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約一ヶ月ぶりです。
連載再開します。
一瞬、周りの白い雲の何処かからこちらを覗き見ているのではないかと感じたマルティアーゼは、腰から杖を引き抜いていつでも詠唱出来る構えをとる。
「何かがいるというのなら此処にいては逃げ場所がないから危険ね、奥に行ってみましょう」
流れる雲が生き物のように見えてきて、チラチラと見える影が何かに思えてならず、ビクつきながらも二人は慎重に神経を張り巡らして島の奥へと足を踏み込んでいった。
どのような島なのかさえ真っ白な世界ではよくわからなかった。
数歩先は白い霧が視界を遮ってよく見えない中でも、マルティアーゼはトムの裾を掴んで歩きながら、島の情報を手に入れようと必死に目を凝らしていた。
細い木々や生い茂る草は常に濡れていて、歩くだけで服の色が一瞬にして変わるほどだった。
トムは剣で草をなぎ払って、一歩一歩、足場を確保しながら進んでいくが、いきなり目の前に大きな岩壁が現れたり、濡れて苔の生えた石に足を取られたりと、なかなか前に進むことに難儀していた。
まだ日中だというのは明るい雲のお陰で分かる、だが頭上が明るくともマルティアーゼ達のいる地面は薄暗く、もうすぐ夜だと言われても疑わないぐらいに暗かった。
代わりに暑さも幾分和らいでくれたが、湿度が高く、服が汗か湿気のどちらで濡れているのかよく分からない状態だった。
「ふう……、大丈夫ですか、少し休みますか?」
どのくらい奥まで来たのか、白い森の中で立ち止まったマルティアーゼは、トムが切り開いてくれた地面に座り一休みをして汗を拭った。
「まるで南方の森にいるみたい、この島はどのくらい大きいのかしら」
「雲に覆われていて大きいのか小さいのか分かりませんが、かなり岩や木々が多いですね、ずっとこんな感じだと骨を見つけるのも大変ですよ、せめて見渡せれば気分も晴れて良いんですが……」
「…………」
マルティアーゼがじっと木々の隙間から見える厚い雲の流れる姿を見つめていたが、一向に消える気配も薄くなる様子もない雲は、一層色濃く太陽の光さえも遮断しそうなぐらいに厚みを帯びてきていた。
「この雲はどうして島に集まってくるのかしら……」
素朴な疑問をトムにぶつけても、逆に彼が聞きたい事を答えられるはずもなく沈黙しか返って来ない、そのような事はマルティアーゼも分かってはいたが、口にせずにはいられないような自然の不思議というのを肌で感じていた。
まるで大きな生き物の腹の中にいるようで、意思ある雲が二人をもっと奥へと誘い込もうと蠕動運動を繰り返しているみたいだった。
「早く骨を拾って帰りましょう」
喉を潤し軽い食事を済ませると、再び島の奥へと向かって歩き出す。
少しづつ上に登っている足元の感覚に、マルティアーゼは骨のある場所に近付く緊張が高まっていた。
「ふう……、かなり登ってきたみたいだけど相変わらず視界は悪いわね」
「休憩しますか?」
「いえ、いいわ、先を急ぎましょう」
砂場から森、岩場へと足場が変化してきて、自分達が島のかなり奥に来た事を知ったのは、平坦な場所に着いた時だった。
見上げると雲は円筒状に上空へと巻き上げられ、薄くなった雲の中心からの青い空の明かりが周囲の景色に広がりを見せてくれていた。
少し開けた視界に、二人は息を呑む。
そこは岩と高い木々が均等に存在する場所だった。
多くも少なくもない木々で適度に明るく、霧に包まれたような森の様相を呈している。
木々は間隔を開けて太く高い幹を上へと伸ばし、自分の領土を主張するように地面には他の草木を寄せ付けず、間には岩や砂が敷き詰められていて、所々人工的に積まれたように岩の壁が横に並んでいる。
「やっと島の中心に来たみたいね、だからといって骨が中心にあるとは限らないけれど、とにかく状況が分かりやすい場所に出られただけでも探しやすくなったわ」
「しかし、島がこんなに広いとは……それをすっぽりと覆い尽くすこの雲の大きさとは途轍もなく大きいんですね」
「何処に骨が落ちてるか分からないわ、探しながら歩いてみましょう」
二人は休憩も取らず地面を見ながら岩場を越え、砂の中に落ちていないか掘り返したりしながら探し見て回っていると、マルティアーゼより高台にいたトムから声がかかる。
「マールさん、こっちに来て下さい」
マルティアーゼが岩をよじ登って近寄っていくと、其処にはバラバラに散らばった骨が落ちていた。
「これは……」
どう見ても浜辺で見た同じような骨だった。
「これも人の……、この島に来た人達の骨……よね」
「ええ……みたいですね、頭部はありませんがこの散らかり方は……」
なにかに食べられた、という言葉をトムは飲み込んだ。
「あそこにも……、此処は一体何でしょうか……」
その場所は広い平坦な高台になっていて、そこいらに骨の残骸、それも幾十、幾百本という骨が散らばっていた。
どの骨が誰の物でどこの部位なのかも分からず、無造作に捨てられていた。
「墓場……」
そういう言葉しか思いつかなかった、高台そのものが骨捨場、墓場そのものだったのだ。
高台まで降りてくる白い霧が墓場の全貌を隠していたが、広く何もないただの広場で、彼らは手を差し伸べてくれる者も看取ってくれる者もいない絶望の中、四肢を千切られ食べられていったのかとマルティアーゼは想像した。
その広場には積み上げられた人骨に混じって、それとは違う明らかに太く巨大な骨が落ちているのを見つけた。
「トム、あの骨が竜の骨かしら?」
拾い上げた真っ直ぐ大きな一本の太い骨は、見た目とは違い異様に軽かった。
「これよ、この感じ……ボルドさんの所で持った骨と同じような感触だわ」
すべすべしていてそれでいて手に吸い付く感じを思い出したマルティアーゼは、喜んでトムに教えた。
「竜の骨がこんなに沢山……、あっ……あちらにも」
竜の骨は場所を変えてまとまって落ちていた。
「竜がここで死んでいるというのはどうして……、竜も何かに襲われ食べられてしまったのかしら」
「それは分かりませんが、今が絶好の機会ですよ、さっさと拾って帰りましょう、凄い……こんなにあれば一体幾らになるんだ……」
興奮気味にトムがその中でも品質の良いものを選びながら拾い上げていく。
ボルドが言うには一本が金粒三百程するらしい、それが目の前には何十本と落ちているのである。
勿論全てを持って帰ることは出来ないので、トムはその中でも持ちやすく綺麗な骨を選び、持ってきた縄で一纏めにしていた。
マルティアーゼにはどれが良いものか分からなかったが、自分の武器にするために手にとってみて、握りやすさや大きさなどを考えながら骨を集めていった。
二人がそれぞれの場所で、これのほうが良いか、いやいやこっちのほうが固そうだと値踏みしていて、つい気が緩んだのか……。
マルティアーゼの体を包むように、彼女のいる場所が日陰になった。
急に目の前が暗くなったのをトムが側にやって来たと思ったが、何も声を掛けずに突っ立っている事に違和感を覚えたマルティアーゼが顔を横に向けた。
マルティアーゼの目に映ったのはトムの大きな背中だった、地面に屈んで拾った骨を縄で縛っている彼の後ろ姿に驚いた。
(……え? じゃあ誰が私の後ろに立っているというの…………)
マルティアーゼは恐る恐る後ろを見た……、振り返るのがこんなにも長く感じるのかと思うほどに、視線の移動に長い時間を要した。
そしてそれを認識したのが早いか驚いたのが早かったのか、彼女の頭上高くにそれがあった。




