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不運な召喚の顛末  作者:
第四章
308/605

婚約者編 夏47

翌日。

午前中は果樹林でミランダと訓練に時間を費やし、午後からお菓子作りを始めた。

応接テーブルに簡易コンロを置く。色々使えそうな道具や食器も準備した。

ジャモ粉は薄いクリーム色をしている。取り敢えず片栗粉を使う感覚で水と混ぜる。砂糖を溶かし、熱を加える。

しばらく熱を加えていると固まってきた。

コンロからおろし、カップに入れ粗熱をとる。

ティースプーンで掬い一口サイズにしていく。いくつも作り皿に乗せる。

そして紅茶を冷やす用の魔道具に乗せて冷やす。

クリーム色をしていたのに冷えると透明になった。

不思議だ。

「プルプル、透明、じゃあ味はどうかな。……?粉っぽくないし、砂糖の甘みだけで匂いもない。もちもちしてる。ジャモ粉やるな。」

ジャモ粉は片栗粉やワラビ粉のような特徴がある。

だとしたらとろみ付けにはジャモ粉が使われているのだろう。サイス領で餡かけ料理はあまりでない。技法がないわけではなくて季節感の問題だ。冬の寒い日には良くでている。

熱が逃げにくい料理だから、暑いサイスでは季節を選ぶ。

ゼラチンの代用品にもなりそうだが、ゼリー菓子が少ない。

やはり甘味は後回しなのだろうか。食感か?

「ジャモ粉は優秀ですね。そういえばミゲルも照り焼きを作る時は皮にジャモ粉を薄くまぶして焼くと美味いと言っていました。」

ミランダの言葉に揚げ鳥にも使っているのかもなぁと思うよりも、ミゲルさんは料理できるんだという感想が真っ先に脳裏をよぎる。

次は蔦粉で試そうと準備を始めたところにノック音が聞こえた。ミランダがドアを開ける。

「リオ様、料理人のロイが蔦粉の使用方法の説明にきています。通してよろしいでしょうか」

「あ、はい。どうぞ」

ロイ、あ、ソースの人か。

「リオ様。料理長から蔦粉の使用方法を説明するよう命じられてきました。ロイと申します。」

研修の時、昼食を一緒にとった男性だった。黒髪の色っぽい青年だ。

「久しぶりです。顔を合わせるのは研修以来ですね。宜しくお願いします」

「はい。宜しくお願いします」

「でも何故今なのですか?一昨日の夕食後に受け取りましたが」

ロイが苦笑いをしつつ教えてくれた。

料理長が蔦粉の特性や使い方を伝えるのを失念していた。

今朝料理長から蔦粉をリオ様に分けた話を聞いて、特殊な使い方だが説明したのか尋ねるとその時、失念していたことに気づいた。

同じ料理人感覚で分けたと言い訳してましたとロイが笑う。

午前中は私達が留守だったため、今の時間になったそうだ。

「その評価は光栄ですが、料理長は私のこと過大評価し過ぎです。それで蔦粉の特性とは一体何でしょうか」

「蔦粉は塩水にしか溶けません。」

なんだと。

驚きが顔に出ていたのかロイは小さく笑うと色々教えてくれる。

「熱を加えることによって冷やすと固まります。ニビの貴族の間では蔦粉と専用器具で作る冷麺が夏の風物詩としてよく食されています。クロムの貴族も蔦粉を取り寄せて冷麺を楽しんでいるようですが、領主邸では使用人の数が多いので殆ど出されていません。夏の夜会では何度か用意したことがございます」

「冷麺ですか。美味しそうですね。」

「ニビでは海藻から麺を作ることもあるので、ニビに行かれた際には是非ご賞味ください」

ロイはニビ出身なんですと笑う。

「本で読みました。海藻を煮てその出汁と海藻を麺に練り込むのですよね」

「それもありますが、もっとニビの端のほうではその煮汁を冷やして麺のようにして食べるのですよ」

ところてんか!

「美味しそう」

「リオ様」

ミランダの咳払いに我に返る。さっきから美味しそうしか言ってない。

「蔦粉は塩水でしか溶けない。熱して冷やすと固まる。他の特性はないのですか?」

「他にございませんが、調理の注意点はございます。高温で熱するのは気をつけてください。ゆっくり温めて、常にかき混ぜ鍋の中から目を離さないでください。」

「わかりました。ありがとうございます。あ、そうだ。これを味見してもらえますか?」

料理人の意見が欲しいとジャモ粉モチを差し出す。

「よろしいのですか?ではいただきます」

ロイがジャモ粉モチを食べる。

「!…面白い食感ですね。」

「プリンへの評価が割れたと聞いたので、心配なのですがどうでしょうか」

「そうですね、プリンより弾力があるので受け入れられると思います。味を変えて楽しむ類のお菓子になるでしょうから僕なら味の種類を増やすことを考えます。」

「この中にジャムを入れることを考えてました」

「なるほど。噛むとジャムが出てきて楽しいお菓子になりそうです。上からソースをかける、中にいれる、好きなソースに浸すと色々やりようがあるので広がりそうです」

ロイの瞳がキラキラし始めた。

「ロイさん。一度蔦粉で作るので見ていてもらえますか?それなら失敗もないでしょうし」

「僕が?よろしいのでしょうか」

ロイはミランダをチラリと見る。

ミランダは少し考え込むも、

「ロイが指輪をつけるなら構いません」

頷く。

「わかりました。これでいいですね」

すぐに指輪をつけたロイに驚く。

「いつも持ち歩いているのですか」

「勿論です。仕事上指輪を嵌められませんが、それ以外は必ず指輪をします。」

私の疑問に即答した。

相手が誰かは知らないがかなり愛されているようだ。

同類な気がして親近感が湧く。

そしてロイに監督してもらい蔦粉で試作する。粉末は薄い黄緑色をしている。

塩水で溶かしゆっくり温める。目を離さず鍋をかき混ぜる。

薄黄緑が透明に変わるとコンロから下ろす。まだこの時点では固形物ではない。

粗熱をとると少し固まり始めた。カップに移し、ジャモ粉の時と同じようにティースプーンで一口サイズにする。

冷やすとすぐに固まる。

「早いですね」

「手順に特に問題はありませんでした。僕はこれで失礼します」

「ありがとうございました。」

ロイが退室した後ミランダと蔦粉を味見する。

「塩味はありませんね。砂糖を散らしてみましょう」

砂糖をすり潰して上からかける。

「一気にお菓子になりました。食感はジャモ粉のよりは柔らかい、ゼリーに近いですね。涼しげなのがよいと思います。」

「透明度がジャモ粉より高い。ミランダ、ジャムを、あ、それから果物も何かあればそれも。あとコップは小さいものを用意してください」

レシピを書きながらミランダに依頼した。

準備されたもので再び試作する。

結果蔦粉はものすごくトリッキーな特性があることがわかった。塩水に溶かした状態の蔦粉に砂糖を加えると固まる。今度は塩水では溶けなくなった。熱を加えると溶け、冷やすと甘くなった。

粗熱をとり固める段階でも時間に差がでた。

通常のものにジャムを入れたものと甘いものは時間が通常の倍かかった。塩を追加しても時間は変わらない。

果物を入れたものは通常のものと変わらなかった。蜜の多い果物だと甘いものと同時間かかる。

「砂糖と塩に反応する性質があるのか。面白いです。」

「蔦粉で包むことで華やかさが生まれ、茶会でも注目を集めると思います。夏の茶会に向いています」

ミランダのお墨付きを得てレシピとして仕上げる。



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