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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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51話  冷静に ~残酷な事実~



 所々、雪が解け残っている山道を抜け、馬車は街道を進んでいた。


 沈む夕陽に照らされた農地が、視界いっぱいに広がる。


 さすが農業都市にある広大な農地だ。

 そろそろ開花時期を迎えそうな小麦畑が、風に揺れて波を描いていた。


 普段なら心穏やかになれそうな風景だ。

 でも、わたしの心は少しも穏やかではなかった。


 馬車に揺られながらも、服の裾をぎゅっと握りしめる。


「もうすぐね」


 アゼレアが何気なく呟いた。

 その声は、柔らかいのに冷え切っている。


 どれくらい経っただろうか。

 辺りはすっかり陽も落ちてきた。


 馬車が農地の奥へ進むと、視界の先にぽつんと古びた建物が見えてきた。


 壁は崩れかけ、窓は板で打ちつけられている。

 長く放置されているのが一目でわかった。


「……あそこは?」


 つい、疑問が口をついて出る。


「処分場よ」


 アゼレアは、まるで何でもないことのように言った。

 震えそうになる膝を、指で太腿をつねって誤魔化す。


 ……処分って……まさか、子供たちを……。


 ゆっくりと速度を落とし、馬車が廃屋の前で止まった。

 しばらく待つと、子供たちを乗せた荷馬車も到着した。


 遅れて来たダズマが、御者台から飛び降りる。

 数人の子供が荷馬車から降ろされ、痩せ細った子や、熱でうわごとを呟く子が前に押し出された。


「こいつらは使えません。手間だけかかりそうです」


 ダズマがぶっきらぼうに言う。

 アゼレアは静かに頷くと、視線も向けず淡々と指示を飛ばした。


「なら、置いていきなさい。残りは連れて行くわ」


 その言葉に、怖気が腹の底からせり上がってくる。


 ……やっぱり……処分って、そういう意味なの?


 わたしは喉が詰まったように声が出なかった。


 ……落ち着くのよ……今は、感情を出しちゃ駄目!


 その時、廃屋の影から黒衣の男たちが現れた。

 ダズマは一瞬驚いたように眉を上げたが、アゼレアは顔色ひとつ変えずに「任せたわ」とだけ告げた。


 馬車に乗っていた屈強な護衛らしき男が、子供たちを先導する。


 弱った子供たちは黒衣の男たちに受け渡され、屈強な男とともに静かに廃屋の奥へ消えていった。


 ……なにか、助ける方法は。


 結局、何も浮かばず、その光景をじっと見守るしかできなかった。


 やがて、荷馬車に残された子供たちが再び乗せられる。

 ダズマが手綱を握り、列はまた街道へ戻っていく。


「さて――行きましょう」


 アゼレアは何事もなかったように、優雅に扇をひらりと開いた。

 その顔には微笑みさえ浮かんでいる。

 わたしも必死に笑顔を貼り付け、表情を取り繕う。


 わたしはただ、その横顔を見ながら、冷たい恐怖に息を殺すしかなかった。




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