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67話  笑い声 ~ようやく笑えた温かな場所2~



 わたしはまっすぐに子供を見て、できる限り優しく声をかけた。


「大丈夫。追い出したりしない。ご飯も寝る場所もある……ここじゃなくても、安心できる場所がちゃんとあるの」


 黒衣(こくい)の部下たちも、続けて口を開いた。


「アゼレア様のご命令だ。安心しろ」

「もう隠れて暮らす必要はない。堂々と守られるべきだ」


 子供たちが互いに顔を見合わせ、やがて小さく頷く。

 その動きを合図にしたように、全員が素直に馬車へ乗り込んでいった。


 部下たちが手際よく孤児を乗せていく。

 わたしたちの馬車も続き、町へと向かった。


 辿り着いたのは、かつてメネズが使っていた(やしき)の離れ。

 使われていなかった場所で、内部を改装した建物だ。


「ここが、君たちの新しい家だよ」


 わたしがそう告げると、子供たちはしばし戸惑い、やがて恐る恐る足を踏み入れる。


 広い部屋。

 並んだ寝台。

 清潔な毛布。

 

 鼻先をくすぐるのは、準備中の夕食の香り。


「あったかい……」


 小さな声が漏れ、やがて安堵の息が一斉に漏れた。

 その表情を見た瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。


 邸の離れには、既に数名の女中たちが待っていた。

 彼女たちは平民あがりで、元々は、アゼレアの邸で働いていたが、メネズにより追放されてしまった者たちだ。


「あら、いらっしゃい。元気そうね」

「あっ! おばちゃん」


 子供たちの顔を見ればわかる。

 おそらく、あの朽ちた屋敷跡で、彼女たちが隠れて世話をしていたのかもしれない。


 その中には見覚えのある顔もあった。

 あの晩餐(ばんさん)の夜、アゼレアに処分を言い渡された女中だ。

 きっと、メネズに取り込まれる前に、アゼレアが邸から遠ざけたのだろう。


 ……もうっ! 結局、あっちも、こっちも助けてるんじゃない。


「子供たちは私たちに任せてください」


 年配の女中がにこやかに言い、手を叩くと、子供たちは列を作らされて奥の部屋へ導かれていく。


 次々と湯あみに入れられ、身体の汚れを落とし、髪を()かれる。

 新しい服に袖を通した子供たちは、少しずつ表情を緩めていった。


 夕食には、温かなスープと焼きたての黒パン。

 大鍋からよそう湯気に目を丸くし、おっかなびっくり口にした子供が「おいしい」と呟く。


 それを皮切りに、ほっとした笑みが広がり、やがて賑やかな食卓となった。



 ◇ ◆ ◇



 その夜。

 新しい寝床に横たわる子供たちは、まるで安心を取り戻したかのように眠り込んでいた。


 その静かな寝息を背に、わたしとアゼレアは執務室へ戻った。

 机に腰を下ろすなり、アゼレアが問いを投げてきた。


「それで、どうするつもり?」

「どうするって……」

「保護して終わり?」


 射抜くような視線に、わたしはぐっと背筋を伸ばした。


「……終わりじゃない。生きていくためには、掃除や洗濯を覚えることも必要だと思う。それに文字の読み書き、計算も教えたい」


 アゼレアは腕を組み、顎に指を添える。


「それでは、平民の商家と同等の教育よ」

「それでいいと思う……孤児とはいえ、生きるために最低限必要なことは、誰だって学ぶべきだもの」

「誰が教えるの? お前が全てを抱える暇はないのよ」

「……」


 確かに、その通りだ。

 子供たちの面倒を、一人で見るのは到底無理。

 政務に加え、町の課題も山積している。


「……誰か、いないかな?」


 わたしは天井を見上げ、小さく呟いた。




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