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「折角新しい命が芽吹いたのよ祝福してあげないと」
「どうせ時間の問題だったろう、あいつら結婚してねえだけでほぼ夫婦みてえなもんじゃねえか」
「結婚ね……」
マルティアーゼも色々と婚約の話が持ち上がってはいるが、ミサエル達のような恋愛話を聞くと政略結婚がとても冷たい恋愛のように思えてくる。
「お魚さんはリンさんと結婚はしないの、ずっと離ればなれでしょう、歳を取ってくれば沿岸州に行くのも大変になっちゃうわよ」
「まだそんな年寄りじゃねえよ、別に離れてっからって寂しくはねえよ、俺達は会いてえ時に会うのが性に合ってるからな、別段それで喧嘩もした事はねえし」
「二人とも自由人だものね」
フィッシングを見ていると恋愛でも色々な形があるというのを思い知らされ気分が落ち着く、常識に囚われない人の考えは好きだけれど周りからすれば迷惑な人間に見えるのだろう、マルティアーゼ自身腕白公女と言われて城を抜け出しローザン大公に何度も怒られた経験がある、その度に束縛される事に抵抗を感じていた。
フィッシングに同調するのは、そういった常識が嫌でもっと自分らしく生きてみたいと思う所に親近感を覚えていて、フィッシングの場合は家出でそれが叶えられたがマルティアーゼの場合はその血に抗えず結局国に戻ってしまった事だ。
「でも、二人の子供だなんてどんな子が生まれるのかしら……」
「男でも女でもミエールさんに似て欲しいです」
「ミサに似てたら俺なら腹から出るのを拒否するぜ、けけけっ」
「どちらでも良いじゃない、子共は皆等しく可愛いわ」
ミサエルが聞いたらどう思うのか、三人はああだこうだと考察をして話に花を咲かせていた。
「二人が来てくれたのはとても嬉しかったわ、まだグルバヌスは生きている、彼を倒さない限りお父様やお母様の仇を取ったとは言えないわ、彼の事を知っている貴方達がいてくれればとても助かるわ」
「俺だって奴に借りがあるしな」
「グルバヌスはとても強かったです、それにもの凄く嫌な感じがしたです」
「あぁ……こいつは奴と戦って逃がしちまったんだぜ」
「ええ、ギルド長から話は聞いているわ、バルさんの強さには驚いていたのよ」
ローザン遠征帰国後にギルド長から直接聞いてグルバヌスを後一歩まで追い詰めたバルートに驚いた、彼の強さがそこまで上がっていたなんて思っていなかったからだ、いつも弱気で戦うのを避けていた彼が本気になればこんなにも強いのかと思っていた。
その彼が自らエスタルに出向いて私の下で働いてくれる、これがどれだけ心強い事か。
「バルさんならもっと上を目指せるわ、貴方にはそれだけの才能が眠ってると思うわよ」
「そんな事ぁ昔っから俺がこいつに言ってた事だ、本気になりゃあグルバヌスの奴なんて簡単に倒せるのにいつまでもぐだぐだ弱気な事ばっか言ってやがったからな、こいつぁ切羽詰まらねえと本気にならねえんだ」
「僕は今でも人殺しなんてしたくないです、でもグルバヌスだけは危険な感じがするです、とても嫌な……触れるのも嫌な感じがしたです」
「あんな奴を誰が触りたいと思うんだ」
「手で触るとかじゃないです、何て言えば良いのかな……僕もよく分かんないけどもの凄く寒気がするです」
言葉に出来ない感覚を表現出来ないバルートは、苛々としながらも必死にグルバヌスは危険人物だというのを伝えようとした。
「バルさんの言いたい事は何となくだけれど分かる気がする、私にも言葉にし難い嫌悪感を感じたわ、ローザンで彼と目が合っただけで目眩がして気持ち悪さを覚えたのよ、彼には魔導以外でも隠れた何かがある気がするわ」
「けどよ、奴だって怪物じゃねえんだ人間だぞ、剣で切れねえわけはねえんだ奴の懐に入った瞬間が最後だぜ」
今度こそグルバヌスの体に剣を突き立ててやるぜとフィッシングが拳を叩いた。
「そのグルバヌスだけれど、今ギルドの方でエストラ王国にいるという情報から調査に向かって貰っているのだけれど、そのエストラ王国がキエヌ王国に戦争で負けたらしいわ、国王はキエヌで幽閉され国は今キエヌ軍の支配下になってるみたいなの、今現在グルバヌスは行方不明になってるらしいの」
マルティアーゼは最新の情報を二人に伝えた。
「戦争があったですか……」
「南方でも情勢が乱れていて不安定らしいわ、沿岸州でも争いが起きてるみたいだし中々情報の方も塗り替えられてこちらでも精査するには難しくなってるのよ」
「戦争に巻き込まれて死んでいてくれりゃ手間が省けるけどよ、俺としちゃ一矢報いるまではくたばんなよって思いてえけどな」
「彼は中級をも倒しているから深入りした捜索が出来ないの、私としても彼の死を見届けるまでは枕を高くして寝られないわ」
「どちらにしろ、マルの近くにいれば奴の居所が分かるか待ってりゃ向こうから来やがるんだろう、俺の目的の一つが奴を倒す為に来たんだからな」
「有り難う、貴方達の爵位について反対意見があってね少々時間が掛かってたのだけれど、二人には侯爵の爵位を授けようと思っているの」
「いきなり侯爵って僕……魔道士だから爵位なんて要らないです」
「爵位目当てで来たわけじゃねえぜ、俺が貴族が嫌いなのは知ってんだろ」
二人共爵位には興味が無いと伝えるとマルティアーゼは苦い顔をして、
「初めは私直属の部下として働いて貰おうと考えたんだけど、国王の側近扱いという立場が諸侯の人達から見れば特別扱い、自分達は貴方達より信用されていないんじゃないかって思われたら困るから、彼らと同じ立場になって貰おうと爵位を与える事にしたのよ、だから形式だけでも受け取って欲しいのよ」
「面倒臭えな、どうせなったらなったで貴族にゃ相応しくねえって文句を言いやがる奴が出てくるんだろうよ、どっちにしたって文句を言う奴はいやがるんだぜ」
「僕、貴族になっても何も知らないです」
「二人には他の諸侯と比べて私兵の数も領地も規模を縮小した場所を治めて欲しいの、別段何をするってわけでは無いのだけれど定期的に報告を受けて自分の町をよくしてくれれば良いのよ」
「僕に出来るのかな……」
した事も無い仕事に不安しかないバルートは、今更ながら逃げ出したくなって体をそわそわし始めた。
「馬鹿ここまで来て何びびってんだ、覚悟を決めてきたんだろうがよ」
とフィッシングから一喝が入る。
「あわわ」
「もし分からない事があれば私に言ってくれれば良いし、屋敷には侍女や使用人もいるから心配しなくて少しずつ覚えて行けば良いのよ」
「楽な生活になるのにびびってる奴は初めてだぜ、おめえは貧乏生活の方が好きなのかよ」
「だって……」
フィッシングは余裕が有り過ぎて反対の意味で目を付けられそうな程、堂々としていた。
「そうよ、お魚さんだっているんだし誰だって初めては恐いものよ、慣れてしまえば楽しく感じてくるわよ、私だって初めて外の世界で生活を始めた時は右も左も分からなかったものよ、トムに教わって色々と覚えて行ったわ」
「トムかぁ……あんだけマルの側を離れなかった奴が出て行っちまったか」
「えぇ」
「あいつとは一度剣を交えたかったな」
マルティアーゼの気持ちとは裏腹に、フィッシングの感想はトムと手合わせが出来なかった事であった、これだけ長くいたのにトムと力比べをした事がなくお互いの力量を測れずにいた。
「……出て行っちまったか」
何を思ったのかフィッシングは部屋の天井を見つめてぼそりと呟いた。
「暫くは此処で泊まって貰って準備が出来たら領地に向かって貰うわね」
帰る女性陣と来てくれた男性陣に悲しみと喜びが交差する、これも人の道の選択としてマルティアーゼは毅然と対応してそれぞれの決めた事を受け入れた。
新しいエスタル構築に色々なしがらみや反対といった障害はあるだろうが、マルティアーゼが望む国、動かしやすい国を目指し始めた所である、その第一歩が諸侯の領地、配置の取り決めだった、その中にフィッシング達アルステルの仲間を組み込もうと画策したのだが、もう少し多くの人を望んでいたが来てくれたのは二人だけだった。
それでも剣と魔導の強者が来てくれただけでも頼もしい限りで、エスタル貴族にも良い意味で影響が出る事を願っていた。




