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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
330/605

婚約者編 夏69

支援センターの前を通ると裏庭のほうから

『いてっ』

と声が聞こえてきた。

例のあの子だろうと思い、そのまま声をかけずに通り過ぎようとしたら裏庭から一人の少年が飛び出してきた。

『スバル!てめぇなんなんだよ!』

あちこち擦りむいている。

『何って実力みてるだけだよ。俺にも勝てねぇなら冒険者なんて無理だからな』

少年を追ってスバルが裏庭から出てくる。

『ほら、戻れ。危ないぞ。』

スバルの言葉に少年が地団駄を踏む。

『くそ!』

私に気づいたスバルは表情を変えずに言う。

「リオ様、今日は支援センターに顔を出さずにお帰りください」

『何言ってんだよ!』

『通行人に詫びただけだよ。お前が通行の邪魔だったからな。あと騒ぐな』

他人のふりをしろと言われた。スバルは少年の腕を引き、センター内へ戻っていく。

千加が難しいと言ったのが、なんとなく分かる気がする。

「リオ様、今のは」

「新しい転移者です。難しい方のようなので、ある程度の教育が完了する少しの間、支援センターへ顔を出すのは控えます。」

「かしこまりました」

「それとミランダ。レオナルドさんの依頼の件ですが、」

「予定を調整致します。ですが、旦那様の許可が必要です」

「わかっています。それは私が説明します」

屋敷に戻りミランダに

「フレッド様に話があると伝えてください。その間に支度します」

依頼する。

「かしこまりました」

エドナが部屋で作業をしていた。

「おかえりなさいませ、リオ様」

軽く汗を流し支度を整えていると、夕食後ゆっくりと話そうと返答があった。

「そうですか、ありがとうございますミランダ」

「確実に叱られることを覚悟して説得してください」

「う、わかってます。でも必要なことですから、まずは大森林に行かなくても手に入れる方法があるか探って、あー折角ギルドに行ったのに」

急に思い出して頭を抱えた。

「どうされましたか」

「ギルド長にお願いするの忘れてました。明日またギルドに行きます。」

ギルド長は解任されなかった。

ニビ、スレート、フォッグのギルド長から後任育ててから辞めろとぼこぼこにされたと聞いたがどこまで本当なのかは分からない。

「では面会予約を入れておきます。魔素循環器をギルドで保管しているかどうかの確認でよろしいですか?」

「はい。お願いします」

お茶を運んできたエドナが

「リオ様はレオナルド・スカーノ様の研究を調べていらっしゃるのですか?」

と彼の名前を挙げた。

「ええ。エドナはどうしてそれを」

「レオナルド様は母が以前料理店を営んでいた時の常連様でしたから。よく魔素循環器の話をされていました。研究進度が思わしくないとよく嘆かれていました。」

「その研究に必要な魔素循環器を集めることにしました。」

「それは危険なのでは」

「危険の少ない方法を試して、どうしても無理なら大森林に行ってきます」

「エドナが叱ればリオ様も考えを改めてくれるかもしれませんよ。お願いします」

ミランダが部屋を出て行く。

エドナはミランダの背を困った様子で見送り、私に向き直る。

「リオ様、事情をお伺いしてもよろしいでしょうか」

エドナにレオナルドと会ったことと基礎研究としての情報が揃いきっていないことを憂慮して揃えることを自分から願い出たことを話す。

「そのお考えは間違っていないと思います。ですがそれだけでは大森林への出入りを旦那様達が認めるとは思えません。貴女様だからできる意味のある理由を追加しましょう」

エドナの言葉に戸惑う。

「エドナ?反対しないの?」

「ミランダが押さえられないのですから、わたくしでは無理です。ならば、より安全に事を運べるように考えたほうが建設的です」

エドナと二人、どうすればいいか考える。

「まずは冒険者ギルドで保管されているか確認をします」

「はい。個体差が出ない魔素循環器は欠損していても、無事な部分同士を合わせれば問題ありません。もしくは売った先を尋ねるのもよいかと」

「あ、そっか。」

「あとこう言ってはなんですが、レオナルド様の名前に信用がございません。リオ様が同じ依頼を出すと結果は違うと思います」

信用、か。それに、

「エドナはすごいです。私は無事な魔素循環器を集めなきゃって思ってたのに欠損したもの同士を繋げるなんて考えつきませんでした。そっかそれなら冒険者ギルドにたくさんありそうです」

エドナの言う通りだ。

魔素循環器で討伐した魔獣を判断するってことはその元になる情報がある。完璧じゃなくてもそれに近い精度だ。

「一介の研究者には売れなくてもリオ様になら情報を開示または現物を売ってくれるかもしれません。ご自身のお立場を理解して活用すると良いですよ」

もしそれで駄目なら別の方法を考えればいいとエドナが微笑む。

「レオナルド様は人に頼ることを知らない方です。魔素循環器を研究している研究者は少なくありません。その方達を頼ればよいのにと母がよく零していました。」

「う、身につまされます」

「ふふふ」

「エドナ、ありがとうございます」

「いいえ。リオ様のなさりたいことはとても重要なことだと思いますし、そのお手伝いができてとても嬉しく思います」

ミランダが戻ってくるまでこの作戦が駄目だった時の代案を考えて過ごす。

冒険者としてではなく、視察などの名目で護衛をつけた状態で赴くほうがいいのではと結論づける。

「まさか、本当にリオ様の考えが変わっていて驚いています」

ミランダもエドナに方法を聞き、目から鱗だと感心している。

「すみません。私がリオ様なら完璧な状態の魔素循環器を集められるなどと安易な発言をしなければこんなことにはならなかったのに。申し訳ございません」

「いえ、私も安請け合いしすぎました。ごめんなさい」

互いに謝り合う私達をエドナが微笑ましく見守っている。

「お二人は姉妹みたいですね」

エドナの言葉に

「漏れなくとんでもない兄がついてきます」

と、はもってしまった。

「ふふふ。息もぴったりですね」

コンコンとノックの音がして

「失礼致します。?リオ様、どうかされましたか?ミランダと同じ表情になってますよ?」

セラが入室する。セラにまで似たようなことを言われる。

「なんでもありません。それで、何かありましたか?」

「あ、はい。今朝リオ様に協力いただいた件で報告があります。占い師は確保、元神官の貴族で去年神殿から追い出されたことで領主一族に恨みを抱いていたようです。」

「神殿から追い出されたって何をしたのですか?」

「酒に酔って街中で魔法を乱発し多数の怪我人を出しました。初犯ではなく何度も繰り返している為神殿長も庇いきれず解雇に至ったようです。」

「あの方ですか。」

「あの人ね」

ミランダとエドナがため息をつく。どうやら有名人のようだ。

「神官としてとても優秀な方でした。子ども達にも慕われていたのですが、残念です」

「嫌がらせのつもりで領主邸に出入りする使用人を狙った。誰でも良かったと自供しています」

なんだその通り魔のような証言は。

「文書は自分で作ったのでしょうか」

歴史に疎い人間なら信じてもおかしくない程度に作り込まれていた。

「神殿にいた頃に集めた知識を詰め合わせたと証言しています。アン・フレイマンについての記述も神殿に残っている資料を読んで書いたものだそうです。」

「そう。セラは読みました?」

「はい、魔術を解除した後にレギー様から読んで感想をと言われたので読みました。」

感想?文官にまで知れ渡っているのだろうか、セラの本好きって。

「どうでした?」

「歴史書と全然違うので、小説を読んでいるようでした。歌劇とか書けば面白いのにと残念な気持ちになりました」

文書の一節を誦じて

「ここは歌劇ならば盛り上がりますよ!」

とセラが熱弁を振るう。



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