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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 バルートは知る限りの町の案内を行った、その隣でラーダは真剣に聞きながらも嬉しそうに歩く。

 背が同じくらいだったので顔を横に向ければ視線が合ってしまい、頬を赤らめてしまう。

 栗毛の癖毛に童顔な彼に初めから恐い人ではないと感じていて、服装は貴族らしく生地の良い上下布の服に刺繍が入っている革のベストと、どこかのお坊ちゃんのようにみえた、それなのに気取らない態度がラーダには気持ちよく、一緒にいても不快感は感じなかった。

 町の案内は一日では終わらない、次の日もまたその次の日も決めた場所で落ち合い楽しい時間を過ごしていった。

(男の人と一緒にいてこんな気持ちは初めて、何だかずっと前からの知り合いのようでお姉様とはまた違う安心感を感じますわ)

 二人が仲良く肩を並べながら歩く姿は恋人同士としか見えなくて、仲睦まじく歩く二人に周りの年配の人達からお似合いの笑みが投げかけられる程だった。

 町の紹介はあっという間で、気が付けば空に橙色掛かった色になってきた。

「もう足の方も随分良くになったみたいです」

「はい、まだ張ってる感じはしますが痛いというより強くなった感じがします」

「良かったです」

 にこりと笑うラーダに満面の笑顔でバルートは返した。

「もうこんな時間になっちゃったです、まだ教えたい事が一杯あるのに……そろそろ帰らないと怒られちゃうです」

 バルートは悔しそうに告げる。

「そんな事無いですよ、沢山教えて頂いて有り難う御座いました、お陰で楽しい時間を過ごせました」

 初めの緊張はどこへやら、お互い顔を見合わせても照れることもなく反対にまだ一緒にいたいと思う程に目で強く願っていた。

「ラーダさん、また明日も会えないかな?」

「あ……」

(会いたい、でもエスタルの任務がある……)

 この町には立ち寄っただけで自分の仕事はエスタルの情勢を調査する事である、こんな所で遊んでいてはいけないと真面目な性格が顔を出した。

 自分の気持ちとの葛藤、もっとバルートの事を知りたいと思った初めての気持ちに従順になるか、お国の為に任務を忠実に遂行させるのが先決かで、ラーダの中で激しく対立していた。

 どうしよう、偶然とは言え出会った相手との縁をここで断ち切るのか、キエヌに帰れば二度とこの町に来る事は無いだろうと、一生の出会いをたった数日だけで終わらせては後悔するのは明白であった。

 じっと見つめてくるバルートの瞳に吸い込まれそうになったラーダは、

「ま、まだ居たいんですが……仕事があるので」

「あう、そですか……」

 急に光が消えたようにバルートの顔から笑顔が消えた、その瞬間、ラーダは思わず彼に抱きついた。

「わっ」

 ラーダの突然の行動に驚いたバルートは彼女の肩を掴んで抱留めた。

「まだバルートさんと居たいのが本心です、でも本当に仕事があるので行かないといけないんです」

「ぼ、僕もです、どうしてか分かんないけどラーダさんの事が気になって……一緒にいるととても安心出来るです」

 その言葉にラーダは相手も同じ気持ちなんだと感じ取った、なのに別れなくてはいけない現実に胸が締め付けられた。

「また……会いに来ても良いですか、必ずこの町にまた来ます」

「勿論です、また来るまで毎日ここで待ってるです」

 寄りかかるラーダはバルートの匂いを覚えるかのように顔を埋める、それに応えるかのようにバルートも強く抱きしめ返した。

 お互いの気持ちを確かめた二人はそっと体を離すと、

「ではまた」

 とラーダは一言を残して去って行った。

(うん、また絶対会おうね)

 ラーダを昔の彼女と重ね合わせていたバルートは惹かれていた、また淡い恋で終わらせたくはなくて頑張っていたのだが、やっぱり数日でそこまで仲良くなれないんだと思った、しかし彼女からまた会いたいと言ってくれた事でまだ望みが消えたわけではなかった。

(今度会えたら告白しちゃおうかな、まだ早いかな……こんな機会もうこないかも知れないし)

 バルートから勝手にこの町を離れるには理由を伝えないといけなくて面倒な手続きがある、与えられた少ない機会にバルートの気持ちは逸る一方だった。

(僕だってもう前に進む恋愛をしたって良いんだよね)

 断られればこの短い出会いは水泡に帰す形となり結果を聞くのは恐かったが、もし承諾を得られれば晴れて恋人となれる可能性だってある。

 過去の呪縛から解き放ってくれるのがラーダである事を祈って、バルートは帰路を目指して行った。




(ああぁ、本当にこれで良かったのかな、後悔はしない……分からない、どちらも私には重要な事ですもの、それにバルートさんとは一緒にはなれない、私にはキエヌで待つお姉様がいますもの、私だけ幸せになるなんて出来ません)

 でもエスタルにいる間ぐらいは……。

 これがサスタークにいる時に出会っていたなら、違った人生を送れていたのかも知れないと運命の残酷さを呪わずにはいられなかった。

(もう一度だけ会うことをお許し下さい)

 こんな思いをするなら出会わなかった方が良かったのではないか、どうして今出会ってしまったのか、知らなければこんな感情を持たなくて済んだのにと今更になって任務を受けてしまった事自体を後悔していた。

 嬉しさと悲しさが交差する数日間の旅だった、ラーダは翌日にはエスタルを目指して歩き出していった。

「こんなに近かったんですね」

 徒歩で二日、馬なら一日もかからない所に首都があり、ようやく泊まっていた宿に戻って来られた。

 何だかとても濃密な小旅行だった。

 生家の消失にバルートとの出会い、本当なら三日で帰ってくる旅が七日も掛かってしまった。

(今日は疲れましたわ)

 色々な考えと歩き疲れでラーダの頭も体も熱く火照り、今にも寝入りそうな程にふらふらと寝台へと近付いていき飛び込むように倒れると、襲ってくる脱力感に身を委ねて一度も目覚める事も夢見る事もない深い眠りに落ちていった。

 夕方から翌日の朝まで半日以上爆睡したラーダは、網膜の裏まで届く明るさに今が何時なのか何故こんなにも眩しいのか混乱する記憶を探っていた、

(えっと確か帰ってきたのは夕方だったはず……もう朝になったんですか)

 気怠い体を起こす、体の神経が一斉に痛みを共有して全身が悲鳴を上げた。

「いたたっ」

 軽い柔軟運動で体をほぐしながら異常が無いか確かめていく。

「ふう……」

 グルバヌスは使い捨ての馬を買えば良いと言っていたが、キエヌに帰る際は導路で飛んで行くので捨てて帰るのは忍びなく、なるべく買わない様にしていたがその分、自分の体を酷使する結果になってしまっていた。

「今日からまたエスタルの事を調べないといけませんね」

 ラーダは外に出てまずは食事を摂った、半日以上も食べていないのだから当然空腹で、エスタルに来てから食欲旺盛になっている事を気にしていた。

(太らないようにしたいけれどこんなに食欲が湧いてくるなんて思いませんでしたわ、お姉様に誰って言われたらどうしましょう)

 膨らんでいくお腹を押さえながら料理に手が行く、結局普段食べる量より多くの料理をぺろりと食べてしまったラーダは、罪悪感を抱えながら外に出ていった。

(はぁ……自制心を鍛えないといけません)

 魔道士たるもの自制出来ない者はそれだけ魔導に対しても集中出来ないと言われている、魔道士としての資質を問われる問題だった。

(今日から我慢ですわ)

「よお、ラーダじゃないか」

 店を出て歩いていると前方から笑顔を振りまいて走ってくる者がいた。

「マリアさん」

 久しぶりの再会にぱっと顔が綻んだラーダに、

「この二日間見かけなかったけどさ何処行ってたのかい?」

「はい、ちょっと私も外出してまして、マリアさんはいつ戻って来たんですか?」

「あたしは二日前だよ、あんたがいないから寂しかったんだよ、また今日も偵察しに行こうよ」

「はい、行きましょう」

 二人がわいわいと笑いながら町に消えていった。

(ここには私を待っててくる友達がいる、色んな場所に私だけの思い出が出来始めている、悲しい事ばかり考えてちゃいけないのかも、此処に居る間は沢山の思い出を作っておこうかな)

 重責の中で僅かな楽しみを見出し大切にしていこうと、ラーダは今日もエスタルの楽しい調査に勤しんでいった。

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