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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
329/605

婚約者編 夏68

荷車を押す私を見てミランダが、荷車の形を変えるように言う。ミランダの説明通りに荷車の形を変化させる。

「ではここに乗ってください」

なんの為のスペースだろうと思ったら乗る用だった。私が乗ると、ミランダがその横に片足だけ乗せ、後方に向けて勢いよく風魔法を放つ。

直線的ではあるものの、凄い速さで進む。

「きゃっ」

「口は開かないように。舌を噛むので注意してください」

荷車のハンドルを強く握り締める。

徒歩で進んだ時間を嘲笑うかのような信じられない速さでクロムの近くまで戻ってきた。

「……」

「リオ様?大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です、驚きで言葉が出ないだけです。」

激しい動悸が静まるまで、ゆっくり深呼吸を繰り返す。

改造した荷車を元の形に戻し押して進む。

「吃驚しましたけど、帰りは楽でしたね」

西門の前に差し掛かった時、

「いぃ、やぁー!!」

遠くから悲鳴が聞こえた。

すぐさま声のほうを確認すると、遠くで一人の少年が大きな虫にたかられていた。特徴的な形をした虫に心が躍る。

「オオカブトだ、カッコいい……じゃない!助けにいきます」

荷車から手を離し少年の方へ走り出す。

魔力を薄く伸ばし虫取り網のようにして、それに長い柄をつける。

泣きながら蹲る少年の背中にたかるオオカブトを逃げられてはいけないと網で捕まえた。その大きさに驚くよりもときめきのほうが勝つ。

素手で掴み、上から下からうっとりと眺める。

「カッコいい」

オオカブトの足に魔力の糸をつけて、自分の左肩に乗せた。

存在をすっかり忘れていた少年を思い出す。

号泣している少年に声をかけると

「ひぃ」

青い顔でオオカブトに怯えた。

「大丈夫ですよ。ちゃんと繋いでいますから。吃驚しましたね、君は何処からきたのですか?」

「ひっく、北門の前から、う、ぐす」

号泣しながらも答えてくれた。かなりの距離を一人で逃げてきたことに驚く。北門から西門までは子供の足では遠い。

「じゃあ、一緒に行こうか。」

右手を差し出す。それに捕まり少年は立ち上がるも足が震えていた。恐怖と疲労から足にきているのが分かった。

「抱きかかえますから、動かないでね」

右腕で抱きかかえる。ミランダが私達に近寄る。

「リオ様。何ですか、それは。野に放ちなさい」

ミランダは私の左肩のオオカブトを見ると冷たく言い放つ。

「う、ちょっと観察したいので、あとでちゃんと逃がします」

「全く。」

「私は彼を北門へ連れて行きます」

北門へ行こうとすると、ミランダから止められた。

「駄目です。一緒に行きます」

ミランダは魔獣を積んだ荷車を西門の門番に託してきたようですぐに同行する。

しばらく歩き、北門に到着すると自分の目をちょっと疑った。

北門では混乱が起きていた。門番がオオカブトを追い払おうとしているのが目に映る。

複数匹のオオカブトが他にも人を追い回している。

何でだろ。比較的大人しい昆虫だけどな。甘い香りでもしたのかな?荷馬車等に集まっている様子はない。

「ミランダ、風魔法で一帯を消臭できますか?それか風を吹かせて匂いを散らすとか」

「やってみましょう」

ミランダが風を吹かせる。すると、オオカブトは風が吹き抜けたほうへ飛び去っていった。肩に乗せたオオカブトはしばらく大人しくしていたが動きだした。どうやら行こうとしているのは私の右側だ。

「何か甘いものでも食べていたのですか?」

少年に尋ねると

「果物を食べたけど」

そう返答があった。

「それは熟していますか?」

「え、うん。果汁がたくさんで手がべとべとになったけど美味しかった!」

「なるほど、ならばそれに釣られた可能性があります。彼等は甘く熟した果物が大好きなのです。」

「大好きなんだ、知らなかった。」

自分が追いかけ回された理由がわかって安堵する少年を、家族の元に帰した。なんとなく左肩のオオカブトの視線が少年を追っているような気がする。

果汁が原因の可能性を示唆し手を拭くように伝えた。

「じゃあね!お姉さん!ありがとう!」

少年と別れ、西門に戻る。

門番は少し困った様子でキョロキョロしていた。

私達を見ると、大きく手を振った。

「どうしましたか?」

「リオ様、さっきの荷車なのですが、これは誰のだとさっきからしつこく聞く男がいて困っているのです。」

「わかりました。わたくしが対応致します。ご苦労様」

門をくぐり、クロムの中へ戻る。普段は利用しないので西門をくぐるのは初めてだ。

私の荷車の前にいる門番と見知らぬ男性に声をかける。

「わたくしの荷車に何か御用ですか?」

「リオ様!」

「後はわたくしが対応致します。ありがとうございました。持ち場へ戻ってください。」

「は、はい」

門番の青年は私の左肩辺りへ視線を向けつつも何も言わずに持ち場へ戻っていった。

荷車をじっと見ている男性に向き直る。

「何か御用ですか?」

濃い金の髪に同色の立派な髭を蓄えた男性は私を見ると

「これは貴女のものか。」

淡々と尋ねる。

薄汚れた白衣の胸元のポケットには手帳と筆記具がささっている。

「はい。」

「……魔素循環器は無事だな。売ってくれないか」

「理由を伺っても?」

「俺は研究者だ。魔素循環器を調べている。魔獣が同種動物を匂い以外でも判別しているのではないかと思ってな。」

「…貴方があの論文の作者、レオナルド・スカーノさん?」

男性は目を見開く。

「俺を知っているのか。」

「面白い研究でしたので、覚えております。それで幾らで購入しますか?」

「状態を確認したい。」

私は保存袋からハイエナ型魔獣の魔素循環器を一つ取り出し、レオナルドに見せる。

「素晴らしい。……だが、ギルドで買い取っている金額ほどは出せないんだ。」

「はい。言い値で構いませんよ」

「!?いいのか?手持ちがこれだけなのだが、」

「それで構いません」

レオナルドに魔素循環器を渡し、お金を受け取る。

「どの程度まで研究は進んでいますか?」

「どうもこうも研究資金がなくてな、あまり進んでいない。圧倒的に魔獣の魔素循環器が少なくてな」

「そうですよね。どの種類の魔素循環器が足りていませんか?」

「大型種は大体足りない。そもそもこんな胡散臭い研究者に売ってくれる物好きも中々いないからな」

レオナルドは自嘲する。

「必要魔素循環器を一覧にしていただきましたら、ご用意致しますよ。」

私の提案にレオナルドとミランダが反応する。

「本当か!?」

「リオ様!安請け合いはいけません」

ミランダを制して続ける。

「勿論相応の礼をいただきます。研究結果を発表する際にわたくしの名前を連名にしてくださいませ」

「それでいいのか。判別方法じゃないかもしれないのに」

「構いません。大体の基礎研究はお金がかかる割に成果が出るのはずっと後なんです。しかも応用できる人間がいないと燻るだけということもあります。」

魔獣と動物の魔素循環器の違いが、どの種でも一緒ならそれだけで発見だし、それが次の研究の土台になる。

「ギルドで指名依頼を出してくださいませ。それを確認してお受け致します。冒険者のリオです」

「わかった」

レオナルドは浮かれた様子で立ち去る。

「北門から入り直しましょう」

花街を突っ切ることはしないようだ。

再度外に出て北門から入る。

私とミランダはギルド裏手の魔獣引き取り所に魔獣を持ち込んだ。

今日も忙しそうに職員が走り回っている。

「ハイエナちゃんが五頭。査定が終わるまでギルド内でお待ちください、あ、その昆虫も買取ですか?」

「いえ、観察するだけです。」

「昆虫も標本用で買取してますから何かあればお声かけください」

対応した職員は魔獣を別の台車に載せて運んでいく。

ギルドへ回り依頼完了の手続きをする。

窓口の職員も私の左肩を見て何か言いかけたが口を噤む。

「ハイエナ型魔獣の討伐ですね。四つの魔素循環器を確認しました。……ん、討伐頭数が五頭で報告が上がってきていますが、魔素循環器の取り忘れですか?」

窓口の職員に尋ねられ、研究者に一つ売ったことを話す。

「そうでしたか。ですが、それでは討伐頭数は四頭になりますが構いませんか?」

「はい。」

四頭分の報酬はギルドカードに入れて貰う。査定が終わるまでギルド内で待つ。その間にオオカブトの観察をする。

そのフォルムにうっとりしている間に

「リオ様、査定終了しました。立髪が少し欠けていたので査定が下がっています。はい、どうぞ。」

終了したようでお金を受け取りギルドを出る。

「リオ様、そろそろソレを外に放ってください」

「はぁい。」

名残惜しくオオカブトを撫でて東門に向かって歩き出す。

東門の門番に声を掛けて外に出て、オオカブトを放した。

名残惜しいのは私だけだったようで、オオカブトは生き生きと飛び立つ。

そしてすぐに中に戻る。

騎士団本部に寄り、西門の門番宛にお礼を申請する。

直接門番に渡すと収賄罪になるのだ。

「ありがとうございました。」

用紙に記入してお金を受付に渡し、本部を出る。



みんな健脚だなぁ

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