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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
317/605

婚約者編 夏56

「グラッド、大丈夫ですか?」

フォッグに向かう馬車の中で尋ねる。

顔色が悪いし、色々取り繕えてない。

「ええ」

表情もだし、言葉も少ない。

「横になってるといいよ」

「お言葉に甘えます」

グラッドがシートに横たわる。

昨夜はやっぱり研修終わりに飲み会があったようだが、お酒を回避するはずが予想外のことが起こったと言う。

眉間の皺が物語っている。

「くっ、ヒューゴめ」

ヒューゴがグラッドの法務部研修で一緒だった。

事前に酒が苦手だからと話をしていたのに、

「まさかグラスに注いでくるとは思いませんでした。」

ジュースと間違えて果実酒を注いで渡してきた。

「うわぁ」

「酒の香りの少ないお酒で、口にするまでわからなかった。」

凄く悔しそうだ。

不覚をとったと思っているのが分かる。

酒場は酒の匂いがしているからわからないのも理解できる。

結構度数の高いお酒だったため、魔法を使う間もなく、すぐ眠ってしまって迎えに行ったセシルが連れて帰ったという。

実験の時には無かった銘柄だったと言う。

「油断していると酔いに抗えませんでした」

実験の時に飲んでも寝たりせず平気だったのは気を張っていたことも関係しているようだ。

「驚きましたよ。ヒューゴ様が半泣きでグラッド様の寝顔を法務部の方達から守っていましたから。ふふ、あれは思い出しても笑えます」

ジャケットをグラッドに被せていたとセシルが笑いながら教えてくれた。

「ヒューゴ様はドジっ子ですから」

そんな間違いする?!というような事を引き起こす人だとか。

そのおかげか研修担当者の対応力に磨きがかかっていると各部署で噂になっている。

「朝からヒューゴが謝罪にきてました。」

二日酔い状態のグラッドは魔力が上手く動かせないようで、浄化の魔法を使えない。

「セシルが浄化魔法を使った水を飲んだけど、状態は良くない」

「状態が悪化してから飲んだからでしょうね。その辺りは毒と同じで、酔いが回った状態を解除は出来ても後に残る症状には効きません」

セシルが苦笑いする。

「頭痛い」

「無理せずに寝てて下さい」

二日酔いで、丁寧な口調がどっかに行ってるグラッドも珍しいのでもう少し話していたい気持ちもあるが、今日の予定を考えるとそうも言っていられない。

「ありがとう、リオ」

グラッドは目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。

フォッグに着くまでの時間を寝て過ごしたグラッドは、ようやく普段通りの顔に戻った。

「ありがとうございました、リオ」

「私は何もしてませんよ?」

「防音室を展開してくれたと聞きました」

音と光を感じると眠りが浅くなるらしいので、防音室を発動した。

「あぁ、それでしたか。良く眠れましたか?」

「ええ。とても」

「それなら良かった。」

まずはフォッグ子爵邸で、子爵代理をしているルークに挨拶をしてフロストに向かう。

あの日と何ら変わらないフォッグ子爵邸のドアを潜り中へ入る。

通された部屋は応接室で、そこで待っていたのは霞んだ、サンド系の金髪をした男性だった。今朝のグラッドといい勝負になりそうな顔色をしている。

「ようこそいらっしゃいました。グラッド様、リオ様」

恭しく礼をするルークと挨拶を交わし席に案内される。

「この度はフォッグ一族が大それたことを起こしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

「本来なら貴方達が子爵位に就く筈だったと聞いています。歪みが正されたと思えば、どうということもありません。」

「寛大なお言葉に感謝致します」

近くで見ると、顔色がより悪い。

「それよりもルーク殿、顔色が悪い。休まれたほうがよいのではないですか?」

「ははは。お恥ずかしい話です。姉の婚約発表のパーティーもあると言うのに仕事が全然追いつかない」

笑う表情にも力がない。

「ならわたくし達はこれで、」

お暇しますと言おうとすると

「いえいえ、挨拶だけで碌にもてなしも出来ないなんて周囲に示しがつきません。お、私のことは気になさらずに」

諸事情がありダメらしい。

「もてなしの時間に目安はございますか?」

私の質問にルークが目を見開く。

「は、はぁ。まぁ、早すぎないようにそれなりに時間はとっていますが」

「ではこうしませんか?ルーク様は彼方のソファで仮眠をとる。わたくし達はここで時間までお茶を楽しむ。それなら表向きには問題ない。謝罪と茶葉の話をしたってことにしておけば話題も合わせやすいですし」

部屋の中にあるソファを指差して言うと

「は、はぁ。ですが、よろしいのですか?グラッド様」

呆気にとられグラッドに確認する。

「休む事も大切な仕事です。効率の問題もありますし、ルーク殿が倒れたら、今の仕事全部ティア殿が背負うことになります。それでは問題でしょう?」

「そうですが。」

「では私達の提案を受けて、あっちで寝てて下さい。私はリオと楽しくお茶をしてますから。」

グラッドの勢いに負けてルークがソファに横になる。

無理をしていたのがわかる早さで眠りに落ちた。

その周りを防音室で囲う。

「時間がきたら声をかけてくださいね。」

室内にいた侍従にそう言うと、彼等の表情からルークを心配していたことが伝わってきた。

「まさか二人でお茶をすることになるとは思いませんでした。」

「わたくしは最近グラッド様と二人でゆっくりできなかったので嬉しいです。」

「私もですよ。」

時間までお茶を飲みながら最近あった出来事を話して過ごす。ドジっ子ヒューゴの話は尽きない。

「意外で驚きを隠せません」

「あんなにしっかりしてるように見えるのにね」

ヒューゴには冷静で完璧主義な優等生という印象を持っていた。私のヒューゴの印象を聞いたグラッドが笑う。

「ヒューゴは世話焼きで予想外のドジっ子。押しに弱いし、優柔不断な所もある。でも正義漢で勇気があって面白い男です」

「ふふ、ヒューゴ様とはいつからの付き合いなのですか?」

「六歳頃からでしょうか。養父上の担当医官がヒューゴの父親で、一緒に屋敷にきていました。ハロルドも一緒でしたから二人との付き合いは長いです」

グラッドの友達はクラリスの記憶にあるから知っている。

ヒューゴ、ハロルド、イヴァン、それから後一人。

「えっとほら、あの人は?侍従の」

「ヘルムートですか?彼は九歳の頃からの付き合いです。魔獣から助けたのがきっかけで。彼は今文官研修中で」

「侍従じゃないんですね。育ててるんだと思ってました」

「文官研修後に侍従の研修にはいります。セシルの教育方針です。」

情報官としても働けるように文官研修は必須だと言う。

その後も楽しくお喋りしていると、ルークの侍従から声をかけられる。

「あ、時間ですね。わかりました。防音室を解除します」

魔法を解除すると侍従がルークを起こした。

「ぅん。おれは、ぁ寝てたのか。」

ルークが身体を起こす。

まだ眠そうだったが、寝る前よりは顔色が良い。悪いことは悪いのだが。

「グラッド様、リオ様。ありがとうございました。お陰で休めました」

「まだまだ休養は必要でしょう。が、休めたのなら良かった。それでは私達は行きましょうか。リオ」

「はい。それではルーク様、失礼致します。皆様にはわたくしが紅茶好きで熱弁を奮っていたと話せば間違いないですよ」

フォッグ子爵邸を後にしてフロスト邸に向かう。

「ほぼ一ヶ月ぶりですね。」

フローラが玄関先で待っていた。

「母上が自らお出迎えですか。どうしたのですか」

「あら、息子とその婚約者をお迎えしたいだけですよ」

「フローラ様。お久しぶりでございます」

「リオさん、待ってたの。ごめんなさいね、ティエラがこっそり手紙を送ってたみたいで、」

どうやら内緒のお手紙だったようだ。

「いえ、妹の相談なのですからとても嬉しかったです。」

「うふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ。どうぞこちらへ」

部屋は前回と同じグラッドの部屋だった。

「本当はお昼からパーティーを始める予定だったの。でも、ティアが朝はルーク様を手伝うって言うから夜会に変更したの。だから今は夜会の支度で大忙しよ」

身に覚えのある忙しさを思い出し、

「そうでしたか」

頷く。

廊下を進んでいると何処からか声が聞こえてきた。

「ティア様、今は支度の時間で」

「ええ、ですから。進めて下さい。わたくしは書類を読んでいますので」

その会話を聞いたフローラはため息をついた。

「全くあの子は。…グラッド、リオさん。ちょっとごめんなさいね。」

フローラは会話の聞こえてきた部屋に入っていった。

「ティア!ちゃんと夜会の支度をしなきゃ駄目よ」

「ですが、マッサージなど不要です」

「いいえ。必要です。こんな疲れた顔にお化粧しても効果はありません。ちゃんとマッサージを受けて」

フローラ達の会話につい笑ってしまう。

「フローラ様、生き生きしていませんか?楽しそうです」

「そうですね」

グラッドと笑いあっていると

「わたくし。マッサージは特に心地良くもありませんし、ほぐれている気もしません。それどころか痛いのでいりません」

そんな言葉が聞こえてきた。

「痛いこともあるのですね、リオのマッサージはとても気持ち良かったので驚きです」

「私のマッサージか。よし、グラッド。私フローラ様の役に立てそうな方法があります。やってみてもいいですか?」

「はぁ。構いません。では準備して、って一瞬ですね。全く。」

グラッドは苦笑すると、ドアをノックする。

「……母上、よろしいですか」

「グラッド、ごめんなさい。ってその方は?それにリオさんは」

フローラの困惑を無視して

「マッサージが得意な方がいるので紹介しようかと思いまして。リオの専属です」

「フローラ様。リリでございます。わたくしにティア様のマッサージを任せていただけませんか?」

「え、えぇ」

強引に頷かせる。



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