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銀の魔導   作者: 雪仲 響
112/983

112 霧の島

 陽はまた昇り変わらぬ景色の海を見ながら、方向が合っているのかどうかも分からない水平線の先を目指していた。

 遠くには伸びた雲が横に線を描いている以外何も見えず、水色の海底には珊瑚が太陽の光で白い絨毯のように広がり、透き通ってよく見えた。

 遠浅の内海は深いところでも二十mもなく、どこでも太陽の光が届くほどに浅かく、多くの魚達が船の上からでも泳いでいるのが見えた。

「何も島らしいところが見えないわね……、風も出てきたから早く島を見つけないことには、こんな場所で嵐になってしまったら大変よ」

 マルティアーゼは髪を掻き上げながら遠くを眺めていた。

「何を言ってるんですか、もう島は見えてますよ……あそこです」

「……何処に」

 幾ら探しても何処にも陸らしき場所も見えず、白い雲と青い海しか見えない。

「何処よトム、何も見えないわよ」

「あそこですよ、あの雲です、雲の上の方にちらちらと山みたいな物が見えるんです、それにあの雲より向こう側の海を見て下さい、濃い色に変わってますよね、多分あそこから先が外洋になるはずです、ということはあの島が目的地ということになりますよ」

 マルティアーゼからは水平線に漂う雲としか見えなかったが、立っているトムから見れば海面に雲が集まっているらしい。

 近付いていくに連れて三角形の形をした入道雲は、中心に向けて雲が吸い寄せられ上空に昇っているのがよく見えた。

 目視でもゆっくりと雲が上昇していく動きが確認出来る所まで来ると、

「あれが霧の島なの……、あれじゃ雲の島の方が似合ってるわね」

 雲が視界一杯に入る頃には風はより一層強くなり、船の速度も上がってきている事にマルティアーゼが気になって、島へ上陸するには早すぎないかと思いトムに抑えるように言おうと振り返った。

「ねえ……もう少しゆっくり……」

 トムは立ったままで漕いではおらず、必死に船が転覆しないように舵を取っていただけだった。

 それなのにぐんぐんと速度を上げながら島へと引き寄せられていく。

「凄い力で引っ張られていますよ、落ちないように掴まってて下さい」

 マルティアーゼが眼前に空高く頭上に伸びる雲を見上げた途端、いきなり船が島を目の前にして横に流れ始める。

 島を周りを弧を描いて流れる風によって、船は付かず離れず一定の距離を保ったまま島の周りをぐるぐると回り始めたのだ。

「このままだといつ転覆するか分かりません、一気に島に突っ込みますよ」

「え……、ちょっ……危ない!」

 トムは舵を取るのを止め力いっぱい櫂で漕ぎ始め、船は雲の中へと突入していった。




 厚い雲に入ると視界は白い霧で状況が分からずに、いきなり強い衝撃と共にマルティアーゼが前方へと船の外に投げ出されてしまった。

「姫様!」

 船に倒れ込んだトムが起き上がり大声で叫ぶと、マルティアーゼが顔を出してきた。

「ちょ……ぺっぺっ、もう何よこれ……」

 顔についた砂を払ったマルティアーゼから悲鳴のような声が上がる。

 船は砂浜に乗り上がり、急に止まった勢いでマルティアーゼが浜へと放り出されてしまった。

 頭から砂の上に落ちたマルティアーゼは、文句を言うも怪我もなく服についた砂を落としていた。

「……大丈夫ですか?」

 白い砂浜に船を引き上げたトムがマルティアーゼを心配して聞いてくるが、

「大丈夫だけど……砂まみれになっちゃったわよ、……ここが島」

 長い砂浜に白い雲が覆って周りの景色が全く見えずにいる、頭上の雲は轟々と音を立てながら勢いよく流れていき、トムの声も聞き取りにくい。

「誰も帰って来られないのも頷けるわね、こんなに視界が悪いんじゃ道に迷ってしまうわ……」

「それだけなら良いんですけどね、あれを見て下さい……」

 マルティアーゼがトムの視線を追っていくと、霧でぼやけてはいたが船の形をした影が浮かんでいた。

「あれは船……かしら」

 長く黒い影に近寄っていくと、腐って船底が抜けてしまった船が浜に打ち上げられているのを見つけた。

「此処に来た人達の船みたいね」

 すると、マルティアーゼの足元に砂とは違う白い物が顔を出していた。

何だろうと恐る恐る足で砂を掻き分けてみると、そこには真っ白になった骨が落ちていた。

「骨だわ……これが竜の骨なの?」

 マルティアーゼがこんなに簡単に見つかるなんてと、その骨を拾い上げようとすると、

「それは……人の骨ですよ」

 ピタリと手を止めて、マルティアーゼが振り返りトムを見た。

「人の……?」

「そうです、竜の骨はそんなに細くはないですよ、となれば帰ってこなかった人の誰かの骨でしょう」

「こんなに海の近くで死んだということなの?」

 もうあと船に乗って行けば島から出られるという場所で、人が死んだというのは道に迷ったということではなさそうに思えた。

 此処まで逃げてこられたにも関わらず、死んだということは……。

「何かがいるってこと……」

 それがマルティアーゼ達の探している物の生きている方だとすれば、此処に来た幾人もの人達を島から逃さず殺してしまうほどに凶暴だということだった。

京都四神事件巡り投稿の間、更新をお休みさせて頂きます。

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