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大通りの左右に並ぶ同じ形の家々から出入りする人の多さ、ひっきりなしに男性や女性、子共までも落ち着きがない程だ。
落ち着きが見られるのは昼食時ぐらいなもので、食事が終わればまたぞろぞろと忙しそうに働く姿があった。
女性は洗濯や買い物、近所の人達との井戸端会議に勤しみ、その周りでは子供達が遊び回る、男達は建材、運搬、建築とそれぞれに与えられた仕事で汗を掻く。
ありきたりの日常風景だが活気が他の国とは違った。
働く事に意欲や希望が表れてるようで元気よく掛け声を交わし助け合いながら仕事をしている。
「どう見ますか?」
ドレン男爵が聞くと、
「うむ、ここまで人々が元気よく働けているのはやはりサレス様の人徳か、しかしこれ程の人数がどこから集まって来たのか、何故中央国ではなくエリニア国を選んだのか、向こうなら各自にあった仕事も見つけられるはずだ、この国はまだ出来たばかりで苦労や不満もあるだろうにこんなにも意欲的に働けるものなのか」
とキルロス伯が答えた。
店というにはまだ全ての者があるわけではない、八百屋や雑貨屋、鍛冶屋はあったがこれだけの人の多さに比べればまだまだ足りないだろう、それに仕事も建築関係中心ではやっていけないはずだ。
「千人はいるでしょうか、国と呼ぶには程遠いですがそれでもこの賑わいだけを見ればもっと多く感じてしまいますね」
「サレス様達だけでここまでの事が出来ただけでも凄いと思わざるを得ない、まだこの国の名は広まっていないのもその時が来るまで隠しておられるのだろう、兵士もいないのだ、攻められれば一瞬で消し飛んでしまう」
「工夫は集められても兵士となればそう簡単には集められないのでは……剣術はやはり年季が物を言うでしょうし簡単に成れるものではありません」
「そうかも知れぬが、サレス様の事だちゃんと考えておられるだろう、でなければ国を造るなどしようとは思わぬはずだ」
「左様ですな」
二人は町を見て回りながら感想を述べ合った。
畑もあり作物を育てている所を見て食糧事情も今の所は問題なさそうなのを確認出来た、これだけの人数を飢えさせない為には自給自足が原則だ、人と食糧、そして休める家があれば最低限の国としての形が成り立つ、それを良く分かっているサレスに二人は文句の付け所がなく感動していた。
しかし、気になった事と言えばやはり人の流入である、それから三日間、仲間達と町を隅々まで見て回ってからサレスに拝謁を願い出た。
「サレス様のお国は大変素晴らしく私共々皆感動しておりました、人々は意欲がありとても良く働いており幸せそうに見えました」
「そう見えたのなら建国をした甲斐があると言うものだよ」
今日は側にタリアも来ていて、彼のお陰で建国までありつけたと聞いているが、静かに立っている魔道士というのは薄気味悪く感じられた。
「アルステルではまだ国名や実際国が出来たなどという話まではいっておりませんが、商人が大量の品物を買い込んで新しい町で商売をしているという噂は立っておりました、このままでは何れこの国の事も知られてしまうでしょう」
「それは仕方ない、人が増えればどこかから情報は流れてしまうものだよ、そこまで人の管理は出来ないからね、だから私達は急いで建国を進めているのだよ」
「しかしその人の流入ですが一体何処からこれ程までの人が集まってきているのですか、この辺りの土地にこれだけの住んでいたという事ですか?」
「ふふっこの土地は大昔の国の跡地だ、既に国民はいなくなっていて僅かな集落だけが点在する場所だよ、居間ここにいる人達はその集落と……ローザン国民だ」
「ローザン……何故ローザン国民がここに」
「それはねローザン王国が滅亡したからだよ、そしてローザンを滅ぼしたのは誰だと思う……マルティアーゼ元公女、現エスタル王女だ、彼女が自身の手でローザンを滅ぼしたようだ」
「なんと」
マルティアーゼと言えば世界の美女と言われているローザン公女で有名なのは知っている、その公女が自分の故郷を滅ぼしたとはどんな経緯があればそうなるのか到底思い付かなかった。
「一体何があれば自分の国を滅ぼすなどと……」
「何があったんだろうね、北方の情勢は私達には複雑すぎて理解出来ない事の方が多い、けれど事実、国は滅んでその国民達が国を捨てて逃げてきたのをエリニアが保護した形だ」
ううむと、キルロス伯達は思い空気に包まれ黙り込んだ。
「何とも言えませんな……我々にとっては北方は未知の国、考え方も生活も違いますからな、こんな所でサレス様は国を建てて平気なのですか?」
するとふふふっと笑うサレスは、
「異国だからこそ新しい知識が入ってきて楽しいんじゃないかな、こういう考え方もあるのだと感心させられているよ」
「ラミールにいれば北方の情勢など分からないもので、サレス様がその様にお元気で過ごしておられるのをレシティ様が知ればさぞ安心される事でしょう、我々ももう少しこの国を見させて頂いてからラミールに戻ろうと思っております、サレス様からレシティ様にお伝えする事がありましたら口頭でも手紙でも構いませぬ、仰って頂ければお伝え致します」
「そうだね、君達が帰るまでにはしたためておくとするよ」
「畏まりました、では失礼致します」
一瞬ちらりと視線を移したキルロスと目が合ったタリアは静かにお辞儀をした。
「困ったものだねレシティには」
「……何がですか?」
二人になったサレスが口を開いて、それに対しタリアが聞き返した。
「遂に彼女に見つかってしまった事だよ、君には喜ばしい事ではあるかな」
「私の事は放っておいて下さい」
ぶっきらぼうにタリアが言うと、
「ふふっまぁ冗談はさておき、何故かというと私達は今ギルドの指名手配犯だ、ギルド員の君を無断で私用で使った違反行為、私個人で集めた野良魔道士によるギルド員の殺害の責任をとって国外追放で済まされたと思っていたかい、期限が切れた以上、私達はギルドに見つかれば特に君達魔道士は排除対象になってる、その私達がギルドの目の前で建国しようとしているんだ、これだけでも危険な行為なのに私はエスタルのマルティアーゼに会おうとしている、私達だけの問題であるなら気にしないさ、そこにラミールが絡んでくると話は別だ、私達と関係が続いていて建国の事を知っていたのか援助をしていたのかと疑われれば迷惑が掛かる、それだけは避けたかったんだが、まさかここまで探しに来るとは思わなかった私の思慮の浅さが原因だ」
ラミールも復興が落ち着きヴァンとの再戦と内政の立て直しで忙しいだろうと踏んでいたが、サレスの思惑より向こうは上手くいっているようだった。
「私も本気で国家の樹立に向けて建国を早めないといけなくなった、君達魔道士の保護、兵士の確保が最優先だ……ローザンからの避難民の中に元兵士がいるはずだ彼らを国軍として雇い入れ、まずは骨組みを作らなくてはいけないかな」
「避難民の家屋の建築を遅らせると他国に流れていってしまいます、それではこの国の事を知られるのもすぐですね」
「それも大事な事だ、兵士には緊急の場合に招集出来る様にしておけば良いさ、それまでは君達魔道士の力で何とか頑張って貰うとするよ」
「私の力で何とかなりますかね」
「期待しているよ」
キルロス達の訪問はサレスにも予想外だったらしく、表向きは友好的に言ってみたもののあまりラミールと密な外交は避けたいと思っていた、なぜならサレスがラミールを出たのもマルティアーゼと会うという目的があり、バッツの暴走を利用して国外追放されるように自分から仕向けたのだ、全ては自由になる為でありラミールからすれば最大の裏切り行為に他ならないからだ。
もしレシティに、実はマルティアーゼに会いたくて裏で色々と画策をしたり、君にラミールの王座を譲ったのも、自分が王に成れば二度とマルティアーゼと出会う機会を失うのが恐かったなんて知られたら彼女の事だ、そんな事の為に王家の職務を放棄したのかと激昂するのが目に見えていた。
(せめてマルティアーゼと会うまでは……)
その為には一刻も早く彼女に会えるだけの一国の王としての立場を確立させたかった。




