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「明日から準備をしようと思うの」
食事の後にマルティアーゼから竜の骨の採集に行く準備を始める為、明日から必要な買い出しに行こうと言ってきた。
「何処まで行くつもりですか?」
トムはその前にあの地図に載っていた四ヶ所の内、一体どこに行くつもりなのかを聞いた。
もう反対をする事もなく、マルティアーゼの後を歩くと決めたトムに残された選択は守ることだけだった、どんなに過酷な場所であろうとも危険だと分かっていても、彼女が行く道を妨げるものを排除し、安全に歩めるように手助けするだけだと決めていた。
「行き先は……内海の孤島よ」
「海……ですか、何故また……」
「ボルドさんが教えてくれた場所は、話を聞いても危険なところだと思うし、南の山は此処からだと遠すぎるとなれば、残るのは内海だけしかないもの、そこもどんなに危険か分からないけれど、焼けた石が飛んでくる場所や、骨のある場所を運任せで探すところよりはましだと思ったのよ」
「ですが船もないのにどうやって行くつもりですか?」
「うん……それが問題よね、どこかで船を手に入れないといけないわ……、何処かの港で手に入らないかしら」
「いくら内海でもかなりの距離がありましたから、海上で寝泊まり出来るぐらいの船がありますかね、大きすぎても動かすのも大変になるでしょうし」
「孤島まで行ける船があるかどうか、まずは港町に行ってみないと分からないけれど……、一番近い町だと何処になるのかしら、多分ミーハマットの何処かになるわよね」
「ミーハマットだと……、コーバという所が一番南の港町になりますかね」
地図を広げて調べていたトムが、指で場所を示しながら返事をした。
あの地図に載っていた海の真ん中の孤島は、幾ら昔の曖昧な地図であっても明らかに陸からかなりの距離が離れており、一日で渡れるような所にはなく、コーバの町からでもまだまだ南東に進んで行かないといけない場所にあった。
「私も行かないといけないかな……、また怖い思いするんでしょう」
「…………そうね、スグリは残ってて頂戴、これは私の我儘なんだし、アルステルで自分の出来る仕事をしていてくれればいいわ、一通りの仕事のやり方は覚えたはずなんだし」
「トムさんは行くんですか?」
「俺は行くよ、一人では危ないだろう」
「……そうですか」
マルティアーゼの私用で危険な場所に行く事に反対は無かったが、トムも付いていくことにスーグリは二人の関係に疑問が浮かんだ。
自分と出会ったときから二人は常に一緒に行動していて、初めは恋人同士なのかと思っていたが、手を繋いだり囁きあったりといった恋人ならではの恋愛行動もなく、マルティアーゼは普通に話しているのに、トムの方は何だかご主人様と接しているように一枚壁を作っていた。
前々から気にはなっているが中々そういう事を言うだけの勇気がなく、友達と云われていても何処まで踏込んだ話をして良いのかどうかも分からない。
村ではそもそも同い年の女の子もいなかったので、そういう深いお話などしたこともなかった。
じっと見つめるスーグリに、トムも何かを感じたのか、
「マールさんには助けて貰ったことがあったから、その恩返しだよ」
そっとトムが付け加えた。
「ふふっ、トムにも少しは遊びをしてくればって言ってるんだけど、これが中々の堅物なのよ」
「最近は私なりに有意義に時間を使ってますけどね」
「あら、そうなの、何か楽しいことでも見つけたの?」
「町を散策したり、鍛冶屋でいい物がないか見てたりしてますよ」
トムは自分なりに暇な時は楽しんでいるのだと言わんばかりに、自慢気にマルティアーゼに教えた。
「…………そ、そうなの、それでだけど明日から支度をして、明後日には出発しようと思うんだけれど」
「あ……待って下さい、よければ三日後にしてもらえないですかね? 剣を修理に出してるんですよ、出来上がるのが三日後らしいので取りに行ってからでいいですか?」
「そう、じゃあ三日後にしましょう、スグリはここでお留守番をお願いよ」
「……うん」
何だかはぐらかされたようにスーグリは納得がいかない顔をしながら、話題を終わらされた。
荷物はとにかく持って帰るのが骨ということなので、帰りが重くなるといけないと思い、今回ばかりはマルティアーゼも必要最低限の荷物にして嗜好品は持っていかないことにした。
大事な物は身につけ、荷袋には食糧と火起こし道具と骨を括る縄だけと最低限な物ばかりだった。
トムは鍛冶屋に行き修理していた剣を返してもらうと、
「おお……新品のようですね、……素晴らしい柄まで綺麗にしてもらって有難うございます」
「ははっ、刃だけ綺麗にするのも何だったから、つい拭いていたら夢中になってしまって、それでまた当分使えるだろう、また修理する時や新しいものを買う時はよろしく頼むよ」
「はい、勿論です」
(アルステルにも腕のいい鍛冶屋がいたんだな、最近は鍛冶屋に何かと縁がある)
そう思いつつ宿に帰ると、スーグリとマルティアーゼが宿の外で準備万端で待っていた。
トムはその足で荷物を積むと、スーグリと挨拶を交わし出発した。
「あの子ずっとしおれた顔をしてたわよ、いつ帰ってくるの、死なないでねって心配してたわ」
「まぁ今回は付いてこない方が良いとは思います、まだ先日の怖い思いが抜けていないでしょうし、何かあった時の対処に慣れていない、というよりそんなに場数を踏んでいない彼女にあの場所はきつかったかも知れませんね」
村で平和に暮らしていたスーグリに、人の死をまじまじと目の前で見せられてかなりの動揺があったろうと思われた、そんな悩んだ顔はしなかったにせよ、彼女にとっては御伽話のようなお話の中だけの出来事だと思っていたに違いなかった。
マルティアーゼやトムの二人でさえも、旅の間に魔導で倒した事も人を切った事もあったにも関わらず、あの時はきついと感じずにはいられず、スーグリではかなりの事だったはずである。
「骨を持って帰ればお金にもなるわ、材料とは別に資金分は持って帰りたいわね」
「欲張ると碌な目に会いませんよ」
「めったに手に入る物じゃないんでしょう、貴方も一緒に作って貰えばいいじゃない」
「私はそんな高価なものはいいですよ、新品みたいに修理してもらったばかりですからね、私にはあれは軽すぎます、この剣ぐらいずっしりくるほうが持っているなと感じられますからね」
安物でも大事に使えば宝になる、あの言葉をトムは思い出した。
何処にでもありそうな剣だったが、長い間これで苦難を切り抜けてきたのだ、体に馴染んだ愛着ある剣は使えなくなるまで大事にするつもりであった。
「なるべく多くの骨を持って帰って売ればお金になることは間違いないわ、そうすれば生活資金も貯まるし剣もタダ同然で手に入るじゃない、今持ってるお金って合わせても六百ぐらいしかないんでしょう」
「そうですね……、全部使ってしまったら一文無しになりますから、使えるとしても五百……になりますか」
「一体何に使ったのかしらね……、袋一杯に入ってたのに」
(ずっと旅をしてて宿代だけでも馬鹿にならないし、何度も荷物や服を買ってればそりゃ直ぐに減っていきますよ、他にも人に家や生活費も渡したんですから、このあたりの市井の事が分かっておられないんだ)
マルティアーゼには言えばまた喧嘩になるような事を思い浮かべ、トムは頭の中で愚痴を言っていた。
そんな事を云われているとは感じていないマルティアーゼは、この旅が成功すれば暫くは楽が出来るとしか考えていなかった。




