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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 二人は遺跡に向かった行程と同じく山脈の麓の街道を通り内海に出ると、今度はそこから南下をしてミーハマットに入っていった。

 海岸沿いの道を山脈をぐるりと回って検問を通過していく。

 ミーハマットの港町は国の北側にしかなく、それも小さな漁港で町というより村の集落ぐらいしか無かった。

 目的の孤島は一番南にある港町から更に南東、内海の中心に向けて行かなければならず、船を手に入れられるかどうかがこの旅の最大の難関でもあった。

 二人は海岸の宿に泊まった際に、船が手に入る所がないか宿の主人や漁港に立ち寄って情報を集めながら南に向かっていた。

 メラルドで乗った船とは違い、内海では大きな船だと座礁する恐れがあるため小さい船ばかりで、漁も港近くの漁場で細々と行っていた。

 内海の外、外海は潮の流れが早く深い、そのため二、三人の小さな船で外に出てしまったら最後、内海に戻ることは出来なくなって何処とも知れない大海原へと永遠に彷徨う羽目になってしまうのである。

 ミーハマットの港町では昔から怖い海の話が幾つかあり、その一つに漁師が外海から手招きして呼んでいる船を見たというのがあった、その船に乗っていた人達は皆、干からびた体で腕をゆらりゆらりと振って手招きをしていたという、その手の動きに魅入ってしまうと、船は外海へと引っ張られて潮流に連れ去られてしまうという、誘い漁船の話が有名であった。

 朝もやの濃い時によく起きると言われ、この辺りの漁師はその時間帯には船を出さないというのが鉄則になっていた。

 他にも内海には隠れた巨大な怪物がいて、その上を通る船を大きな口で丸呑みにすると言われ、黒い影が水面に漂っている場所は通らないようにしているとか、見えない海の中には数限りない怖い話があった。

 三つ目の町で一人の漁師から船を売りたがっている者がいるという話を聞き、その人物の居場所を教えてもらった。

 最南の港町コーバに住むという人物の家に行き話を聞いてみた。

 小さな町は海と三方の山に囲まれ、隠れるようなひっそりとした港町だった。

 人も少なく年齢の高い者が多い町は、漁港にも活気がなく何か疲れた雰囲気で船の手入れや網の修理をしているのを見かけた。

「寂れた町ですね……」

 家の修理もままならないのか、壊れた箇所を木の板で継ぎ足して、その場しのぎの修理で済ましている家々が多かった。

「船を売ってくれるという家に行ってみますか」

 静かな町の中に二人の存在は余りにも眩しく、歩いているだけで通り過ぎる人達から奇異な目で見られた。

 余所者がこんな田舎に何をしに来たのだ、と思われているような目で見られながら、一軒の家に足を運んでいった。

 扉を叩くと、中から年老いた老人が出てきた。

「あのドルエンという人に会いに来たんですけれど居られますか?」

 トムが話しかけると、

「ドルエンは儂じゃが、あんた達は誰じゃ」

「船を売りたい人がいると聞いて来たんですが、売って頂きたいのですが」

「ああ……船か、勿論構わんが、ふむ……ちょっと待っててくれ」

 老人が一度家に姿を消すと、暫くしてから外に出てきた。

 老人に連れられ波止場に向かう、そこには小さな船が一艘、今にも沈みそうに浮かんでいた、それを見てマルティアーゼは不安が隠せず、

「まぁこれは人が乗れるの?」

 つい言葉を出してしまった、それに対して、

「当たり前じゃ、これで儂は長年漁をしてきたんじゃ馬鹿にするな!」

 ドルエンという老人が怒って言い放った。

「申し訳ありません、マールさんも口を謹んで下さい」

「ごめんなさい、変な意味で言ったつもりはないのだけれど、見た目が古く感じたからつい言葉が出てしまったの……」

 マルティアーゼは眉を下げて困った顔をした。

「ふん……、若者は皆、都会に出て行きよって年寄りだけだからと町が廃れたわけじゃない、馬鹿にされるのは好かん、儂等には昔からの伝統を守るという使命があるのじゃ、この船とてその伝統を引き継いで作った物なんじゃ、見た目は悪くともしっかりしておるわ」

 腕を組んでへの字にした口元から言葉が漏れる。

「……そうですか、その伝統ある船を手放すのはどうしてですか?」

 トムはドルエンの機嫌を見ながら質問をしてみた。

「幾ら船は使えたとしてもこの体の方がガタが来ているでな、こればかりは儂の問題じゃ、どんなに大切な物でもこのまま此処で浮かぶだけの物に成り下がるよりは誰かに譲ったほうが良いと思っただけじゃ、後を継ぐ者も居らんからな……、それとお主らは船を手に入れて何処に行くつもりじゃ、まさか霧の島に行くんじゃなかろうな」

 ドルエンが流した視線を送ってきたが、トム達は何の事やら理解できなかった。

「霧の島とは何ですか?」

「違うならいい、あそこだけは行ってはならん、あの島は生きて帰ってこれん死の島じゃからな、もし其処に行くというなら船は売らんぞ」

「その霧の島には何があるんでしょうか?」

 島という単語が気になってトムが聞き返した。

「知らん、生きて帰ってきた者がおらんのじゃから分かるはずもなかろう、最早昔話となろうかと思う程前から興味半分で行く奴らが後を絶たん、それに三十年前にも島に行った者を海の上で待っていた仲間達が悲鳴を聞いたと……、島に入って行ったのは十人、悲鳴の後いつ迄経っても仲間は戻って来んかったそうだ、待っていた奴らは恐ろしゅうなって港に舞い戻ってきて、その話を聞いた若者達が助けに行ったが其奴らも帰って来んかった……、その中の一人が儂の息子じゃよ、元々人の少ない町から働き盛りの男達が十人以上も居なくなってしまったんじゃ、これ以上の被害は出せぬと島に近寄るのを町長が禁止したんじゃ、それ以来この町からは誰もあの島に行っとらんが何処から話を聞いてきたのか、町の外からたまにあの島に行こうとする者が来よる、まぁ誰一人帰ってこぬがな……馬鹿どもが……」

 ドルエンは遠い目で海を見つめていた。

「…………」

「その島はどの辺りにあるのですか? そんな危険な場所なら後学のために聞いておきたいのですが……」

 ドルエンは南に見える岬を指を差して、

「ここからあの岬に向けて真っ直ぐ行ったところじゃ、ここの漁場はあの岬から南へは行ってはならん事になっとる」

 マルティアーゼとトムは目を合わせた、その方向はこれから行こうとする島に違いないと感じていた。

「それでお主らは船で何をするつもりなんだじゃ?」

 相手の返事次第でドルエンは船を売るつもりはなく、じっとマルティアーゼ達の言葉を待った。

「え……と、私達は北側の……そう、貝です、大きな貝があるというので取りに行こうかと思ってまして……」

 トムが口をついて嘘をついた。

「…………ふん、まぁええじゃろう、じゃがな決してあの島に行くではないぞ」

「……はい分かっております」

 半信半疑のドルエンだったが、船を売ってくれる事を了承してくれた。

 かくて船を手に入れた二人は、明朝海に出ることにして、今晩は体を休めておこうと近くの宿に泊まった。

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