第七話 レイピアと言えばマント
誤字報告ありがとうございました。修正しました。
明日も更新します。
改めて庁舎を出ると、もう日が陰り始めていた。みんなで足早にファニートラップに向かう。
程なくしてたどり着いたそこは、以前――依頼で手伝いに来る前――とは違い人の出入りがそこそこあった。
ただ女性客多めで、入るには少し気後れする。
「ほら、何してるの? さっさとはいるよ」
キツネさんが、続いてカネティスが扉を開けて店に入っていった。
……仕方ない、行くか。フジノキと顔を合わせ後ろをついていった。
中に入ると、店内には何体かのマネキンがあり、それぞれにコーディネートされた装備を着付けられている。
さすがに金属製のものはないが、いかにも魔法使い然としたローブやとんがり帽子もあれば、レザースーツのようなものもある。
それぞれのマネキンの前にはボードがあり、簡単な性能も記してあった。
それはともかく、……周りを見渡すが店長はいない。
「すみません。コダマといいますが、店長さんおられますか?」
売り子をしてた人に声をかけると「呼んできますね」と奥に入っていった。
そういや売り子さんなんて、前に来たときはいなかったよな。繁盛しているようで良かった良かった。
売り場を2つに分けたからなのかも知れないけどね
「それじゃあ私たちも奥で買い物してくるねー」
キツネさんがカネティスの肩を抱きながら言った。
「わかりました」
「のぞいちゃダメだぞー」
キツネさんはひらひらと手を振りながらからかってくる。
「そんなことしませんよ!」
「そ、そんな……。私たちに魅力がないっていうの……」
キツネさんが、よよよと崩れ落ちる。カネティスはそんなキツネさんを支えながらオロオロしていた。
「はいはい、姉さんもからかうのはそこらへんにしておいて。二人とも困ってるでしょ」
フジノキが俺とカネティスを見ながら助け船を出してくれた。
「はいはい、わかりました。それじゃあまた後でね」
キツネさんはさっきまでが嘘だったかのようにスッと立ち上がると、カネティスを連れて奥の売り場へと入っていった。
切り替え早いな。カネティスがついて行けてないぞ。
ちなみに奥は女性の下着売り場になっている。
閑古鳥の鳴いていたこの店の集客――依頼でそういうものがあった――の一環で、売り場を分けることをやったのだ。
分けた方がお互い気まずい思いもしなくて良かろうと思ってね。
それが功を奏して、無論元々の品質の良さもあって、今の繁盛につながっているのだろう。
二人と入れ替わるようにして店長が奥から出てきた。あ、ちなみに名前はトラヴァーさんという。
「あら、コダマちゃんじゃない。具合の方はもう大丈夫なの?」
優しげな声音とは裏腹のその巨漢。ぴっちりとした服を着こなしているせいか、はちきれんばかりのその大胸筋には目を見張るものがある。
「あ、はい。もう大丈夫です。今日は遺跡にも潜りましたし」
「そうなの? それならいいけど、でもその服じゃ少し心許なかったんじゃないの? ……あ、もしかして」
「はい、店長に預けてた服の修理の算段ができたので……」
「んもう、トラヴァーでいいって言ってるでしょ」
店長あらためトラヴァーさんは、腰に手を当てて俺の額を指でつついた。
……腰をかがめているおかげで大胸筋が目の前に。……あくまで大胸筋なんだよな。
「それで、“上質なスパイダーシルク”が手に入ったの?」
「手に入ったというよりは、入る予定といった感じですね」
トラヴァーさんの問いに言葉を濁す。
「そこから先はわしが説明しようかの」
しなね屋の爺さんが説明を変わってくれた。
「あら、あなたはうちの……」
「孫が世話になっとるの」
お孫さんを通じて知り合ってはいたのだろう、二人は挨拶を交わす。
「“上質なスパイダーシルク”の用立てはわしがしたんじゃが、いかんせん量が少なくてのぉ。一体どれくらい必要なんじゃ?」
「ほんのちょっとで大丈夫よ。あの服の損傷度は中度だったから……。あれが重度の損傷だったり致命的なものだったら、もっと量が必要だったり、上位の素材が必要になってたかもだけどね」
結構ボロボロになってたけど、あれで中度の損傷だったのか……。まぁ確かに、見た目を気にしなければまだ装備もできたけど。
トラヴァーさんはしなね屋さんに必要な量を提示している。
「ほうほう、それならこれくらいの量でも大丈夫かの」
「ええ、十分よ」
「よしよし、それならさっそく持ってきてもらうとするかの。連絡するからちと待っとくれ」
さて、しなね屋さんが連絡してる間に、俺も聞くこと聞いておかないとな。
「えっと、トラヴァーさん。修理代ってどれくらいになります?」
「そうね、材料も持ってきてもらったし、そんなにかからないわよ。……そうだ」トラヴァーさんはぽんと手をたたく。「コダマちゃんがよければなんだけど、うちで修行してる子に修理を任せない? しなね屋のお祖父ちゃんのお孫さんなんだけど、腕は確かよ。ただ今回初めての素材を扱うって事になるから、お安くしとくわ」
トラヴァーさんが腕は確かと言うんだから信頼できるだろう。おまけに安くしてくれるというなら、それにこしたことはない。
「その方でお願いします」
「おっけー、わかったわ。ちなみにその子、こんなのも作ってるの」
そう言ってトラヴァーさんは、濃いえんじ色のマントを一枚取り出した。
「レイピアのお供にマントを使うこともできるし、この方が武器も隠せて、コダマちゃんにはいいんじゃないの?」
トラヴァーさんは「ガンツちゃんのところの武器、使ってるんでしょ」と小さく告げる。
確かにこのマント、フードこそ無いが前をしっかり止めることもできて、町中で装備を隠すにはもってこいだ。
冒険中は前を開けておけば武器の取り出しも何とかなるだろう。
首元がしっかり覆われているのもポイントが高い。
「どう? 色合い的にあの服にも合うと思うし、おすすめなんだけど。ただお値段はちょっとお高め。どうする?」
トラヴァーさんが示してきた金額は、確かに少しお高めだが全然予算内だ。
何よりこのマント、見せられた時点で欲しくなってる俺がいる。
くそっ、俺の好みを熟知してる。相変わらずの商売上手だな。安く上がったと思ったら、それ以上のお金を支払ってる俺がいる……。
「……わかりました。そちらも一緒に買います」
「まいどありー。それじゃあ寸法直しして、明日の朝には渡せるようにしとくわ。あの服の修繕も材料さえそろったらすぐにできると思うの。無理そうなら私も手伝うから大丈夫よ」
「ふむ、“上質なスパイダーシルク”は今から届けに来るそうじゃ。修繕も明日までに間に合いそうじゃな」
連絡を終えたのかしなね屋さんが話しに加わってきた。
「そうですか、よかったです」
「それで、じゃ。お主らの用事も終わったみたいじゃが、ここで待って先方と顔合わせをするかね?」
いつの間にか買い物を終えたのか、キツネさんとカネティスもこちらのスペースに出てきて商品を眺めていた。
……顔合わせか。もう結構な時間だ、早く帰りたいし、もしデュラハンの剣の出所を聞かれたりしても面倒だな。
「いえ、やめておきます。もう帰ることにします」
「そうか、それがええじゃろ」
しなね屋さんにデュラハンの剣を預け、ファニートラップを辞することにした。
トラヴァーさんに頭を下げる。トラヴァーさんは「また明日ね」と手を振ってくれた。
◆
ファニートラップを辞した後、一緒に夕ご飯でもという話になり、みんなで妖精のとまり樹亭へとやってきた。
夕食時から少し時間がずれたため、何とか四人席を確保することができた。
「お帰りーお兄ちゃん。あとキツネお姉さんとカネティスお姉ちゃん、フジノキさんもいらっしゃいませ―」
ユエちゃんが両手を広げてお出迎えしてくれた。
そしてそのままカネティスに向かって突撃し、ぼふんと抱きついた。カネティスもユエちゃんを抱きしめている。まんざらでもないらしい。
……そしてなぜかフジノキが隣で落ち込んでいる。なんでだ?
「今日は四人か、こっちで何か適当に作るぞ」おっちゃんが声をかけてきた。「ユエも今日はもいいからそこで一緒に飯でもくいな」
「わーい。お父さんありがとー」
ソレイユさんが椅子を持ってきて俺の隣に置いてくれた。その椅子にユエちゃんは座る。
「んひひー。ご飯楽しみだねお兄ちゃん」
五人で今日あったことを話していると、程なくしてソレイユさんが料理を持ってきてくれた。
砕いたクルミがかけられたサラダと、貝や小エビ、紫キャベツが色鮮やかな魚介のマリネだ。
「お酒と、後ご飯が欲しい方はすぐに持ってきますね。メインもすぐにできますからちょっと待ってくださいね。ユエはこっちに取り分けたのを持ってきたからそれを食べてね」
ソレイユさんはユエちゃんの前に、みんなとは別のプレートを置く。
「うん、わかったー。それじゃあみんなでいただきます、しよ?」
ユエちゃんの音頭に合わせて手を合わせ箸を取る。
フジノキが取り皿にサラダとマリネを分けてくれた。ありがたい。
それではどちらからいこうか……。よし、サラダにするか。一口食べてみる。
うまいな。ほろ苦いクレソンとクルミの香ばしさがマッチしている。これ単体でお酒が欲しくなる味だ。
次はマリネ。……こちらはさっぱりしてる。黒こしょうのアクセントもいい感じだ。
2つの料理を味わっていると、おっちゃんがメインを持ってきた。
一口大に切られた分厚い肉がジュージューと鉄板の上でいっている。
おっちゃんはそれを鉄板ごと、ゴトリと斜めにして置いた。
「赤身のかたまり肉だからな、うまいぞ。斜めにしてあるから、鉄板の下の方に肉汁がたまってるだろ。そいつをスプーンでかけて食え」
おっちゃんはそう言うと、ユエちゃんにも肉の用意をして上げている。そちらは小さなハンバーグだ。
さてと、食べますか。
おっちゃんの言うとおり、肉汁を塊の上にかけ1つ取る。それをそのままがぶりと口に運ぶ。
一口目でわかる、こいつはうまい!! 油はそんなに無いんだけど噛みしめるほどにうまみがあふれてくる。かといって肉が固いわけじゃない。柔らかいんだよ!
一口目が終わった。自然と箸がマリネへと向かう。なるほどマリネのさっぱり感はこのためにあったのか……。
一心不乱に食べ進む。いつの間にか傍らに置かれていたビールも飲みながら箸を進める。
肉に添えられているニンニク――一個まるごと焼かれていた――もいい、ニンニクで箸休めも乙なもんだ。
「……ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わった。相変わらずおっちゃんの飯はうまい。しかも今日はみんなできてるからちょっと豪華な気もする。
……気づくとみんなが俺を見ていた。
「相変わらずおいしそうに食べるねー」
「お兄ちゃんが食べてるのみると楽しいよねー。お父さんもりょーりにんみょーりにつきるって言ってた―」
ユエちゃんがニコニコと笑いながらキツネさんに答える。
おっちゃんの料理がおいしいから仕方ないね。
「そっかそっか。それじゃあコダマっちも食べ終わったことだし、明日の予定を詰めて解散しようか」
キツネさんの言葉にみんなが頷いた。




