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私の秘密は増えてゆく ~この幸せを守るため――だからわたしは仮面をかぶる~  作者: 月城 葵
三章    少女と暴かれる秘密

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46話  噂の出処 ~日常の陰に潜むもの2~



 翌日、二の鐘が鳴り講義室へ向かう。

 元々、講義の日だったので予定通りだ。


 エステラはお父さんと訓練を満喫中。

 組合制度導入以降、お母さんとノックスも大忙しで自宅と仕事場を行き来していた。


 正直、わたしが留守番じゃなくてよかったかもしれない。


 ……わたしがいたら、目を離せなくなっちゃうからねぇ。


 昨日の報告会の内容から、毒トマトの件は騎士団に引き継いだようだけれど、例の噂の調査に進展はあったのだろうか。


 しばらく講義室で待っていると、時間通りに所長が入室した。

 席に着くのを合図に、トランによる報告が始まった。



「街に出入りしている商人の記録を洗ったんですが……どうにも不可解なものがありまして」


 トランが机の上に書類を置いた。

 眼鏡の奥の目がきらりと光って、なんだかちょっと怖い。


 ……うぅ、真剣モードのトランさんって迫力あるね。


「不可解とは?」


 所長が低い声で問い返す。


「はい。リュード商会と名乗る商人です。記録上は存在していますが、実際に取引したという商人が一人も見つかりませんでした」

「そ、それは、記録だけが残っているということでしょうか?」


 わたしは、若干興奮気味に口を開いた。

 気持ちに引っ張られて、声が上ずりそうになる。


 ……えっ!? なにそれ……帳簿にはあるのに、誰も知らないって……幽霊商人! 幽霊なら是非会ってみたいっ!


「取引記録は整っている。だが、それを裏付ける証言が一切ない、か」


 書類を手に取った所長の声は落ち着いていた。


「……あの、前におっしゃっていたことと同じではないでしょうか。証拠と証言が合わないときは、必ずどこかに歪みがあると」


 わたしは講義の言葉を思い出して繋げる。


 ……あっ、やば。


 紫色の瞳がこちらに向く。


「……ふむ。よく覚えていたな」


 小さく頷かれて、ほっと息を吐いた。

 興奮しすぎて調子に乗ったけど、これはセーフだ。


 ……バカ、バカ。遊びじゃないのに。


「記録だけが存在する商会……その背後を慎重に探る必要があります」


 トランの声は低くて、ますます真剣さが増していく。


「他にも気になる点があります」


 トランは書類を指で示しながら続けた。


「リュード商会の帳簿上の取引品は、ごくありふれた生活用品ばかりです。布地や塩、穀物など。しかし、それにしては金額の流れが大きすぎます。例えば、布地十反と塩五袋で、金貨十枚。常識的にありえません」


 ……それは絶対ぼったくりでしょ!


 心の中で思わず叫んでしまった。

 

 だって、いくらわたしでも分かる。

 布と塩って、そんなに高くない。


 口から出そうになったけど、半開きの口を慌てて閉じる。


「つまり、実際には別の品が動いているということだな」


 所長の低い声が響く。


「はい。取引に関わった者が見つからないのも当然でしょう。帳簿には布と塩と書かれていますが、実際に運ばれているのは……」


 トランは言葉を切って、少し渋い顔をした。


「武具か、あるいは禁制品の可能性があります」


 ……禁制品! やっぱりそういうやつなの?


 昨日の所長の呟き。

 あの時すでに、所長はなんとなく察しがついていたんだろうか。


 その横顔からは、何も読み取れなかった。




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