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「カリンには何と?」
「グルバヌス様からお買い物の任務を頂いたので行ってきますと、見つけにくい物なのでいつ帰るかは分からないと言っておきました」
「そうですか、私の方も話は合わせておきますが、教えたとおりの事をしていればまず問題はありません、挙動がおかしければ余計に怪しく見えてしまうので堂々としていれば良いのですよ」
グルバヌスは袋に入った焼き石とお金を渡した、ずしりとラーダの体が引っ張られるように下がる、それを手荷物に仕舞い込んだ。
「荷物はそれだけですか?」
長旅になるかも知れないのに意外と荷物が少なかった、その軽そうな袋に焼き石を入れるとずっしりと重量感が増した。
「重くなると持てないので必要な物だけにしました、足りない物は向こうで買おうかと思います」
「特に国王やギルドに関する情報を集めてきて下さい、噂話は信憑性の確認が取れなければ無視して構いません」
「ご期待に添えるよう頑張ります、では行ってきます」
「ご武運を」
こうしてグルバヌスはラーダを送り出した。
話し合いではラーダが失敗した時の事を心配していたガウリスに、今回の任務では彼女がどこまで出来るかは未知数でもあるが、彼女に関しては頭一つ分飛び出ている感があるので、ここで育てるよりも外に出て実戦経験を覚えさせた方が今後の部隊の向上に繋がると考え、これを機に少しでも経験を積ませてやりたいと願い出ていた。
(貴方の情報一つで物事が大きく変わるかも知れない重要な任務なのですよ)
と、先程までラーダが立っていた場所を見つめながらグルバヌスは囁いた。
ディストレアの街道封鎖が続いている為、北方からやって来た商人や旅人がムングロやメラルド側に行けず足止めされて引き返す者が殆どの中、数名の団体はめげずに通行許可が出るのを宿で待機していた。
戦争が終息したので通れる様になったかと期待したのに、街道封鎖と知らせが来て我慢の限界に来て警備兵や役所には詰め寄る人で町には怒号が鳴り響いていた。
「くそう、まだ続くって言うのかよ」
警備兵に睨みを効かせて悪態を吐いたのはダッグで、
「勝敗が決まったのならさっさと協議をして利用する人達の為にも封鎖を解除して欲しいよね」
同調するように意見を述べたのはホシーだった。
「ここの奴らの顔を見てるだけでむかついてくるからさっさと宿に戻ろうぜ」
苛々しながら宿に戻り仲間達にも現状を報告すると、これからの行動に付いて話し合った。
「あと何ヶ月こんな所で足止めされるんだ」
「これじゃあ情報も意味がなくなるな」
「そうだぜこんな古い情報を持って帰っても他の隊に鼻で笑われるぞ、もう一回エスタルに戻るか?」
仲間達も古い情報を持ち帰っても意味が無く、もう一度新しい情報を得る為に北方に戻る事をホシーに提案してきた。
「それは分かるんだけど、往復や向こうでの収集する時間を考えれば旅費がかつかつなんだよ、僕としては一度キエヌに戻って費用を工面して貰わないと、情報収集どころじゃなく生活費を稼がないといけなくなるよ」
「それじゃあ此処で待つしかねえっていうのかよ……」
街道封鎖していると言う事はまだ戦争継続中と見るのが普通で、次はディストレアが戦場になるなら避難しなくてはいけなくなる。
ホシー達には戦争の勝敗に興味は無い、ただキエヌに戻りたいだけなのである。
沿岸州以外で南方に戻る方法ならあるが命がけの旅路でも良いのならの話で、此処まで来てその覚悟を持てるのかと言えば疑問だった。
此処で待つか、危険を貸して他の道から帰るかホシーは迷った。
「どうしようか……」
と言われても誰からも良い答えが返ってくる事はなく黙り込む。
「こうなりゃ強行突破しかねえな」
とダッグの頭には面倒臭い事は全て壊しちまえという大胆な発想が浮かんだ。
「俺達はキエヌの人間だ、ディストレアが封鎖してたから突破してきたってムングロに言えば納得するんじゃねえか、別に怪しい物を持ってるわけじゃねえ、情報はここにあるんだぜ、頭の中までは調べられねえだろ」
と自分の頭を指で叩いて言った。
「そういう考えはダッグらしいけど四人で切り抜けられるかな……」
「体が鈍ってもやもやしてたんだ、久しぶりに暴れたい気分だったから俺もダッグに賛成だ」
「俺もだ、早く帰ってゆっくりしてえもんな」
「皆も早く帰りたかったんだね、じゃあもう少し作戦を練ってみようよ」
ホシーが決めるより仲間達から賛同する意見の声が飛んできて、皆の気持ちを知った彼もそれならその作戦を決行してみようと同調した。
作戦を立て決行は翌日の真夜中から始まった。
人気のない街道を南下して行きディストレアの最南端の町に辿り着いた頃には明け方になっていた。
まだ静けさのある町に四つの影が街道を進んで行く。
「ここから用心していこう」
馬の蹄に布を巻き足音を極力抑えながら歩き出した、街道を警備する兵士が篝火の側で眠っていた。
「やった、寝てやがるぞ」
「しっ」
四人は一歩一歩進んでは止まり兵士の寝顔を見ながら通り過ぎていく。
「なるべく騒ぎは起こしたくなかったからこれは運が良いね」
距離を取った四人は一斉に走り出す、あとは検問所だ、あそこは封鎖しているので大勢の兵士が待ってるだろう。
「良いね、作戦通りに行くよ」
おう、と三人が返事をする。
空と海岸沿いの明暗が分かれてきて形がはっきりとしてきた、明るくなる前に検問所に着きたかったホシー達に焦り始めて速度を上げた。
「明かりが見えたぞ」
検問所の手前には宿舎に入りきれない兵士達が野宿をしていて、四人に気付く者や起きていた者もいたがどうせ検査するのは検問所の兵士なのだと誰も気にしていないようだった、堂々と通り過ぎた四人は検問所の前に立つ兵士に、
「止まれ」
と呼び止めらると、ホシーが急ぐ様子で声を上げた。
「陛下からの伝令をムングロへ届けに行く、道を開けよ」
そう言って懐からちらりと白い手紙を見せながら言った。
「伝令の使者か、そんな報告は受けていないが……」
「急使だ、時間がない通してくれ」
「待て待て、一度確認を取ってからだな……あっ!」
警備の言葉を待たずに四人は馬の腹を蹴って砦の門を潜り抜けて行く。
待たぬかの声と騒ぎで駆けつけた兵士達が、馬で追ってくる蹄の音が後ろの暗闇から聞こえてくる。
「振り返るな、全速力」
ディストレアからは脱出出来たが次はムングロの検問所だ、追ってくるディストレア兵に関しては相手にする必要はない、ひたすら逃げれば良いだけだ。
四人はくねくねする街道を見事な手綱捌きで調整しながら最大限の速度で曲がって行く、しかしディストレア兵も諦める事なく止まれと声を張りながら追って来ていた。
「しつこい奴らだな、ムングロまで付いて来るつもりか」
「ダッグ放っておいて良いよ、前を見て」
朝日が海を照らし反射光が目に飛び込んできて、眩しい光に目を細めながら前を注視していないと海に落ちてしまう。
「もう少しだ」
岬を曲がった所で対岸にムングロの検問所が見えた。
「着いたぞ」
ムングロの兵士からもホシー達四人がこちらに走ってくるのを見つけた様で、ぞろぞろと仲間の兵士達が姿を現した、そこに到着した四人は、
「俺達は諜報部隊だ、もうすぐディストレアの兵士がやって来るぞ」
ホシーがそう告げると、彼の背後にディストレアの一隊を見つけたムングロ兵が戦闘の号令を上げた。
四人に構ってる暇も無くムングロ兵が街道を固め始め、その隙を突いて四人はムングロ国内に入った。
「やったな、あとはこの国を抜けるだけで帰れるぞ」
「まだこの国を出るまでは油断は禁物だよ」
慌ただしくなった街道に多くの兵士が招集されていく、その脇を四人は悠々と眺めながら離れて行った彼らの頭上高くに、人には見えない魔力の航跡が一筋北へと流れていった。




