婚約者編 夏51
ジェシカとのお茶会は、恋愛相談だった。
しかも一対一だ。いや、相談に乗るとは言ったけれども。
ビビアンの可愛らしさや魅力を力説していたジェシカに尋ねる。
「ビビアン様の気を惹きたいですか、手は握れますか?」
真っ赤になって首を横に振る。
「では口説き文句は」
予想外の言葉だったのか驚愕の表情をみせる。
クールで大人っぽい外見だが、内面は初心な乙女だった。
私は少し考えて
「じゃあ、ジェシカ様が腹を括るのが先ですね。」
伝える。
「わたくしが腹を括る、ですか?」
「ええ。ビビアン様とどうなりたいのか。親友でいいなら今のままでいいと思います。恋人なのか、婚約者、将来的に配偶者になりたいのか、愛人でいいのか。どれですか?」
「……」
ジェシカが黙り込む。顔色は良くない。
考えたことがないのかもしれない。しばらく沈黙が続く。
「わたくしは最初グラッド様への気持ちを片想いで終わらせるつもりでした。」
参考になればと私の話をする。
「…!」
「でも気持ちを確かめあってお互いに思いあっていると知ってからは、絶対伴侶になるのだと覚悟を決めました。誰にもグラッド様を渡さないという気持ちと次期伯爵夫人になるのだという覚悟です。」
ジェシカを真っ直ぐ真剣に見つめる。
「そこまではジェシカ様には不要ですが、ビビアン様とどうなりたいか。そのためにはどんなことでもするのだという心をみせてください」
「わたくし、は」
ジェシカは真っ赤になりながらも、はっきりとした声で
「ビビアン様の伴侶になりたい。誰かのそばで笑うビビアン様を見たくない。」
宣言する。
「では、その想いが伝わっているのかを確かめる必要がございますね。ビビアン様から恋愛相談をされたことはございますか?それか婚約の話がでているとか」
恋愛相談されたなら脈はない。恋愛の駆け引きとしての恋愛相談もあることはあるのだろうが、今は除外する。
「いえ。一度もありません。」
「そこからではないでしょうか。ビビアン様は家督を継ぐ方ですか?」
「いえ。上に二人兄がいて、一人姉がいます。全員既婚者です」
「それなら可能性はありそうですね。ビビアン様のご両親との面識は?仲は良好ですか?」
「面識はあります。よく遊びに行きますし、ビビアン様と仲良くしてねと言われたことがあります」
「そうですか。うーん、現段階では友人としてしか見られていないと思います。ジェシカ様との婚約が利になると思ってもらわねばいけません。何かございますか?資産を沢山保有しているとか、家格が高いとか。」
「う、ビビアン様の家とほぼ同じ位の家格ですし、資産も多い訳ではなくて、わたくしは文官としても平凡で。」
ジェシカが俯く。
たしか総務部神殿担当文官の一人だったか。
「なるほど。それならばジェシカ様達の婚姻を進めるために必要なものは、互いを想いあっているかです。なのでビビアン様の気持ちが大切です。そこはわかっていますね?」
結婚適齢期で決まった相手もいないならお見合いをして婚約者を決めることになる。まだ相手がいないことは僥倖なのだ。
「勿論です。」
「意識されない現状を変えるには、普段とは違った一面をみせることが有効だと考えます。手も握らない仲なのですよね?なら握りましょう。口説いたこともないのですよね?なら口説きましょう。やらないと現状を打破できません」
やって初めて、相手が自分をどう思っているのか反応をみることが出来る。
ジェシカは拳を握ると決心したようで
「……はい。リオ様、わたくし、やります。」
瞳に力が宿った。けど、私の質問に
「ビビアン様がどのような方が好みかご存知ですか?」
「…リオ様、みたいな方だと思います」
ジェシカが視線をそらす。
以前ミレニアにも言われた恋する乙女は揶揄われただけではなかったのか。
でもそれなら。
「なら簡単ですよ?」
「え?!」
私の行動は母さんを踏襲しているので母さんが父さんにしそうなことを考える。
「まずビビアン様との距離を近めにします。次に可愛いとか触れたいとか思ったことを口にします。その時に手を握ったり、見つめあったり、微笑みウインクするといいでしょう。」
ジェシカの顔が先程よりも赤い。
「例えば、」
ジェシカの手を握り、実践してみせる。
「今日のビビアン様も可愛いですね。とか、綺麗な髪に触れてもいいですか?とか……って聞いてます?ジェシカ様?」
「恥ずかしい」
「それはわたくしのセリフです。前もって恥ずかしさは吐き出しておくと覚悟が決まります」
「リオ様は、積極的な方なのですね。……わたくしも、やります。積極的にいきます」
「よい結果が出ることを祈っております」
恋愛相談なんて経験がないのに、上手くやれただろうか。
お茶の味もわからないままお茶会を終えた。
屋敷に戻るとグラッドが迎えてくれた。
「ただいま帰りました」
「おかえり。友達とのお茶会はどうだった?」
「友達、友達なのかな。恋愛相談って初めてで緊張してお茶の味もわからなかったです。」
ふふっとグラッドが小さく笑う。
「因みにどんな助言をしたのですか?」
「……覚悟を決めること、でしょうか」
「恋愛相談ですよね?」
確認された。
「恋愛の先を考えているかいないかで対応も違いますし、話を聞くだけでいい場合もあるだろうし。」
ジェシカは何か助言をと求めていたので色々言ったが。
「楽しかったのなら良かった」
「グラッドはお友達とお茶会をしたりするのですか?」
「お茶会はあまりないです。学園にいる間はハロルドとヒューゴとは街歩きをするか訓練をするかでしたから。イヴァンは寮の部屋から出てこないから遊びに行ったりはしましたけど。」
「じゃあこれから増えるかもしれませんね」
「夜会は増えるでしょうね。昨夜もまさかの催しがありましたから。」
刑務部での研修終わりに飲み会があった。一週間の研修でも?と驚いたようだ。
「どこの研修先でも最終日にはあるんじゃないんですか?グラッドと飲めるなんてなかなか機会がないので、これを逃す手はないと考えているのだと思いますが」
「リオのおかげで助かっています。」
「ふふふ。次はゾイレ夫人の夜会が待っているので頑張りますよ」
空いた手を握りしめる。
「本当にいいの?」
「勿論です。私は元々参加する気持ちでいましたので」
グラッドと相談した結果、参加してゾイレの非礼を許すことにした。
寛大さを演出することにしたのだ。
私はどうやら少し性格が悪いのかもしれない。闘う気でいた。でも落ち着いて考えるとそんな自分に驚いた。
そんなタイプの人間ではなかったのになと思う。
少しずつ変わってきている。
「グラッドに言われるまで、闘う気持ちでいた自分に驚きました。前はそんな風に思ったことがなかったので、その、嫌じゃないですか?」
グラッドの様子を確認するようにチラリと見上げる。
「ふふ。いいえ。リオが闘おうって思ったのは、ゾイレの対応に怒ったからですよね。リオは自分のことは結構無頓着ですけど、誰かの為になら怒る人だからその気持ちが嬉しいです。」
微笑みと私のことを理解している言葉に頬が赤くなった。
とても嬉しい。




