第五話 三匹のコブリン
昨日は某可変戦闘機歌姫のライブビューイングで元気をもらってきました。
また改めて更新頑張ります。
明日も23時更新予定です。
重い扉を開き、部屋の中に入る。
部屋は思いのほか広く、天井も高く設定されている。……まだ敵の姿は見えない。
一歩ずつ歩を進めていく。
――バタンと後ろの扉が閉まる音がする。と同時に、奥に敵の姿が浮かび上がってきた。
手前に大柄なゴブリン――ホブゴブリン――が一体、粗末ではあるがオノを構えて立っている。
今まで棍棒しか持っているのを見たことがない、ちゃんとした武器を持っているのは初めてだ。
奥には二体のゴブリン、一体は弓を構えている。
もう一体は今までとは明らかに違う精悍な顔つきで、剣を構え周りの二匹に号令をかけてきた。
「ギギャア」
――あいつがボスか! だがまずはっ。
弓手と相対するようにホブゴブリンに向かう。これでホブゴブリンの体が邪魔で弓は打てない。
体を大きく伸ばし、ホブゴブリンの胸を突きにいく。
アーツの結果身体が動くんじゃない、自分の行動をもってアーツを発動させるんだ。
〈ランジ〉
――うまくいった。
レイピアがゴブリンの胸元に迫る。
だがホブゴブリンは胸を左手でかばった。刺し貫きはしたものの致命傷には至らない。
『くるぞっ』
細剣の言葉に、踏み出した足で地面を蹴り上げ距離を取る。
ぶおんと大きな音を立てホブゴブリンのオノが眼前を過ぎ去った。
「〈ランジ〉」
隙を見せたホブゴブリンに再度の〈ランジ〉。
大きく負傷していた左手は防御に間に合わず、剣先が喉元に突き刺さる。
それがとどめになったのか、ホブゴブリンの姿が薄くなり消えていく。
こいつはこれで終わりだ、だけどまだ戦闘は終わりじゃない。
精悍なゴブリンはこちらに迫ってきており、奥のゴブリンは弓を構えている。
まずはこいつだ。
左手で銃を構え、撃つ。利手ではないが[感覚]の能力値を高くしていたせいか、弾はあやまたず精悍なゴブリンに向かう。
――が、ゴブリンは左に大きくステップし弾を避けた。
「ギギッ」
嘲るように笑うゴブリン。だがそれでいい、あいつは足を止めた。
俺は右に大きく迂回するようにして弓手に向かう。
むろん矢は次々と放たれる。が、狙いが甘いのか必中というわけにはいかないようだ。
それならば――。今の俺でも数発なら耐えられる。多少の被弾は必要経費だ。
迂回し走る俺を、剣ゴブリンも追ってくる。だがこの際あいつは無視だ。
そして迫った弓ゴブリンまでの残り数メートルを、アーツの力で跳躍する。
〈ランジ〉
防御のできない弓ゴブリンの胸元を剣先が貫き絶命させる。
だが俺は体を大きく伸ばし、隙を見せている。
後ろには剣ゴブリンが迫り、今にも斬りかかりそうだ。後ろに引くことはできない。
――それならっ。
体を開き左手のフォルティスを剣ゴブリンに向ける。
もちろん普通に撃つためじゃない、普通に撃ったところでさっきの俺みたいに被弾を無視して斬りかかってくるだけだろう。だから――。
「〈ガンパリィ〉」
アーツを使う。放たれた弾は大きく振りかぶったゴブリンの剣をはじいた。
「ギャァ!」
剣を取り落とすまではいかなかったものの、衝撃でゴブリンはたたらをふんだ。
その間に、体制を立て直しポーションを使う。
さぁ、一対一で仕切り直しだ。
一定の距離を保ちながら剣ゴブリンを中心に円を描く。
剣ゴブリンが振ってくる剣に合わせ、レントゥスで受け流し、ゴブリンの剣を巻き落としながらフォルティスで撃つ。
「グギャ」
ダメージは与えたが、取り巻きとは違い一撃で大ダメージとは行かない。
相手の剣を受けたフォルティスの耐久を確認する。
『心配することはない。あれくらいの武器であれば、きちんと受け流している限りダメージはない』
フォルティスの言葉通り、耐久は減ってない。
とはいえ、いつまでも受け身に回るわけにも行かない。次はこちらからだ。
一歩後ろに引く。
銃を警戒してか距離を詰めてくる剣ゴブリンに対し、剣を突き出す。
「ギャッ」
胸を突きにいくも、剣ゴブリンが半身になって避けたおかげで、完全には入らなかった。
剣ゴブリンは、お返しとばかりに右手に持った剣を振り下ろしてくる。
――くっ
「〈ガンパリィ〉」
剣ゴブリンの右手の剣めがけて、引き金を引く。
「グッ、ガアアァア」
――なっ。
剣ゴブリンははじかれた右手に、空いていた左手を添え再度剣を振り下ろしてきた。
「くそっ」
とっさに左で相手の武器を受けようとする、が。フォルティスで剣を受けたら彼女は――。
――まずい!
即座に銃を捨て、剣ゴブリンの剣の柄に手を合わせ、体当たりをするかのような形でゴブリンを押し、距離を取る。
「――くっ」
直撃は避けられたが、少なからずダメージを受けた。
しかもフォルティスを手放してしまった。
『すまない』
『なあに気にするな。経緯はともかく、あの場面でよく手放した。褒めてやるよ。それにおまえにはもう一人相棒がいるだろ。そいつも使ってやんな』
フォルティスの言葉にうなずき、左手でオリゴナイフを抜き装備する。
たとえ〈パリィ〉が使えなくとも、相手の攻撃を捌くことはできる。
……それにデュラハンの剣筋と比べてみろ、ゴブリンの攻撃なんざ児戯に等しい。
先ほどまでとは逆、左手のオリゴダガーを前にしてゴブリンに近づいていく。
ゴブリンも体制を立て直しこちらをうかがうが、俺のダメージを見て取り嘲るように笑った。
「ギギャァ」
だがそれでも剣ゴブリンは、向こうから攻撃してくることはなく、構えを崩さない。
ならそれでもいい。俺はさらに大きく歩を進める。
――虚を突かれた剣ゴブリンの構えた剣を、オリゴナイフで外に巻き取った。
剣に体を取られ大きく開いた剣ゴブリンの胸元をレントゥスで突く。
が、剣ゴブリンも左手で胸元をかばい、致命傷には至らない。
――だけど!!
「〈レンジ〉!!」
アーツの力で右手を大きく前へと突き出す。
「ギャアァア」
アーツの後押しもあり、剣先は剣ゴブリンの左手を貫き、大きく胸に刺さった。
即座に剣を抜き、大きく距離を取る。フォルティスのいる位置まで下がった。
剣ゴブリンは胸を突かれた衝撃で膝をつきはしたが、消えていない。まだ死んではいない。
それならば――。
フォルティスを拾い上げ、撃つ。一発……、もう一発……。
「ガッ、ギィ……。」
これで弾切れだが、どうだ……?
剣ゴブリンの体が薄くなり、消えていく。
……勝ったのか? 程なくして響くアナウンス。
【オールドー地下遺跡三階層ボス:ゴブリンソルジャーを撃破。APを5+2入手】
思わずその場にへたり込んでしまった。
「……勝ったぞ」
噛みしめるようにつぶやく。
『ま、初めてにしちゃ上出来だったんじゃないか』
フォルティスのねぎらいの声。
……初めて? そうか、いわれてみれば初めてだな、新しく得た力でまともに戦うのって。
『ほら、そんな座ったままで良いのかね。ボスを倒したご褒美があるようだよ』
レントゥスの揶揄するような声に顔を上げると、部屋の中心に宝箱が1つ。その隣には大きな魔方陣が描かれている。
魔方陣の方は冊子に書かれていた転送陣だろう。あれに乗れば入り口まで戻れる。
そして、……宝箱か。罠とかかかってるのかなぁ。
よし、どうせならさっき手に入れたAPを使おう。
APを消費して〔ミメーシスⅩ〕のレベルを2に上げる。そして現れた〈罠解除〉のアーツを取得する。
よしよし、もくろみ通り出てくれた。出てくれなかったらどうしようかと思ってたからな。
このアーツは、半ば魔法的なものらしく、対象に使用すると、罠があった場合解除判定を行い、成功すると解除、失敗すると一定確率で罠が発動する。
もちろん、物理的に罠探知や解除を一緒に行うことで、成功率が上がるらしいが、まぁそこまでは求めない。
「よいしょっと」
立ち上がり、宝箱に向かって〈罠解除〉を使う。
すると、宝箱は青く輝いた。
……青かぁ。青く輝いたということは、罠は見つからなかったということ。
おそらく罠はかかってないんだろうね。
意を決して宝箱を開ける。中には……。
「剣と皮鎧か……。外れだよなぁ」
武器はクラスの関係上、レントゥスとフォルティス、そしてオリゴダガーしか装備できない。
鎧も同じくアビリティがないため、布系統しか装備できない。
……売るしかないか。売るといえばあの危険物――呪われてそうな剣――の処理もしないとな。
そんなことを考えながらポーションを使い傷の手当てをする。
『それで、これからどうするんだい。まだ奥に進むかね?』
問いかけるレントゥスに答える。
『いや、今回はここで帰るよ。もういい時間だし、何よりこれ以上進むんだったら、もう少し準備をしないと』
自らの着ている服を見ながら言う。
前はそこそこいい装備をしてたんだけど、デュラハン戦でボロボロになっちゃったからなぁ。
これ以上潜るんだったら被弾も覚悟しなきゃならないだろうし、手に入れた装備を売ってお金を作って、いいもの買わないとな。
『ま、確かその服じゃあ心許ないね』
フォルティスの言葉に頷き、転送陣へと足を踏み入れた。
◆
開拓使庁舎へと帰ってきた。
いつもの受付さんのところへ行く。
いやまぁ、別の人でもいいんだろうけど、あの受付さん、処理が早いんだよね。
「あらコダマ様、無事でしたね」
ひどい言い草である。今朝の感じからして、ツン期からデレ期への移行も近いかと思ったけど、どうやらそんなことはないらしい。
「まぁ、なんとかね」
そう答えて、依頼票と許可証の2つを渡す。と、同時にクエスト達成のアナウンスが入る。
「ゴブリンとホブゴブリンの討伐依頼は達成ですね。それと……、遺跡三階層のボスの討伐、ですか……」受付さんが俺をじっと見据える。「もしかして一人で、その格好で言ったんではないでしょうね」
スッと周囲の気温が下がった気がした。
「あ、いや……」
受付さんの静かな気迫に押され口ごもる。
「いえ、一人で行ったんでしょうね。許可証の方でもそれが確認できます。……確かにレベルだけなら大丈夫でしょうけど、一人で、しかもその装備で初めてとなると無茶が過ぎます。一体何を考えているんですか」
『おい、怒られたじゃないか。おまえ達がたきつけたせいだろ』
レントゥスとフォルティスの二人に念を送るも、反応は無し。
おいおい、だんまりかよ。
「コダマ様、聞いているのですか?」
受付さんが、冷たい炎の目線でこちらを見ている。
「あ、はい。聞いてます。……いや死んでも安置所に戻るだけだし、ものは試しだと思って……」
「…………そうでしたね、失礼しました」受付さんがはっとし頭を下げる。「ですが、それでも命のかけどころは間違わないようにしてください」
「わかった。肝に銘じるよ」
受付さんの言葉にうなずく。
どうであれ、受付さんが俺の心配をしてくれたのは確かだ。……これは本当にありがたいことなんだよな。
「さて」受付さんがこちらに一枚のカードを差し出した。「こちらはパスファインダーカードになります。我々開拓使がコダマ様が開拓者であることを保証するカードですね。身分証のようなものとお考えください。表面には名前を含めたステータスや貢献度、裏面には受けている依頼が記されます。任意で表示方法を変えることもできますが、とりあえず名前と加護レベル以外は他人に非表示にしておきますね」
「ありがとう」
カードを受け取る。免許証サイズの……、ていうかまるっきし免許証だな、これは。
「これからは依頼の受付や貢献度の授受もそちらのカードで行います。遺跡への入場の際も、そちらをお見せください」
「なるほど、そいつは便利だね」
「あと、三階層ボス討伐にともなう貢献度も振り込んでおきましたので、ご確認ください」
そう言われ、カードの貢献度の値を確認するも、どのくらい増えたのかわからない。
ゴブリン討伐は入場料で相殺として、ホブゴブリン討伐でもらえる貢献度って幾つだったのかな……。
まあ受付さんのすることだ、間違いはないだろう。
「わかった、ありがとう」
カードを道具袋に入れ、この場を辞することにする。
また来るよといって軽く手を上げる俺を、受付さんは会釈で見送ってくれた。
エル:今回コダマがボス討伐で手に入れたAPが5+2ってなってたのは、
エル:僕の加護の効果だよ。
エル:取得AP微増ってやつだね。
エル:僕もなかなか役に立つだろう。ふふん。
エル:それじゃあねノシ




