第六話 準備は大事
明日も更新します。
「お、コダマっちじゃーん。どしたの? こんなところで」
庁舎を出たところで声をかけられた。振り向くとキツネさんが手を振っている。その後ろにはフジノキとカネティスもいた。
「あ、キツネさん。さっきまで遺跡に行ってたんで、その報告をしてきたところです。三人も冒険の帰りです?」
キツネさんに軽く頭を下げた。
「なになに、遺跡に行ってたの? それなら一緒に行けば良かったのに。ねー、カネちゃん」
キツネさんがカネティスの頭をぐりぐりする。さっきまで少し不満顔だったカネティスも、その行動に少し顔を和らげた。
「いえ、今日の朝、急に時間が空いちゃったんで。さすがに朝いきなり予定の変更を頼むのもどうかと思ったんですよ」
「そんなの気にしなくても良いのに。ねー」
あいかわらずカネティスをおもちゃにするキツネさん。カネティスも嫌がってる風には見えない。ただこくりと頷き、キツネさんの言葉に同意を示した。
「まぁまぁ、姉さんもその辺にしといたら?」フジノキが助け船を出してくれた。「コダマは明日も予定ないの? もしそうだったら一緒に冒険しないかい?」
「店の方はもう目処がついたっていってたから大丈夫だと思う。帰って聞いてみないとだけど、一緒できると思うよ」
俺の言葉にキツネさんは笑顔で頷いた。
「よしよし、それじゃあガンツのおじさんに帰ったら聞いてみて。大丈夫なら一緒しよ? ちなみに、今日は遺跡に潜ってたみたいだけどどこまで行ったの?」
「一応三階層のボスを倒したところまでですね、それ以上はこの装備じゃ厳しいかと思って帰ってきました」
自分の服を指しながら答えた。
「――なっ。兄さんもしかして一人でじゃないでしょうね。だとしたら無茶しすぎです!」
まなじりをつり上げるカネティス。
……また同じことで起こられてしまった。
「まぁまぁカネちゃん。コダマっちも男の子だからね。たまには無茶しちゃうのさ。今回は許してあげよ」
キツネさんがカネティスの頭をなでて納めてくれた。
「……今回だけですからね」
「わかったわかった。さっきも受付さんにそれで怒られたばっかりなんだ。今後は気をつけるよ」
「……それならいいですけど。……受付さん?」
カネティスにいわれて気づいた。そういや受付さんの名前知らないや。しまったな。
「初日から何かとお世話になってる受付さんなんだけど……。そういや名前を聞き忘れてた。今度聞いておくよ」
「……まったく。相変わらずですね兄さんは……」
カネティスは嘆息した。
「ま、それはともかく」キツネさんがパチンと手を合わせる。「どこに行くにしてもその格好じゃきついかもね。その服結構良い感じに仕立てられてるけど、素材は草布系統でしょ。できれば別珍くらいの素材のものが良いと思う。コダマっち、前に出るんでしょ?」
「そうなんですよね。前は頂き物の結構いい服を着てたんですけど、デュラハン戦で壊しちゃって……。修復に必要な素材がないからそのままになってるんですよね」
「なるほどなるほど」キツネさんは大きく頷いた。「ちなみにコダマっちの懐事情はどんな感じ?」
「基本お金使ってないし、依頼でそこそこ稼いでたからある程度は……。それに今日手に入れたボス部屋の宝箱の中身のもありますし……」
「よしよし、それなら大丈夫だね。ならさっそく行こー」
キツネさんが俺の腕をつかみ歩き出した。
「わっ、ちょっと……。どこに行くんですか」
「装備を調えに行くの、ほーら、はやくはやく」
俺はキツネさんに引きづられる。
助けを求めて他の二人を見るも、フジノキは……、目をそらしやがった。
カネティスも小さく「無理です。諦めてください」とつぶやいてる。
……そうして俺はドナドナされていった。
◆
俺がドナドナされた先は小さな会議室。貢献度を支払えばこういった施設も借りられるらしい。
「それで、どうしてまたこんな場所を借りたんです?」
俺が疑問を口にすると、キツネさんが答えてくれた。
「ん? そりゃあコダマっちには色々秘密にした方が良いことが多いからだよ。これから会う人も知り合いだから大丈夫だよ」
あー、確かにな。ユニーククラスの件もそうだし、レントゥスやフォルティスの事もあるしなぁ。
武器二人に関しては、前は店に飾ってたのになくなったから、おっちゃんがいろいろ聞かれてたもんな。
特にフォルティス、銃に関してはまだ装備としては出回ってないらしく、いろいろ聞かれるのも嫌だから、町中では隠し持ってるんだよな。
「もうすぐ来るはずだから、その間に明日の狩り場でも決めよっか」
キツネさんの言葉に頷く。
「そうですね。ちなみに今日はどこに行ってたんです?」
「今日は船の墓場ってエリアに行ってきたんだ」答えてくれたのはフジノキ。「ノトス平原のさらに南にあるエリアでね、敵がアンデッド、しかもホネばっかりだから、僕たち三人にとって相性が良いんだよ」
「……三人?」
あれ? カネティスの保護者はどうしたんだ。確か保護者を含めてじゃないとパーティ組めないんじゃなかったっけ。
「……お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはデート中。久々に何日かかけて旅行するって」
「そそ、だから私が保護者権限を貸与してもらってるの」
カネティスの答えをキツネさんが補足する。
「なるほど、なら明日もそこにします?」
「うーん、どうだろうね……。コダマの武器はそれだろ? スケルトン系相手じゃ相性悪いんじゃないかなぁ」
フジノキが俺の腰のレントゥスを指さして言った。
確かになぁ。残弾の問題もあるから、どうしてもメインの武器はレントゥスになるだろうし。スケルトンと刺突ってどんなゲームでも相性悪いよなぁ。
まぁ、相手は隙間だらけなんだから当然なんだろうけど……。
「よし! それならボスツアーに行こう」
「ボスツアー?」
キツネさんが声を上げ、俺の疑問にも答えてくれた。
「そうそう、コダマっちは遺跡の三階層までは突破したんだよね。どうせならその先も一気にいっちゃおー」
その先ってどういう事だ? キツネさんに聞こうと口を開きかけたその時、コンコンとノックの音がした。
「ちょっとまってねー」
キツネさんが外に声をかける。
「僕も遺跡でも良いと思うよ。ま、その話はあとだね」
フジノキはそう言うと席を立ち、入り口の扉を開けた。
扉の先には子供くらいの背丈のお爺さんがいた。
あー、でもリアルが誰だかわかる。
「……もしかしてしなね屋の店長さんですか」
「そうじゃがお主は……。もしかせんでもあれじゃな。この間、いや一応昨日か? うーむVRを挟むと時間の感覚が面倒でいかん。とにかくそいつらと一緒に店にきたやつじゃな」
店長さんは、キツネさんとフジノキの二人を指さして言った。
「はい、ここではコダマといいます」
「そうかそうか、ワシはそのまんましなね屋じゃ。覚えやすかろ?」
確かにと頷く。
「見た目そのまんまなんだもん。私も一発でわかったよ。しかもハーフリンクのお爺さんなんて他にいないから目立つ目立つ」
キツネさんが茶化す。
「うっさいわい。おんなじ短躯のジジイならドワーフにもおるじゃろうが。それと混ざれば全然目立たんわい」
しなね屋の爺さんはそう言うが、そんなことはないだろう。
明らかに体格、主に横幅が違う。
「まぁまぁ、店長も姉さんもそのくらいにしておいて、取引を始めましょうよ」
フジノキの仲裁に、しなね屋さんはふむと頷くと席に着いた。
「とりあえずコダマっちの装備を調えたいの。布系統の装備だけど、確かお孫さんが裁縫士やってたよね」
「あ、もしくは“上質なスパイダーシルク”ってのがあればそれでもいいです。それがあれば以前の装備を修復できるので」
キツネさんの言葉に補足を入れる。
「別に紹介するのはかまわんが、“スパイダーシルク”か……。よければその修復したい装備ってのを見せてくれんか?」
「すみません。その装備は頂き物なんですが、壊してからは元の店、ファニートラップっていうんですが、そこに預けてまして……」
しなね屋さんに断りを入れる。
あの装備、デュラハン戦で壊れて以降、ファニートラップの店長に預けてある。素材が見つかり次第直すとは言ってくれたが、なかなか見つからないらしい。
「ファニートラップか……。あの店ならええじゃろ。孫が内弟子に入った店じゃし腕は信頼できる……。腕はの……」
しなね屋さんは少しため息をついた。
気持ちはわかる。まずあの店長はいわゆる漢女。まぁそれだけなら良いんだが、圧がすごいんだよな圧が……。
いい人なんだけど、長く一緒にいるとちょっと疲れてしまう。
……まてよ。となるとそこに内弟子に入ってるお孫さんって、ある意味すごいんじゃ……。
「それで“上質なスパイダーシルク”じゃったな。確かに当てはあるが交渉は厳しいぞ。なにせこの間踏破されたニエブラ樹林のボスドロップじゃからな。まだ1パーティしか討伐成功してないはずじゃ」
なるほど、それは確かに厳しいかも。さすがにそんなレア素材を買えるほどの金はない。ゴブリンの報酬を売ったとしても焼け石に水だろう。
……まてよ、ボスドロップか。そういや良いものがあった。
「これと交換とか、どうです?」
机の上にゴトリと大剣を置く。デュラハンのドロップ品だ。相変わらずの禍々しさである。
「うっわー、何これ? いかにも呪われてそうな雰囲気なんだけど」
「デュラハンのドロップらしいんですけどね。装備できないし、したくもないっていう……」
キツネさんは触りたそうにしてるが、フジノキに止められている。
いや、やめといた方が良いって……。
「いや、別に呪われとりゃせんぞ。ピーキーではあるが滅茶苦茶ええ武器じゃ。コダマ、本当に手放してもええのか?」
驚いた。呪われてなかったのか。まぁ、だからといって、いるかと言われてもなぁ。
「はい。知り合いに大剣装備する人いないですから……」
しなね屋さんにそう答える。
「わかった、それじゃあ交渉するから少し待つとええ」
しなね屋さんが交渉してくれてる間に、明日の予定を詰めることにした。
「それで、ボスツアーって言うのは……」
そう聞くとキツネさんが答えてくれた。
「遺跡の転移陣ってパーティ組んでるとね、パーティ内の一番潜った人に合わせてある程度先の階層まで飛べるのよ。ある程度って言うのはボス部屋までって事。今私は一五階のボスまで倒してるから、私とコダマっちがパーティ組むと、六階に転移してボスを倒す、いったん戻って十階に転移してボスを倒すって感じを繰り返したいわけ」
「なるほど、俺としてはありがたいですけど。その……、迷惑じゃありません?」
「何言ってんの、男の子だからそんなこと気にしない」
俺のためらいをキツネさんは笑い飛ばす。
「そうだよコダマ。それにボスって一回倒すともう現れないからね。ボスドロップもあるし、僕らにとっても再度倒せるってのはメリットなんだよ」
「そうです。遠慮なんてしないでください」
フジノキとカネティスも後押しをしてくれる。
「わかった、それじゃあお願いするよ」
「うむうむ、青春じゃのう」
いつの間に交渉を終えたのか、しなね屋さんがニヤニヤとこちらを見ていた。
「交渉終わったんなら早く言ってくださいよ」
「そんな恥ずかしがらんでも良かろうに。……先方は交換に応じるとさ。“上質なスパイダーシルク”も足りなかったら周回してでも集めてくると言っておる。もちろん量が足りてても交換するには釣り合いがとれとらんからの、今後布系のレアドロップがあったら、追加で渡すように約束をつけといた。現金は心許ないみたいじゃから勘弁してやってくれ」
お、おお。それはありがたい。正直ボックスの肥しになってたんだ。俺にとっては棚ぼた以外の何物でもない。
「もちろん大丈夫です。それでお願いします。あとこの2つの買い取りと屑魔石がいっぱいほしいんですが……」
今度は机の上に、三階層のゴブリン戦で手に入れた鎧と剣を置いた。
「ふむ、これは三階層のゴブリンの品じゃな。結構良いものじゃ。中堅層で欲しいものもおるじゃろうし、買い取ろう。あとは屑魔石じゃったか。そりゃなんぼでもあるが。どのくらい欲しいんじゃ?」
「こいつの弾に使うんですよね。だからもし安いんだったら、たくさん欲しいかなと」
フォルティスを見せる。
「ほほー、そういうことなら今のうちに買いためておいた方が良いかもな。ちなみにそれ、見せてもらってもええかの」
「はい。あ、いや、ごめんなさい。こいつも他人に触られるのを嫌がると思うんで。すみません」
つい渡そうとしてしまう手を止めて、しなね屋さんに謝る。
『ふん、わかってんじゃねーか』
フォルティスの声が響く。
……渡さなくて良かった。
「もしかしてインテリジェンスウェポンなの? それ」
「はい、二人ともそうですよ」
レントゥスとフォルティスの二人に触れながら言った。
「へー、いいなー。ちなみにどうやったら声が聞けるの?」
「自分は〔共感〕のアビリティを上げてたら生えた〈精神感応〉のスキルを取ることがキーになったとは思います。ただそのあとクラスクエに入ったので取ったからといって話せるかどうかは……」
「そっかー、残念。私も何かユニーククエ出したいなぁ」
いや、キツネさん。そんな物欲しそうな目で見てもあげませんからね。
「姉さん、そんな顔しないの。みんなも一段落したんだったら移動しよう。日のあるうちにファニートラップに行かない?」
確かにそうだ。できることなら今日のうちにある程度は算段をつけとかないとな。
「わかった、それじゃあ行くとしようか」
フジノキの言葉に促され部屋を出ることにした。
エル:銃、特にコダマの持ってる魔導銃を扱ってる人、まだいないよ。
エル:ただマシーナリーって種族の一部に、銃を撃つことができる人はいるよ。
エル:装備じゃなくて種族特性。エネルギー弾みたいなのを撃つ。
エル:ちなみにマシーナリーってMPとTPがなくて、代わりにEPって数値がある。
エル:EPを消費して、アーツやマジックを使ったりエネルギー弾撃ったりするの。
エル:この数値は他の種族のMPやTPと比べて多いけど、自然回復しなくて、エネルギーパックってアイテムを使わなきゃ回復しないんだ。
エル:一つだけ異彩を放ってる種族だよ。




