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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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50話  絶望に抗う ~小さな勇気2~



 エステラを助けたい。

 でも、目の前の少女が怖くて、一歩が踏み出せない。


 それでも。


 ……絶対に、絶対にエステラだけは守る。


 私は精一杯、睨み返す。


「この娘はたしか……」


 ……ダズマ。


 忘れるはずがない。

 随分と瘦せ細り、顔もやつれているけど……。

 この男は、私を買い叩こうとした人買いだ。


「……顔を見られましたな。これは面倒です」


 あの時の芝居じみた声と全く違う。

 これが本物の奴隷商の顔つき。


「アゼレア様、いかがいたしましょう?」


 その低い声に、膝が震えそうになる。


「ならば、処分してしまえばいいではないか」


 アゼレアと呼ばれた少女が、まるでゴミを捨てるかのように淡々と告げた。


 その一言で、私の背筋は凍りついた。

 年齢は私より少し上に見えるだけなのに、声音は氷みたいに冷たい。


「やめなさいっ! 人身売買は禁止されているわ。後ろの子供たちを解放しなさい」


 声をあげ、立ちはだかったのはエステラだった。

 両手を広げ、私を庇うように。


 だけど、目の前の少女は薄く微笑んだ。


「それだけ?」


 アゼレアの瞳がわずかに光ったように見えた。

 突然、キィーンと耳鳴りがして、空気が弾ける。


 次の瞬間、エステラの身体が勢いよく後ろに吹き飛んだ。

 地面に叩きつけられる鈍い音に、私は血の気が引いた。


「エステラっ!」


 駆け寄ろうとした私も、膝が笑って動けない。

 もうだめだ、と思ったその時――


「その子たちに手を出すのは、やめていただきたいですね。通報しておいた衛兵も、そろそろ到着しますよ」


 夕暮れの光の中、凛とした声が響く。

 振り向いた先に立っていたのは、妹ちゃんだった。


「妹ちゃん!」


 思わず叫ぶと、胸が少しだけ軽くなる。

 助かったんだ、と本気で思った。

 だって、妹ちゃんは衛兵を呼んであると言い切ったのだから。


 ……でも、なんで……ここに?


「ここに留まると、あなた方が困ることになるでしょうね」


 自信に満ちた声。

 その姿は小柄なのに、どこか堂々として見えた。


「アゼレア様……」


 ダズマが焦りとともに、アゼレアへ振り返った。

 私はその隙に、エステラの元へ駆け寄る。


 ……意識はある。エステラは大丈夫。


 私は信じ切っていた。

 妹ちゃんは、この場を切り抜ける方法をちゃんと知ってるんだって。


「……ふふ。衛兵ね」


 なのに、あの女は……。


 アゼレアの口元がわずかに弧を描く。

 まるで、妹ちゃんの言葉がはったりだとでも言うように。


 でも、彼女は口には出さなかった。

 むしろ、この状況を楽しんでいるみたい。


「そうねぇ、この子たちは見逃してあげる。その代わり……」


 その視線が妹ちゃんに向けられる。

 あの目は、まるで獲物を値踏みするような……欲しがる目だ。


「あなたを、いただくわ」


 少女の声が、夕刻の空気を凍らせた。


 ……だめ。妹ちゃんを、連れていかないで。


 妹ちゃんが私を見て、小さく頷いた。


「わかりました」


 ……なんで……なんでよ。




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