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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1101/1110

1101 森の中の小さな国

 アルステルでは最近真偽が定かではない噂が立っていた。

 中央国の周辺で新しい国家が出来たという噂。

 見慣れぬ人物が大量の生活用品を買いだめしに来ていて、話を聞くと中央国ではない新しい町で店を始めたからそこで売る為だと、国名こそ言わなかったがこの北方で新しい町が出来たと言う話なんて誰も聞いていない。

 店主も物を買ってくれるので深追いした話が出来なかったが、人から人へ噂は少しずつ広まっていった結果、どこかで国が出来たんじゃ無いかとまでまだ酒のつまみ程度の話題でしかなかったが話は膨らんでいたのだ。

 その会話が偶々居酒屋で隣の席で飲んでいた五人の男達の耳に入ってきて、男達はその客に話しかけた。

 居酒屋でいきなり声を掛けられて、場所が場所だけに因縁でも吹っかけられるのと客がびくりと身構えたが男達の物腰は柔らかかった。

 噂話の出所が何処なのかと聞かれそれを教えると男達は礼儀正しくお礼を言って店を出ていった。

 もっと細かい情報を聞き出そうと、翌日に教えられた店に向かい店主と会って次にその男が買い物に来る時期を聞いた男達は、それまで店を見張る事にした。

 そろそろ店主が言っていた行商人がくる頃合いに店に向かうと、店内から馬車へと荷物を運ぶ男の姿があり、そっと店に入って店主に目配せをすると顎を振ってあの男だよと教えてくれた。

「済まないがそんなに大荷物を何処に持って行くんだい?」

 と行商人に声を掛けると、

「店で売る為だよ、雑貨屋をしてるんだ」

「ほう、何処に店はあるんだい?」

「まぁ……少し遠い所でね、俺の住む所は田舎だからこういう生活用品が手に入りにくいんだ、だから一儲けしようと店を始めたんだよ」

「そうかい……そいつはいい考えだ、もしかしてそこは出来たての国の事かい?」

 そう聞くと行商人の顔色が変わった。

「いやいや、最近町で噂になってたんだ、国が出来たんじゃ無いかってね、そこで店をやってるのかい?」

「さぁ何の事かね、俺の店はただの田舎だよ……いけねぇ早く帰らねえとな、済まねえ兄ちゃん急ぐんでな」

 と言っていそいそと荷物を詰め込むと馬車を走らせていくと、男達は縦に首を振ると、自分達の馬に乗り込み後を追った。

 距離を取りつつ見失わない様に付いていく、四日間の追走でエスタルに向かうのかと思っていた行商人がいきなり方向転換して東の脇道へと入って行った。

 エスタルではない方向に男達の期待は高まる。

 古い街道のはずだが、往来が増えてきた所為か轍ははっきりとしていて見やすくなっている。

「これはやはりあの人の国ではないか、この方向に国なんて地図にはなかったぞ」

「うむ」

 茂みに続く細い街道を東へ向かう、鼻の曲がりそうな匂いの湖沼地帯を抜け建物もない森林地帯に入っていった。

 ほぼ一本道で迷う事もなく馬車との距離が離れても、男達の頭には既にこの先に国があると言う確信が浮かんでいたので無理に馬車を追う必要が無かった。

「本当にこんな所に国があるのか、大昔にリム王国があった場所だぞ、もう人もいないただの森で国を立ち上げる人員をどこから連れてきたんだ……」

「分からんがあの人の事だからな、我々には想像も付かない考えがあるのかも知れない、とにかく会うまではその事については不問だ、我々の目的は国同士の連絡を取り付ける事だ」

 どんどん奥へ行くにつれてこれは道だという風に道幅が広くなって来た、そこに人だかりを見つけて何をしているのかと身構えた。

 何やら大小様々な石を運んで積み上げている集団に出くわした、男達が近寄っていくと見知らぬ人物を見たその集団は怪訝な顔でこちらを見てきた。

「聞きたい事がある、ここに新国家が出来たと聞いたが本当か?」

 ざわつく集団に埒が空かないと、

「ここにサレス様がいると思うが何処におられる」

 とサレスの名を告げると、集団の男達の顔が少し緩んで、

「サレス様をご存じか」

「いかにも、我々はサレス様に会いに来たのだ、知ってるようだな……何処におられるか教えて貰いたい」

「この道を行けば城が見える、そこにサレス様はいる」

「そうか、感謝する」

 仲間に目配せをすると一斉に馬を駆り立てて走り出していく。

「やはりサレス様の国がここにあったんだ、急ぐぞ」

 一気に加速して先を急ぐ男達の前に拓けた町が視界に映ると、男達はおおっと歓声を上げた。

 森の中に突如現れた町に、想像していたよりも立派でこれが本当に国を作っているのだと驚きを隠せなかった、その脇に囲いもない城がどんと構えていた。

 男達はその城の前に止まり辺りを見回す、警備も兵士もいない城に戸惑ったが意を決して城門を開けてみた。

「誰かおらぬか、サレス様に拝謁したい」

 何度か声を飛ばしていると、階上から降りてくる人影が見えた。

「サレス様!」

 かつかつとゆっくりと降りてきたサレスに男達が叫ぶ。

「やあキルロス伯、それにドレン男爵じゃないかい久しぶりだね、どうしたんだいお供を連れて何かあったのかな」

 はっ、と敬礼をした男達にサレスは驚いた様子もなく自然体で迎えた。

「ラミール王レシティ様よりサレス様の現状を調べて来いとのお言葉です、国を造られたと聞いてから報告がなく、何処にあるのかサレス様は大丈夫なのかと心配されておられます」

「それで君達に探してこいとこんな遠方まで来たと言うんだね、困った国王様だ、そんな所では客人に失礼だ、こちらに……」

 サレスは謁見の間まで男達を導きながら、

「悪いね、まだ兵士を雇うだけの国力はなくてね、出来る事は自分でしなくちゃいけないんだよ、こんな国王は見た事が無いだろう、ふふっ」

 まるで玩具を作ってる子共の様に楽しそうに言う、そんなサレスの姿を初めて見た男達は何と返せば良いのか困って苦笑いをするしかなかった。

「しかしお一人で本当に国を造るとは……一体どの様な手を使えば」

「ふふっ言い過ぎだ私一人じゃないよ、兵士はいないが魔道士達が働いてくれたお陰だ」

「あの教育者のタリアですか?」

「彼は建国の立役者だよ、彼がいなければ私は国を出た瞬間の何処かで野垂れ死にしていただろうし国なんて作れなかったよ、さぁ入って」

 開け放たれた扉の奥にしんと静まり返った大広間に足を踏み入れた、そこの壇上にぽつんとおかれた玉座にサレスが座る。

「ようこそ、エリニア国へ」

 キルロス伯とドレン男爵、それにお供の兵士達三人が整列して頭を垂れた。

「では改めましてサレス王へ我がラミール王国レシティ王からの報告をお伝えします、レシティ様はサレス王の建国の話を聞き及んでから近況に関して心配されておりまして我々が調査、連絡として派遣されました、もしサレス王の建国が為された場合、ラミール王国としましてはその繋がりを大事にしたく今後の交流を願っているとの事で御座います」

 キルロス伯がレシティからの伝言を述べる。

「そう、ご苦労だったね、こちらもラミールの事はいつも気に掛けていたが、ご覧の通り人手が足りず報告に行かせる余裕がなかった、そちらの状況はどうかな……ヴァンとは決着が付いたようだがその後は問題は無いのかい?」

「はい、周辺国との連携が上手くいっておりましてヴァンには抵抗する余裕はないかと、それもサレス王の残して頂いたお言葉のお陰だとレシティ様は感謝しております」

「それは良かった、未熟な私の行いで大事な時に国を出て行ってしまったから、せめてもの罪滅ぼしとレシティ王に渡したんだけれども役に立てられて良かった」

「何を仰いますか、北方に国を建てられたサレス様が未熟などと……」

「そう言って貰えて嬉しいよ、北と南と随分と遠いがラミール王国とはこれからも良好な関係を築いていきたいと思っているとお伝え願いたい、エリニアは漸く軌道に乗りかけた国だ、軍も持たない弱小国に北方の国々が認めてくれるかも分からない気が抜けない状態だが頑張って認めさせるつもりだ」

「サレス様なら必ずや実現されるでしょう」

「有り難う、折角来てくれたんだ、狭いが城の客間を使ってくれて構わないからこの国の事を見ていってレシティ王に伝えてあげて欲しい、これが私の国だとね」

「ご厚意感謝致します」

 キルロス伯達はそのまま城への滞在を許されエリニア国という国を視察する事になった。

 分断される場所もあれば、遠く離れた国々と繋がりを持つ国もある。

(国王に成っても心配症な事だ)

 国として認められるにはまだ遠かったが、人も増えてきてこのまま町を拡大して首都として管理、維持が出来れば随分と違うだろう、それまではサレスも皆と同様に働かなくてはいけなかった。

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