1095 緊張の謁見
貴族街を通り突きあたりに見えるブランキッシュ城、あの城に潜入したのはいつの頃か良い思い出ではない記憶が蘇る。
馬車に乗せられた四人は豪華な家々を眺めながら城の前で下ろされると、荘厳なブランキッシュ城を見上げて緊張した面持ちで城へと連れて行かれる。
高く大きな玄関に真っ直ぐ伸びた階段があり、左右の通路は長く赤い絨毯が敷き詰められていた。
到着を待っていた女官と挨拶を交わして階段を上がっていく、二階に上がった時にちらりと下を見るととても高く感じた、一階部分の高さが一般の住宅の二階分に相当する高さがあり、頂上から見る高さがどれぐらいになるのか想像が出来ない。
次の階段まで少し通路を進んでからまた上がって行くのを繰り返すと大扉が待ち構えていた。
扉の両側に立つ兵士が二人で扉を開け放つと大広間が視界一杯に入ってきた。
居並ぶ諸侯と大臣達が一斉に四人に振り返ると、その中央を伝令兵と四人が進み出た。
「陛下、ご指名の者達をお連れ致しました」
「ご苦労様」
とだけ言って伝令兵は引き下がっていく、残された四人は目の前に立つマルティアーゼに目線を上げると、黒一色のドレスに黒い短外套を羽織ったマルティアーゼが玉座から立ち上がりにこりと笑っていた。
「待っていたわ、貴方達だけなの?」
「……」
声や顔ははいつもの彼女そのものなのに不思議な雰囲気を醸し出していて、別人の様な感じが四人を口籠もらせた、誰が答えるのか顔を見合わせているとフィッシングがふっと息を吐いて仕方なさそうに応えた。
「エスタル王ご指名の者は私達四人のみで御座います、皆で協議した結果、他の者達にはそれぞれの道を歩むとの返答で我々だけでエスタルにやって来ました」
「そう、それは残念だわ、いきなりの事だったのですから皆には迷惑を掛けたでしょう、ご免なさいね」
「……いえ」
エスタル王を臣下の前で謝罪をさせたフィッシングの方が焦った、しかしそんなの事を気にしていなさそうにマルティアーゼは続けて、
「皆に紹介しておきます、この方達は私が旅に出ていた時にお世話になった友人達です、彼らは戦友でもあり友人でもありますのでそこの所を覚えておいて下さい」
「はっ」
一体何処まで俺達の関係を伝えているのか、此処にいる者達からざわめきやどよめきの声は流れてこなかった。
「皆は私の声に応えてくれたのですね」
マルティアーゼは再度尋ねた。
「私ジュエル・フィッシングと隣のミナド・バルートは国王陛下の為に馳せ参じましたがアルコット・スーグリとカルエは陛下にお目にかかってから決めたいと申しております」
「そうなのスグリ?」
「えっ……えっと」
いきなり名を呼ばれてしどろもどろになったスーグリは、きょろきょろと辺りに視線を泳がせた。
「いいわよ、普段通りに話してくれて」
こんなに大勢の国の人達がいる前は初めてで、丁寧に話そうと思うと言葉が出て来ずあたふたしているとマルティアーゼが察してくれたようだ。
息を整えマルティアーゼだけを見て、
「私は剣術も魔導も中途半端だからマルさんの役に立つのかなって……何が出来るのか分かんなくて聞きに来たんです」
「そんな事……貴方は努力家よ、剣だってトムに教わった事をちゃんとしてきたしバルさんからも魔導を教わってるんじゃなかったの」
「はっ、そうだトムさん……」
振り返って諸侯の中からトムを探してみた、大勢の視線が自分に向けられながらも見回したがトムの姿は見当たらなかった。
「あれ、マルさんトムさんは何処に居るんですか?」
向き直ったスーグリがマルティアーゼに尋ねると、彼女は目を伏せ申し訳なさそうに、
「ご免ねスグリ、トムはもうエスタルにはいないの、全て私の至らなさが原因なのよ」
「そんな……何処に行ったんですか?」
スーグリは驚きで声が震えていた、あんなにマルティアーゼを守る為と付き従っていた彼がエスタルを出て行った、一体何があったのか聞きたかったがそこまで言葉が出て来なかった。
「分からないわ、彼は自分の人生を歩むからと出て行ったのよ」
スーグリにとっては師匠であり尊敬するトムがいなくなった事を伝えるのは辛かったが、これも通過しなくてはいけない儀式だと思っていた。
「詳しい事は後で話すわね」
と、マルティアーゼはカルエに目をやった。
彼女は自分を探しに深い森から単身出て来た、今となっては国王になった身分で彼女と会う事が出来る最後の機会だろう、それにカルエは他国に仕える為に出て来たのではない彼女には帰る場所があるのだ、その事を彼女も分かっているはずだ。
「カルエはこの国に来た意味は分かってるわよね、私の下で働くと言う事は故郷に簡単には帰れなくなるのよ」
「うん分かってるだから来たんだ、、最後にマールの顔を見に来た、私には父様がいる村の皆がいるあの村に帰るよ、私にはやっぱり森があってるんだ、その代わりサム達の事をお願いするよ」
「サム……あの子達の事を知ってるの?」
「うん、少しだけ一緒にいたんだ、もうすぐしたらマールの所に来るかも知れないよ、皆大きくなってた」
(なんだあの子は、汚い言葉使いだな全く……)
(陛下の友人といえど最低限の礼儀も知らない奴らばかりか)
(なぜこんな奴らを連れて来られたのか)
居並ぶ諸侯達の胸には四人に対する様々な感情が湧いてきていたが、表には出さずに聞き入っていた。
「国王陛下、その件につきましては後ほどお伝えしたい事があります」
とフィッシングが答えるとマルティアーゼは、
「そう分かったわ、では貴方達二人に関しては私を助けてくれるのね」
「はい」
「あの……こ、国王様」
そこにバルートが口を開いた。
「何、バルさん」
「僕、一度ギルドからのお誘いを断ったです、それなのにこ、国王様の下で働いても良いのかなって……」
「大丈夫よ、何かあれば私から伝えるから心配しないで」
「あ、有り難う御座います」
ほっとしたようにバルートは言った。
「ここでフィッシング、バルートの二人には爵位を与えたいと思います」
来たばかりの平民に爵位を与えるなんて、いきなり過ぎる発言に諸侯達がはっとする、成果でも出自でもないただの友人に爵位を与えるなんて信じられないと言った表情でマルティアーゼを見た、その疑問に答えるようにマルティアーゼは、
「皆が不安に思う事は分かります、ですがトムの事を思いだして欲しいの、彼もまた元は警備兵でしたが皆は彼を受け入れてくれたではないですか、ここにいるフィッシングやバルートもまた特別な才能の持ち主なのです」
ここでやっと微かなざわめきが起きた。
「もしそれでも信じられないのなら、後日腕試しをして貰って構いません、此処にいる全員が納得出来る形で確認して貰えば良いです、もし出生に不満があるというのなら一つ伝えておこうと思います……フィッシング、彼はサスタークの貴族出身です、ご免なさいね」
「……いえ」
フィッシングが目を伏せる。
マルティアーゼがフィッシングに謝った、彼が貴族というのを捨てた理由を知っているが故に知られるのが嫌だろうと思ったからだ。
(成る程、だからあいつだけ真面に話せたのか)
「バルート魔道士に関してはもうこの場にいる事自体、野良ではなく、彼は中級魔道士でそれがどの程度の実力かはお分かりでしょう」
「ほう、あの子共の様な子がか……」
誰かの声が響く、その声にマルティアーゼが答える。
「バルート魔道士の実力には私も驚くほどです、彼はヴァン出身でありながらエスタルまで一人で旅をし魔導学校を下級で卒業しているのです」
おおっと低い感嘆の声がそこかしこで聞こえてきた。
「彼らは皆が考える以上の実力を備えています、彼らはきっとこの国の一角を担う人物になると信じてます」
マルティアーゼはそう言い切った事に、異論を投じる者は出て来なかった。
四人は終始緊張したまま後でまた会いましょうと謁見の間を後にした、まだこの後も色々と四人について質問に答えていくのであろう。
四人は不安を抑えつつ連れて行かれた部屋に各自静かに入って行った。




