赦し
朝目が覚め、布団から飛び起きてハッとする。今日は稽古はなしか。ハンナはぼんやりとし、ぼさぼさの髪を撫でながら欠伸をした。
クラウスとの約束で稽古や夢を見ることを禁じられているので、やることがなかった。口を大きく開け、欠伸をする。
こんなのはいつぶりだろう。ああ、姉さんを起こしに行かなくては。ふと思い、寂しくなる。
ため息をつき、ベッドから降り、宿屋の一階へ行く。昼間は小さな市場になっていて、何人かの人がいた。
「稽古は良いのかい?」宿屋の主人が訊いてくる。
頷き、ぼんやりと外を眺めていると、見覚えのある背中が見える。
「クリスティーナ」ハンナが呼ぶと、少女は振り返り、意外な顔をした。
「あれ、稽古は?」
「休めって」
「その方が良いよ。あんたは頑張りすぎだ」
そんなことはない。まだ足りない、そう言おうとすると、
「じゃあ、暇でしょ。あたしんとこ来なよ」そう言って、クリスティーナは自分の宿に連れて行ってくれた。
相変わらず部屋は散らかっていた。
姉さん、片付け下手だったな。いつも私に掃除させて―
「大丈夫かい?」クリスティーナが心配そうに見つめてくる。
気が付くと、涙ぐんでいたようで、
「どうした、大丈夫かい?」
大丈夫、と言おうとして嗚咽する。大丈夫なわけがない。私が弱いから皆死んでしまったのに、こんなところでゆっくりとしている。
「全然強くなれなくて……どうして、どうして!」ハンナは傷だらけの腕を見る。そして、力任せに腿を殴る。悔しくて涙が止まらない。
ふと、温かく柔らかい物に包まれる。
「よしよし」クリスティーナが優しく、ハンナを抱擁していた。
「自分を好きになれないんだね……分かるよ」
ハンナは、クリスティーナに身体を預け、背中をさすられるがままになっている。
「でもね、少しは自分を許したり好きになってあげたりしても良いんじゃないか。あたしはあんたが死にもの狂いになって稽古を続け、吐きながら《祝福》を使い、みんなのために戦ってきたのを見てきた」
クリスティーナはそう言い、ハンナを見つめ、
「死んだ人のためにできることなんかない。でも、何かしようって思ってしまうのはしょうがないこと。でもね、過去を悔いて、未来を変えようとしている自分は、昔の自分とは違う」
少しでも自分を赦してあげて。
クリスティーナの言葉に胸に詰まっていたものが溢れるような感触に包まれる。
しかし、同時に疑念も浮かぶ。また大切な人を失ってしまうんじゃないか。戦い続けるという罰を背負うべきなんじゃないか。
―分からない。
ハンナは微かに逡巡し、 「ありがとう」




