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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
320/605

婚約者編 夏59

ティエラは広間の端のほうに向かって歩いていく。

その後ろを距離をとりつつ追いかける。一応他の貴族達から声をかけられないように気配を薄くしている。

歩を止めたティエラは壁にもたれかかった。

その横にそっと立つ。

料理ののった皿を差し出し

「ティエラ様、どうぞ」

声をかける。

一応ティエラを含む範囲に魔法を広げる。

「ありがとうございます。お姉様」

「間が悪くてごめんなさい」

「いえ。わ、わたくしが子どもっぽく感情的になってしまっただけで、お姉様やお兄様のせいではありません。」

ティエラはフォークを使ってお行儀良く食べ始める。

「美味しいですわ」

はにかんだティエラはどことなくグラッドに似てみえて微笑ましくなる。

「良かった。可愛い可愛い妹を甘やかしにきたのです。」

「お姉様ったら」

「ティエラ様は自分の中に渦巻く感情を年の割に制御出来ていると思います。素敵です。」

ティエラの瞳が潤む。

もしかしたらもう泣いているかもしれないが、絶賛魔法展開中のため溢れることはない。

効果は一定時間経過後解除と設定している。

「わたくし、選びたかったの。ルーク様に不満があるわけでもないし、父様の望む婚約でもいいの。だけど、選択肢を提示されたかった。選べない状況だったとしたらそう言って欲しかった」

ティエラがぽつりぽつりと話し始めた。

防音の魔力壁をそっと張る。

「選べるって素晴らしいことです。愛情を示されているようで、自分という存在を尊重してくれているのだと安心感幸福度が高まります。その気持ちはわかります」

うんうん大切だねと頷くとティエラは申し訳なさそうにしている。

「お姉様。わたくし、我儘で」

我儘も言わずにいるのだろうか?まだ十二歳だよ?!

驚きを心に秘めて、諭す。

「我儘は今のうちに言っておくといいですよ?我儘にも程度があって、認められるものとそうではないものがあります。その程度を知るためにも我儘を言いましょう。ティエラ様の望みは、選びたいで宜しいですか?」

「はい。でも」

「まだ正式に婚約者になったわけではありません。そういう話が出ているだけ。ティエラ様が思っていることを伝えましょう。それで、アシュレイ様が他の選択肢を提示してくれない時はフローラ様に泣きつきましょう」

「お、お姉様、だめです。迷惑が」

首を横に振り私の提案を却下しようとする。

「ティエラ様は真面目ですね。とても良いことではありますが、危険な側面もあるのを知っていますか?大人にとって都合のいい子になる。」

ティエラが瞬きをゆっくり繰り返し私の言葉を咀嚼している。

その様子を観察しながら言葉を続ける。

「心の器に感情という水が注がれて、その器に注ぎ口以外の出口がなければどうなるでしょう。行き場のない感情は出口を求めて最悪の場合器を壊す。そして壊れた時の修復が難しいのです。壊れるのは心だから。」

「お姉様」

「我儘は器に注ぎ口以外の出口を作ってあげることです。だからティエラ様は溜め込み過ぎないように吐き出していかなくては。」

「あ、ありがとうございます」

「大切な妹の為です」

照れたティエラは料理を頬張り誤魔化す。

頬が赤くて料理を口に入れすぎて膨らんでいるのもまた可愛かった。

しばらく二人で話していると、近くの壁にルークがもたれかかった。私達に気づいている様子はない。

私と同じような魔法を使った気配を感じ取る。

目を閉じ天を仰ぎ、ため息をつく。その表情は苦しそうだ。

その様子に気づいたティエラは、

「ルーク様」

素早く近寄り声をかける。

私は少し強めに魔法をかけ、二人に貴族達の視線が向かわないように監視する。逆に自分にかけた魔法を一瞬解除して緩くかけ直す。

「ティエラ嬢?」

「苦しそうです。今誰かを」

「呼ばないでください。姉上に心配をかけたくないのです」

「ですが、」

私の意図に気づいたミランダが近寄る。

「リオ様」

「グラッドと協力してルーク様を会場の外に出して休めるよう手配をお願いできますか?」

小声で指示を出すとミランダはすぐさま動きだした。

「ティエラ様。もうしばらくそのままでいてください。」

声を耳元に運ぶ魔法を使いティエラに届ける。防音の魔力壁の応用だ。

「わかりました。では、わたくしに寄りかかってください。お支えします」

ルークの介抱はティエラに任せる。私では見つかった時にリスクが大きい。

私は会場の人の動きを観察する。

グラッドが動き、セシルが会場の外へ出た。

「リオ様、もうしばらくしたらグラッド様がいらっしゃいます。グラッド様とアシュレイ様の歓談後にご自身の魔法解除を願います」

ミランダが側に立ちそう告げる。

作戦内容はグラッドがルークに折りいって話しがあるので二人で退室したいというもの。

グラッドはアシュレイとなにやら話しをすると、礼をした。

そのタイミングで魔法を解除する。

「ティエラ様、グラッドが近くにきたら魔法を解除します。ルーク様にもそれを伝えて状態を整えてください」

グラッドが広間に視線を巡らせ私をみつける。

悠然とこちらへ向かってくる。

「リオ、」

私に声をかけた瞬間、魔法を解除する。それまでにルークは自身を律し、ティエラはルークから離れた位置に移動した。

「どうされましたか?グラッド様」

「実はルーク殿と折りいって話があって、ルーク殿を探しているのですが、見ていませんか?」

「まぁそうでしたか」

私達の会話にルークが入ってくる。

「グラッド様。私をお探しでしたか、申し訳ありません。人に酔ってしまったようで」

「実は話しがあるのですが、お誘いしてもいいでしょうか」

「はい。喜んで」

「では、こちらに部屋を用意させています。行こうか」

グラッドと私、ルークは大広間を後にした。

近くの部屋をセシルが用意していてその部屋に素早く入る。そしてソファにルークを座らせる。

「グラッド様、助かりました」

「構わない、横になってくれ。」

「ありがとうございます」

ルークはソファに横になると気を失うように眠りについた。

顔色が悪くなっていて、発汗もみられた。

「セシル、診察を頼めるか?」

「かしこまりました」

セシルはルークの状態を確認し少し表情が曇る。

「身体に合わない食べ物を食べてしまったようです。毒に似た反応がありますが、酒ではないようです」

アレルギー反応?

「身体が元気な時は反応がなくても身体が弱っている時は反応が出ることもあります。」

「対処は可能か?」

「はい。お任せください。」

セシルは部屋の奥へ入っていくと、すぐにお茶を運ぶカートを押して出てきた。

お茶とお菓子の他に水差しなどが乗っている。

水をスプーンの上に垂らし、口に運ぶ。

浄化魔法を付与しているようだ。

セシルはルークの脈をみながら、何度か水を口元へ運んだ。

「状態は、落ち着きました。このまま休めば回復致します」

「わかった。ありがとう」

セシルはルークから離れると私達にお茶を淹れ始めた。

「グラッド様。ティエラ様がいらしています。お通ししてもよろしいでしょうか」

部屋の前で待機していたミランダが部屋に入ってきた。

その言葉を聞いて

「いや、却下だ。ティエラには明日時間を取ると伝えてくれ。それからルーク殿は疲れているだけだから安心してと伝えてほしい」

要望を退ける。

「かしこまりました」

「セシル。ルーク殿が泊まっていけるように部屋の用意を」

「はい。手配済みです。」

「それならいい。」

グラッドと私はしばらく部屋でルークの様子に注意しながら夜会で聞いた情報を確認しあう。

誰の婚約が決まりそうだとか、どこの夫婦仲が悪いだ、ティア様について、アシュレイ様の手腕、貴族達の困惑の様子など。

グラッドよりもセシルが生き生きしている。

「ふふふふふ」

「セシル。やり過ぎないように」

どうしたのか尋ねてもグラッドに、はぐらかされる。

となると

「ミランダに何かする輩がいるってことですか。ふふふ。セシルさん、やっちゃいましょう」

「リオ。落ち着こうか。」

「リオ様、勿論です。アラバス家の名を知らしめましょう」

セシルと意気投合する私にグラッドが仕方ありませんと微笑む。

「ミランダに叱ってもらいましょう」

と立ち上がるのを二人で縋って止める。

誠心誠意謝罪しているとドアを開けたミランダに怪訝そうな顔をされた。

「お食事をお持ちしました」




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