70話 その先へ ~私が立ち上がる理由1~
街へ戻ると、空はすでに夕暮れに染まり始めていた。
森での一件を終えたライアットは、そのまま騎士団へ報告に向かった。
私は一人、肩にかかる疲労を感じながら家路につく。
玄関を開けると、ちょうどノックスも帰ってきたばかりのようだ。
帳簿を抱えたまま、少し興奮した様子で私に声をかけてきた。
「おかえり、ステラ……ちょうどいい知らせがあるよ」
「いい知らせ?」
「トバルから、大口の買い付けがあったんだ。量も種類も妙に多い。たぶん、買い付けの内容からしてルルなんじゃないかな」
「……ルルが」
……会いたい。
けれどすぐに不安がよぎった。
商会の仕事に同行なんて、できるだろうか。
私の顔を見たノックスは、少しだけ口元を緩める。
「護衛は、たぶん父さんかな。同行できるかは分からない。ただ……ルルのことだから、放っておいてほしいなんて思っていないはずだよ」
「でも……」
「ステラが会いたいなら、父さんに相談してみるといい。条件はつくだろうけどね」
ノックスの声は柔らかいけれど、いつものように核心を突いていた。
心臓がドクンと跳ねる。
……ルルに、会いたい。
その気持ちを胸に、帰宅するライアットに思い切って切り出す決意を固めた。
夕食後。
報告を終えたライアットが帰宅した。
私は玄関で待ち構えるように立ち、深呼吸して声をかける。
「……父さん、お願いがあるの」
ライアットは私の様子に少し驚いたのか、目を細め黙って続きを促した。
「トバルへの商会の荷馬車に……私も同行させてほしいの。ルルに……会いたい」
短い沈黙のあと、ライアットは深く息を吐いた。
「……そうか。お前の気持ちは分かる。だがな、護衛は仕事だ。遊びや寄り道じゃない」
「わかってる……」
ライアットの目がわずかに鋭くなり、声の調子が変わる。
「なら条件がある。御者台か荷台で静かにしていろ。商会の人間の邪魔はするな。そして――護衛中は父親じゃなく、警備隊長として指示を出す。その時は必ず従え」
仕事時の声。
普段の父ではなく、皆を守る男の響きだった。
けれど次の瞬間、少しだけ眉を下げ、柔らかい声で続ける。
「……それが守れるなら、連れていこう」
「はいっ!」
自然と声が大きくなる。
……父さん。
ライアットの口元がわずかに緩んだ。
訓練や仕事では決して見せない、あの甘い父の顔だった。




