51話 冷静に ~残酷な事実~
所々、雪が解け残っている山道を抜け、馬車は街道を進んでいた。
沈む夕陽に照らされた農地が、視界いっぱいに広がる。
さすが農業都市にある広大な農地だ。
そろそろ開花時期を迎えそうな小麦畑が、風に揺れて波を描いていた。
普段なら心穏やかになれそうな風景だ。
でも、わたしの心は少しも穏やかではなかった。
馬車に揺られながらも、服の裾をぎゅっと握りしめる。
「もうすぐね」
アゼレアが何気なく呟いた。
その声は、柔らかいのに冷え切っている。
どれくらい経っただろうか。
辺りはすっかり陽も落ちてきた。
馬車が農地の奥へ進むと、視界の先にぽつんと古びた建物が見えてきた。
壁は崩れかけ、窓は板で打ちつけられている。
長く放置されているのが一目でわかった。
「……あそこは?」
つい、疑問が口をついて出る。
「処分場よ」
アゼレアは、まるで何でもないことのように言った。
震えそうになる膝を、指で太腿をつねって誤魔化す。
……処分って……まさか、子供たちを……。
ゆっくりと速度を落とし、馬車が廃屋の前で止まった。
しばらく待つと、子供たちを乗せた荷馬車も到着した。
遅れて来たダズマが、御者台から飛び降りる。
数人の子供が荷馬車から降ろされ、痩せ細った子や、熱でうわごとを呟く子が前に押し出された。
「こいつらは使えません。手間だけかかりそうです」
ダズマがぶっきらぼうに言う。
アゼレアは静かに頷くと、視線も向けず淡々と指示を飛ばした。
「なら、置いていきなさい。残りは連れて行くわ」
その言葉に、怖気が腹の底からせり上がってくる。
……やっぱり……処分って、そういう意味なの?
わたしは喉が詰まったように声が出なかった。
……落ち着くのよ……今は、感情を出しちゃ駄目!
その時、廃屋の影から黒衣の男たちが現れた。
ダズマは一瞬驚いたように眉を上げたが、アゼレアは顔色ひとつ変えずに「任せたわ」とだけ告げた。
馬車に乗っていた屈強な護衛らしき男が、子供たちを先導する。
弱った子供たちは黒衣の男たちに受け渡され、屈強な男とともに静かに廃屋の奥へ消えていった。
……なにか、助ける方法は。
結局、何も浮かばず、その光景をじっと見守るしかできなかった。
やがて、荷馬車に残された子供たちが再び乗せられる。
ダズマが手綱を握り、列はまた街道へ戻っていく。
「さて――行きましょう」
アゼレアは何事もなかったように、優雅に扇をひらりと開いた。
その顔には微笑みさえ浮かんでいる。
わたしも必死に笑顔を貼り付け、表情を取り繕う。
わたしはただ、その横顔を見ながら、冷たい恐怖に息を殺すしかなかった。




