50話 絶望に抗う ~小さな勇気1~
……あれだ。
荷馬車の幌にかすれて書かれたトバの文字。
その下から漏れてくる小さな泣き声に、胸がぐっと締めつけられる。
……間違いない……子供たちが閉じ込められてる。
私は隣にいるエステラの手を強く握った。
肩が細かく震えているのが、伝わってくる。
今まで我慢してきた分、子供たちの声に今にも暴発しそうな感じだ。
私が倉庫街でダズマを見たなんて言わなければ……。
最初は、ただの興味本位。
追った結果、そこで何が起こるのかを想定していなかった。
仕事中、エステラの違和感にノックスは何かを感じていた。
だから、忠告してくれたのに。
――「何をしているのかは知らないけれど、無茶はだめだよ」
……ごめん。ノックス。深追いしすぎたよ。
ふいに、握った手に力が加わるのがわかった。
嫌な予感がして、エステラに顔を向ける。
「もう我慢できない!」
「しっ、エステラ!」
慌ててその口を押さえ、私は低い声で囁いた。
声をあげれば、私たちの存在はすぐに気づかれる。
でも、エステラは潤んだ瞳で私を見返してきた。
「だって……泣いてるんだよ! 子供たちが、助けてって!」
その言葉に、私も胸が痛くなる。
本当は今すぐにでも飛び出して、馬車の幌をひっぺがしてやりたい。
でも、頭のどこかで理解していた。
……私たちはまだ子供……正面から行っても、絶対に敵わないよ。
「待ってよ、エステラ。まずは誰かに伝えなきゃ」
そう言って必死に彼女の手を握りしめる。
けれど、次の瞬間――
「ごめん、アイナ!」
掴んでいた手から、エステラの手がするりと抜けた。
エステラが夕暮れの光の中へ駆け出していく。
その姿に、自分でもわかるほど焦りが増す。
「エステラ!! 駄目っ!!」
私も慌てて追いかける。
でも――遅かった。
荷馬車の前で頭を下げていたダズマの鋭い視線が、エステラに向けられた。
そして、その後ろに立っていた少女が私の目に入る。
彼女は私とそう変わらない年頃――たぶん十五歳前後だ。
けれどその佇まいは、どこか恐ろしい。
「……あら? 可愛い子猫が飛び出してきたわね」
夕暮れの光に照らされた微笑みは、あまりにも綺麗で残酷だった。
彼女の瞳に射抜かれた瞬間、私は思わず足を止め、息を呑んだ。
人を人として見ていない目。
……だめ、エステラ……この子……この子が一番危険……!




