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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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49話  影を追う ~赤き魔性~



「ダズマか……」


 低く、しかし、よく通る声で少女が名を呼ぶ。


 二人の男はぴたりと動きを止め、子供たちは硬直した。

 次の瞬間、行商風の男は振り向くと、慌てて跪き顔を伏せた。


 ……え、あの人、今……ダズマって。


「あれが? ……ダズマだって?」


 トランが呟き、驚愕の表情を見せた。

 だが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。

 頭を振って、観察を続けている。


 どういうことか確認したかったが、今はわたしも目の前に集中する。


「アゼレア様……な、なぜ、ここへ」

「なぜ?」

「い、いえ……よ、ようこそお越しくださいました。まずはご報告申し上げます」


 アゼレアと呼ばれた少女の瞳は冷ややかだった。

 まるで、全てを見透かしているかのように。


 遠目に見えるエステラとアイナも、男の動きをじっと見守っている。

 二人はまだ建物の陰から動かず、様子を伺っているようだ。


 わたしも息を潜める。

 紙にかすかな手書きの文字を走らせながら、この一部始終を記録していく。


 ここから何が始まるのだろう。


 ……わたしも全部書き留めないと。



 現れた一人の少女。

 十五歳前後だろうか、けれどその振る舞いは歳相応のものではなかった。


 ……お兄ちゃんやアイナより、少し上かな?


 落ち着き払った足取りと、他人を値踏みするような冷たい眼差し。

 その雰囲気だけで、只者ではないと分かる。


 アゼレアと呼ばれた少女は、夕日の光を受けて立ち止まる。

 少女でありながら、その立ち姿は威圧的ですらあった。


「また随分と集めたのね、ダズマ……その荷馬車、重たそうじゃないの?」

「い、いえ……こちらは試しのために選別したものでして。間もなく運び出す手筈でございます」


 ……運ぶ!? 子供たちをどこへ……?


「言い訳?」


 ダズマは見ていてわかるほどに焦る。


「そ、そのようなことは……も、申し訳ありません。冬の到来が思ったよりも早く、雪解けまで潜伏しておりました」


 行商風の男――その存在が、今や一人の少女の命令に従っている。


「……そう」


 呼吸することを忘れて、気づけば手も止まっていた。


 わたしは慌てて紙に書き留める。

 だが、手が震えて、筆の先がカリカリと紙を掻いた。


 あの少女を見ているだけで、震えが止まらない。


 アゼレアは小さな顎に手を添えて、荷馬車を覗き込む。

 その表情は少女らしさとはまるで無縁で、淡々とした冷ややかさだけがあった。


「……泣いてばかり。見ていて退屈ね。どうせなら、もう少しマシな素材を揃えられないの?」


 ダズマは、さらに低く頭を下げる。


「は、はい! ですが、アゼレア様……商家の子女などは、どうしても警戒が……」

「言い訳は聞き飽きたわ。次こそ私を楽しませなさい。でなければ……」


 アゼレアがにっこりと微笑んだ。

 その顔は少女そのものなのに、背筋が凍りつくほど冷酷だ。



「わかっているわよね?」

「は、はい。必ずっ!」


 アゼレアが、地面に額を擦りつけるダズマを見下ろす。

 その姿は、どう見ても普通の少女とは思えなかった。


 ……楽しませる? 素材? 人のことを物扱いなんて……。


 わたしは息を殺し、震える手で記録を続けた。


 夕日が赤く紙面を染めるたびに、その少女の影が大きく伸びて――まるで、わたしの上に覆いかぶさってくるようだった。







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