1093 夢が現に
「サレス様、気になる事が起きました」
再建された城も随分と見栄えの映える内装になっていた。
天井の崩れていた三階の大広間も今では立派に修復され部屋の入り口から玉座までには赤い絨毯が敷かれていた、玉座だけはまだ彫刻の入っていない簡素な椅子だが、大きな切り株から作られた重厚に仕上がっていてぽつんと壇上の中央に置かれていた、そしてサレスの王室も新たに四階に作られ今はそこで生活を送っている。
その玉座の前でタリアがサレスに報告をしていた。
今はまだ臣下という者は魔道士三人にマリアだけで物悲しい、国というにはまだ町長のような規模でしかない国だが魔道士達の力でこれまでやって来たのだ、戦闘でなければ今の人員でも十分であり大抵の物事は魔道士だけで事足りた。
「何があったんだい?」
「集落の方に人が集まってきているとか、今はまだそれ程ではないのですがこちらに来た来た人達の空き家に住み着いているとか人伝えで聞きました」
「何処からやって来た人達だろうね」
「ローザンです」
「何かあったのかな、あそこの国王はマルティアーゼ公序の姉のディアンドルだったか、かなり癖のある人物だったね、圧政が嫌で逃げてきたのかな」
「マルティアーゼ公女、今は王女ですがエスタルに来た事でローザンの情勢調査からは随分と離れていましたし、国の建設で調べに行く時間もなかったので何が起きてるのか分かりません」
「ローザンには興味は無いが何故わざわざ街道を使わずに道も無い森に逃げてきたのか気になるね、ローザンからも結構な距離があるんだろう」
「調べに行くのは良いのですが、ここの指揮を誰か代わりにしてくれるなら行ってきますよ」
「ふむ……それよりその逃げてきた人達に話を聞くだけなら一日もいらないんじゃないかな」
「そうでしたね、では明日にでも集落に行って事情を聞いてみましょう」
そう言うと、タリアは翌日の朝には城を出て馬を飛ばして集落へ向かった。
東にある幾つもの点在する集落もかなりの人がサレスの国エリニアに移住してきて、集落には村を守ってきた高齢やその家族などが残っているぐらいだった。
過疎化した村に大勢の来訪者がやって来て助けを求めて来た、しかし村にはもう助けてあげられるだけの物資もなく、出来るのは空き家になった家に住まわせてやるぐらいだった、その村の空き家が埋まってしまうと他の集落へと移動していた。
タリアが報告のあった集落に到着すると、通りに見慣れぬ小綺麗な格好をした人を見つけた。
(あれか)
早速彼らに声を掛け何故ローザンからこんな場所まで来たのか尋ねてみた、するとローザンはマルティアーゼ率いるエスタル軍と戦争になって、彼女の手によってディアンドルが殺され、その後にやって来た三匹の竜によって首都は壊滅、這々の体で国を脱出してきたと教えられた。
(マルティアーゼが自らの手でローザンを滅ぼしたのか)
その裏にはエスタル王死去に関係する事なのか、ローザン大公夫妻の事件なのか定かではなかったが、彼女がそうしなければならない理由があったのだろう。
(ローザンもマルティアーゼが出て行った後の事も、エスタルに関しても直接首都に行けないから情報が遅れがちになるからな、物事が終わってからの後手の情報ではこれからが心配だ)
「しかし首都以外の町に避難は出来なかったのですか?」
「他の町は自警団を作っていて追い出されちまったんだ、国王がいなくなっちまったんだもう軍も警備兵も関係ねえ、自分達が生き残るのが精一杯なんだろうよ、街道に逃げられた奴は運が良かったが、俺達は南に逃げちまったからそのまま森を彷徨ってやっとの思いでこの集落に出て来られたんだ」
その男は家族連れだったようで、家族を守る為に首都へ戻ろうとせず南に逃げてきたらしい。
「必死に金と食糧だけを持って逃げて来ただけでも俺達は運が良かった、それ以外の財産は全て無くなっちまったよ」
「そうですか……もし宜しければそこの街道を辿って行けばもう少し大きな町がありますよ、今町を建設中ですからそこなら生活をやり直す事も出来ますよ」
「本当か、リム跡地に町か……一体何処の国が作ってるんだ?」
「エリニアという新興国家です」
「エリニア……聞いた事がねえな、でも新興国か、ローザンはもう駄目だし一度そこに行ってみるのも悪くねえか、有り難うよ兄ちゃん」
話を終えたタリアは他の移住者にも声を掛けていった結果、どうやらローザンでの出来事は事実のようでエリニアの話をすると、こんな寂れた所よりは良さそうだと集落から出ていく準備を始めて行く。
(本当にローザンから逃れてきたのならこれは一大事だな、これからもどんどん人が押し寄せてくるかも知れないぞ)
タリアが言ったのは悪い意味では無い、これは絶好の機会という事で国を捨て避難してくる人達がこれからも増えるというのであれば、一気に人口を増やす事が出来るのだ、その代わり建設を急ぎ町作りにもっと力を入れないと避難民で溢れてしまい、住めないと分かれば中央国に流れて行ってしまうかも知れない、ここで増やせれば国としてかなり見栄えも良くなるはずだ。
(早く帰ってサレス様に報告しないといけないな)
エリニアから一番近い集落でこれなのだ、他の集落なら此処以上に人がいると考えれば千人単位の数が予想された。
今のエリニアの住宅街を作るのに結構な時間が掛かったのに、その十倍の人が押し寄せてくるとなればいくらカミュラやディトロスの二人でも資材の調達は楽ではなく、建築に掛ける時間も人も足りない。
(さぁどうしますかサレス様、国の一大事ですよ)
タリアは国に駆け戻っていく、躍進出来るかどうかの試練といった思いでタリアは興奮しながらサレスの元に走った。
戻って来たタリアは息を整える暇も無くサレスに報告した、冷静に聞いていたサレスの返答は即答だった。
「では家の建設を変更しよう、一軒家は建設中を除いて中止とし今後は大勢で住める家の建設に変えよう」
「と、言いますと?」
「そうだね、簡単に言えば大きな宿のようなものだよ、一家族が一室で住めるぐらいの部屋が連なった大きな宿を作るんだよ、階層を増やせばそれだけ多くの人を住まわせる事が出来るだろうし土地の有効活用にもなる、内装や建築に関しては今の棟梁と相談の上、決めてくれれば良い」
「大きな宿ですか……何となく言って事は分かるのですが想像が付きませんね」
「昨日君からの報告を聞いた時から考えていたんだ、人が流れてきているなら今の整地では足りないだろうとね、それに人材を確保するには絶好の時機とは思わないかい、今は借家として住まわせ人をこの地に留まらせておきたい」
(俺から言わなくても考えていたのか)
「では早速、建設が出来るか相談してきます」
想像が大きな宿と言うのは棟梁に伝えるには理解されやすい伝え方であった。
「ローザンから……」
ほう、と感心したように直ぐに受け入れてくれた棟梁の頭の中では、何処をどうするか規模はどの位か予想を組み立てていた、それを図面に描き込んでいくとタリアの想像より遙かに現実的な立派な家が書かれていた。
「国王の言わんとするのは多分こういう家だろう、これなら少ない土地で階層を増やせばより多くの人が住めるな、それに資材も随分と節約も出来て良いのでは無いだろうか」
「平屋に住むと考えれば良いのですね、庭はないが住むだけなら十分でしょう、それで建設は可能ですか?」
「規模の大きい宿だと思えば良いだけだ、ちゃんとした設計を書いて早速建設に取りかかるとしよう」
「もうすぐ人が流れてくるでしょうし人を回してでも急務でお願いします」
建築予定を大幅に変更し共同住宅の建築に取りかかり、町は少しばかり騒がしくなった。
ローザン崩壊は国だけではなくそこに住む人達の生活の場をも奪い、住めなくなった地を放棄せざるを得なくなった人達がエリニア国にやって来た、国の問題であった人手不足も数千人でも増えれば随分と国家運営が楽になる。
(避難民の中には兵士もいるだろうし国軍として雇う事が出来れば国の形が出来てくる、これはマルティアーゼ王女に感謝しなくちゃいけないかな)
タリアはサレスの妄想から始まった国造りが、現実に少しずつ大きくなっていく様をみて感動を覚えていた。




