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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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51話  冷静に ~ちょっとマズイかも~



 交信をしつつも、馬車の中には依然として沈黙が流れていた。

 わたしはただ背筋をぴんと伸ばし、膝の上で小さな手を組んでいた。


 ふいにアゼレアが口を開く。


「……どうして、あの子たちを庇ったの?」


 何気ない問いかけのように聞こえた。

 けれどその声には、きっと柔らかな毒が忍ばされている。


 彼女は所長やフレデリカとは違う。

 失言ひとつで、命の危険に繋がる気がする。


 わたしは、強く心臓が脈打つのを感じた。

 けれど、怯えた素振りを見せては駄目だ。


 ゆっくりと視線を上げ、アゼレアに向かって小さく笑ってみせる。


「……庇ったわけではありません。ただ、放っておけなかっただけです」


 アゼレアの瞳が、面白がるように細められる。


「そう。随分と勇気があるのね。普通の子供なら、怖くて逃げ出すはずなのに」


 挑発するような言葉。

 でもわたしは、にっこりとできる限り澄ました笑顔を返した。


「勇気なんてありません……ただ、誰かが泣いているのを見過ごすのが嫌なだけです」


 沈黙したまま、琥珀色の瞳が、まるで宝石を吟味するようにわたしを眺めていた。


 やがて、彼女は小さく笑った。


「……やっぱり、いいわね。あなたみたいな子、嫌いじゃないわ」


 ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。

 その嫌いじゃないという言葉は、ただの好意じゃない。

 獲物を見つけたような喜びが、込められているように感じた。


「それに、あの二人のことなら安心していいわ」


 アゼレアは、指先で窓の縁をなぞりながら続ける。


「特別に見逃してあげた……本当なら口封じをしても良かったのだけれど」


 ……こいつは、マジでやばい女だ。


 言外の意味が、鋭い刃となって胸に突き刺さる。

 わたしは必死に表情を崩さないよう、唇の端を吊り上げた。


「……寛大なお心遣い、ありがとうございます」


 まるで貴族に仕える従者のように、優雅な口調を真似てみせる。

 アゼレアは声を立てて笑い、扇で口元を隠した。


「ふふっ……本当に面白い子ね。ますます気に入ったわ」


 馬車はゆっくりと街道を進む。

 夕刻の陽光が窓から差し込み、アゼレアのオレンジゴールドの髪を赤く照らす。


 ……むぅ。まいったなぁ。


 ついに所長の声が全く聞こえなくなった。

 本当に捕まってしまったんだと実感すると、胸の鼓動がドクンドクンと速まる。


 けれども、わたしは微笑みを崩さず、ただ窓の外へと目を向けた。






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