えると、丁度反対側辺り。
歩いた時間から計算して、同じぐらいの距離だろう。
……家の北側辺りかぁ。お店に行くより近いかも。
途中で行商に声をかけられたり、三人の世間話に耳を傾けながら、テキトーに相槌を打っていると、三人の歩みが止まった。
どうやら到着したようだ。
近くで見ると、かなり大きく感じる。
大きな煙突に石造りの立派な建物だ。
「お茶でも用意すっから、とりあえず、中で待っててくれよ」
燃え難いようにと鉄板を打ち付けた木製の扉を開けて中へ入ると、大きな火を扱っているせいか、もわっとした空気が顔を包んだ。
……おぉぉ、もわもわだ。これはあったかい。




