表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/179

50話  絶望に抗う ~小さな勇気3~



 私は震えながら、倒れたエステラの手を必死に握りしめていた。


「この子たちには……そうね、余計なことは忘れてもらいましょう。ダズマ」

「承知しました」


 アゼレアの声が耳に届いた瞬間、私はぞっとした。

 ダズマがこちらに一歩、また一歩と近づいてくる。


 ……何をする気なの?


 その指には、淡い光を宿した指輪が輝いていた。

 ダズマが手のひらを動かすたび、視界が揺れる。


「……いや……エステラ……」

「……な、なんなの……これ……」


 二度、三度……そして、四度目。

 何かを必死に掴もうとしても、思考が霧の中に沈んでいった。


 隣のエステラの声も遠ざかっていく。

 けれど、不思議なことに、雨音が頭の中で静かに響く。

 その一滴、一滴が、すぅっと霧を晴らしていく。


 私の胸の奥でも、かすかな温もりが灯っていた。


 小さな光が脈打つみたいに、私を支えてくれる。

 そのおかげで、完全に沈むことはなかった。


 そんな私を、アゼレアがふと見やった。

 彼女はほんのわずかに目を細め、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。


「……ふふ、なかなか勇気があるのね。嫌いじゃないわ」


 低く響くその声。

 次の瞬間、ひらりと私の足元に何かが転がってきた。


 ……金貨?


 陽の光を受けてきらりと輝く、一枚の金貨。


 朧げな意識の中、拾い上げると、手のひらに冷たい感触が伝わる。

 それが何なのかを問う暇もなく、アゼレアは振り返り、翻る裾を揺らして言った。


「よろしい。あとは任せるわ」


 それだけ告げると、彼女は妹ちゃんを連れ、優雅に去っていった。

 夕暮れの光に、その背は妙に長く影を伸ばしていた。


 ダズマが鼻を鳴らし、わたしたちを見下ろしながら言った。


「あの御方の気紛れに感謝するんだな、小娘」


 徐々にダズマの足音が遠ざかる。

 ガタリと軋む車輪の音が、頭の奥で鈍く反響していた。


 ……気紛れで見逃された。


 気づけば立ち上がっていた。

 けれど何も考えられず、ただぼんやりと立ち尽くす。

 時間の感覚も曖昧になり、あったはずの恐怖すら霧に覆われていた。


「……ふう、やれやれ。なんて無茶を」


 声が聞こえた。

 次に肩に触れられて、はっとする。


 ぼやけた視界に映ったのは、眼鏡の奥で光る瞳。

 見慣れた顔――役人のトランだった。


「二人とも、もう大丈夫ですよ。寿命が縮みましたよ……さて、どう報告したものか……って、お、おいっ」


 その声に、不思議と胸がほどけていく。

 安心感に包まれ、私はそのまま意識を手放した。



 ◇ ◆ ◇



 ぽたり、ぽたりと音がする。


 ……雨? ……ちがう、私は……ん? 誰かの声がする。


「……でもっ!」

「追うのは駄目だ。相手は貴族だ。嬢ちゃんが身代わりになった意味を考えろ! あのままじゃ、二人とも死んでたぞっ!!」


 エステラを止めるトランの怒声が聞こえた。

 どれくらいこうしていたんだろう。


 私が目を覚ましたとき、頭の霧はすっかり晴れていた。

 あの時の出来事も鮮明に憶えている。


 アゼレアの冷たい瞳。

 エステラを吹き飛ばした力や、妹ちゃんの凛とした声も。


 そして、あの金貨。

 いや、幻覚でも見ていたのだろう。

 私が握っていたのは金貨ではなく、小さな黒い石だった。


 ……金貨だったような? どういうこと?


 なぜ彼女がそんなものを私に渡したのか、理由なんて分からない。

 戯れの延長だろうか……。


 でも、これだけは確かだ。


 あの目を忘れることなんて、絶対にできない。

 妹ちゃんを取り返さないと。


 ――「絶対、諦めないで」


 ……うん。妹ちゃん、もう、諦めないよ。


 あの時、全てを投げ出して、街から逃げていたら……。

 きっと、後悔で押し潰されていたかもしれない。


 だから、決めた。

 もう、諦めないって。


 ……妹ちゃんを助けることができる人は……。


 頭に浮かぶのは、貴族でもある、あの人しかいない。

 訪ねるのは怖いけど、逃げている場合じゃない。


 私は体を起こし、エステラとトランの会話に割って入る。


「トランさん、所長に会わせてもらえませんか?」


 力になれるかは、わからない。

 でも……今は伝えなくちゃ。


 今の気持ちを忘れないように……。

 私は黒い石と一緒に、ぐっと拳を握り込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ