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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
319/605

婚約者編 夏58

夜会の開かれている大広間には大勢の客の姿があった。

挨拶しながら、今夜の主役を待っている。

するとオリバーとティアが現れた。

「ティア様、お綺麗です」

会場の至る所からティアの美貌に感嘆のため息が聞こえる。

金の髪を結い上げている。あれを私がやると相当な量の整髪剤が必要になる。

アシュレイとフローラ、ティエラの前に二人が進み出る。

挨拶を交わし、婚約の報告をする。

「今夜は私達の婚約パーティーに出席していただきありがとうございます。」

オリバーの挨拶が終わると出席客との挨拶が始まる。

一番最初はグラッドと私だ。

「オリバー兄上、ティア様。婚約おめでとうございます」

「おめでとうございます」

二人の前に出ると挨拶を交わす。

「ありがとう。二人共」

「ありがとうございます。あのリオ様、専属のリリさんを貸していただきありがとうございました。フローラ様から聞きました。身体が楽で驚いております。礼を伝えてください」

ティアの言葉に頷く。

「必ず伝えます」

「そんなことがあったのか。僕からもお礼を言うよ。ありがとう」

「ふふふ。リリも喜ぶことでしょう」

「ティア様、兄上をよろしくお願いします」

「グラッド様。はい、お任せください。お支え致します」

私達が場を離れると次に二人と挨拶をするのはルークだ。

「姉上。オリバー様。婚約おめでとうございます。」

「ルーク。顔色が悪いわ、戻ってさっさと寝なさい」

「姉上にその言葉を返そうかと思いましたが、思いの外顔色が良く驚いています。」

「それはその、リオ様に専属マッサージ師を貸していただき休めたからです。」

「ここだけの話。俺もですよ。グラッド様とリオ様とのお茶の時間を休憩にあてろだなんて普通なら言いませんよ。こうみえて顔色は少し良いのです」

「君達は、似た者姉弟だね。」

「オリバー様に言われたくありません。」

オリバーの笑顔を離れたところから見ていた私とグラッドは、三人の会話は聞こえないものの安堵していた。

「兄上が楽しそうでよかった」

「ええ」

その後はフォッグ貴族との挨拶や歓談、情報の探り合いの夜会をグラッドと二人で乗り切る。

お酒の誘いが多く、それを断るのに苦労した。

途中からはパッと見お酒に見えるジュースをグラスに淹れ、あたかも既に楽しんでいるかのようにカモフラージュする。

セシルが丁度良い果実酒とジュースを見つけてきたため、その案に乗った。


「グラッドお兄様」

「?どうしたのティエラ?」

ティエラはグラッドの前に来ると謝った。

「さっきはごめんなさい」

「構わないよ、リオが悪いし」

「そんなことありません。お姉様は」

リオを庇おうとするティエラにグラッドは、言い直す。

「言葉は選ぶべきだったという面において、リオが悪い。リオは愛情を隠さない。たまに普段なら照れそうな言葉もはっきり口にする。今回も事実が口から出てきただけだ。ティエラが気にしていないなら、あっちで食事を楽しんでいるリオに話しかけるといい」

グラッドは優雅に食事を楽しみながら、フォッグの女性貴族達と交流しているリオを見る。

あの笑顔は料理の話でもしているのだろうなと考える。

「お兄様はお姉様をとても好きなのですね」

「?急にどうしたんだい?」

「だって、笑っていますもの」

グラッドは口元に指を触れる。意識はしていなかったから指摘されて初めて気づいた。

「わたくしには眩しく見えます」

「ティエラはルーク殿との婚約に反対ってことかな?」

反対ではないと聞いていたけど、飲み込めないことはある。

もしかしたら実際にルーク殿を見たことで嫌な気持ちが湧き出したのだろうか。

「違います。わたくしは自分で家の利益になる婚約者を選びたかっただけですわ。」

違うのか。なら

「まだ方法はあるけど、」

「より良い婚約者候補を見つけること、でしょう?」

ティエラの言葉に首を横に振って否定する。

「違うよ、ルーク殿の婚約者を見つける。父上と闘えるだけの力があって且つフォッグ子爵の独立性を維持したい貴族がいればそこを後ろ盾にした女性貴族を婚約者に立てる。」

「グラッドお兄様」

戸惑った声が聞こえたが、それを無視して続ける。

「もしくは、フォッグ子爵の役割に言及して創造性のある術式を構築できる女性貴族を探す。役割を疎かにしたから今回のことが起きたのだと訴えることも有効打になる。父上の意見を翻すために必要なことを考えていないと対抗できないよ?」

ティエラの瞳に涙が溜まっていく。

「ティエラ?」

顔を赤くしながら必死に涙を堪えている。

「わたくしは、何も見えていませんでした」

「これからだよ?まだ学園にも入学していないし、他領の貴族と交流を深めることで培われていくものもあるから。気を落とさないで」

「ですが」

俯くティエラの頭をグラッドが撫でる。

「ティエラは自分の出来ていることも見えていない。まずは自分を見つめ直したほうがいいね」

「わたくしの出来ていること、ですか」

「そうだよ。あ、リオが気づいた。」


グラッドが、ティエラと何か話しているのが目に入り気にしていると

「まぁ仲のよいご兄妹ですこと」

グラッドがティエラの頭を撫でて慰めている。

「お兄様お二人が相次いで婚約されたからお寂しいのかもしれませんわね」

と周りが騒いでいる。

「では、わたくしも妹を励ましに行かなくては。皆様失礼致します。」

料理を皿に取り分けていたら、あっという間に女性貴族達に囲まれてしまった私はお喋りに興じながら離れる口実を探していた。

ティエラには悪いが利用させてもらう。

料理の乗ったお皿を手に、優雅にみえるよう気をつけつつ足早にその場を離れる。

「ティエラ様。」

二人に近づくとティエラの表情が良く見えるようになった。

目が潤んでいて、顔も赤い。

「グラッドにいじめられましたか?」

つい口をついて出た言葉に、しまったと思うよりも速く

「リオ。」

グラッドの声がとんできた。

「ち、違いますのよ、お姉様」

「目が潤んで見えましたのでつい。あ、そうだ。ちょっと魔法使ってもいいですか?」

「え、はい」

「目元に触れますね。はい。これで泣いても大丈夫ですよ」

「?泣いても?本当に」

「はい。」

「う、お姉様。……!!」

ティエラが目を見開く。唇が震えている。

一瞬悲しい顔をしたかと思うと次の瞬間には諦めたように笑った。

「お兄様の馬鹿」

と悪態をつくとティエラは踵を返し立ち去っていった。

「グラッド。私、何か悪いことでもしてしまったのでしょうか。」

「そうじゃないけど、先に話した私の言葉がリオの行動と相まってティエラには、あてつけに感じたってところかな。」

グラッドがこっそり詳しい内容を教えてくれた。

完全にタイミングが悪い。

「ぅぅ、どうしましょう。」

「そうだね。…うん、これ美味しい」

グラッドがお行儀悪く私の皿の上の料理に手をつける。

「そうなんです。めちゃくちゃ美味しくてグラッドにも食べてもらおうと取り分けていました。」

「ティエラに持っていったらいいよ」

「……はい。そうします」

ティエラの後を追うことにした。



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