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若い頃の苦い思い出から人と親しくなるのが恐かったバルートが、人との出会いを経て人に頼られる皆から認められるようになって、やっと自分の力とその使い方に意味を見出したような、誰かの為に何が出来るのか考えるようになっていた。
(僕がこの世界で役に立てる、必要とされなかった昔の僕じゃないんだ、僕に魔道士になれって言ってくれたオルサのお陰だよ、オルサに出会えなかったら今頃は)
バルートは心の中で感謝した。
いち早くバルートの才能を見出してくれたオルサでも中級にまでの実力があるとは思わなかったはずで、きっと今のバルートを見たら驚き喜んでいただろう。
(オルサ、僕もう自分を信じて生きていけるようになったよ)
「僕、行きます、ギルドを断っておいてマルさんの下で働くなんて怒られるかも知れないけど、僕の力でマルさんの役に立てるなら手伝いたいです」
バルートの声に力強さが混じっていた、あれだけ恐いのは嫌だ、安心して暮らしたいと言っていた彼が、今の生活から脱却して自分の意思で人前に立つ事を選んだ事に、皆の顔には驚きより笑顔が浮かんでいた。
「やっとおめえらしくなって来たなバル」
フィッシングがニヤニヤしながら言う、昔からバルートに期待を掛けていた彼がやっと本気になったんだなと嬉しく感じた。
「あとは俺だけか?」
最後の一人になったフィッシングの答えは……。
フィッシングの考えはエスタルに行く事に決まっていた。
剣豪になる事を夢みて一度はサレスの下でと悩んだが、彼の剣になる事を拒んだのにマルティアーゼに付く事への罪悪感はあった、
どちらもフィッシングにとっては魅力的な話ではあった、サレスの知的な考えは男でも引き寄せられる魅力を感じていたし自分の能力を十分に引き出してくれただろう、マルティアーゼだって初めて会った時から魅力的で、自然と人を集めてしまう力があり助けたくなる存在であった。
それぞれが人としてこの世界では格別な人物、二人といない存在であるのは認めざるを得なかったからこそフィッシングは悩んでいた。
認めてくれた人か助けたいと思う人か、どちらが自分にとって剣豪への道に近付けるのか考えた結果、おのずとマルティアーゼを選んでいた。
「俺も行くに決まってるぜ、別に貴族にゃ興味はねえがマルの所にいりゃああの野郎に会えるかも知れねえからな、この前のお礼を返さねえと気が済まねえ、まぁ俺よかバルが倒しちまいそうだけどな、へへっ」
「でもグルバヌスだけが目的じゃないんだよ、その後の事も考えないと飽きたから辞めるなんて簡単には出来ないんだよ」
デビットが念を押したがフィッシングは笑いながら、
「あぁ分かってる、バルが本気になったんだ、俺もそろそろ剣豪の道を駆け上がろうかなって思ってんだ、エスタルなら直ぐに昇り詰めるだろうが俺の目標は世界一だ、グルバヌスの野郎が南方の国にいるってんならそこと戦う事になんだろ、北方だけじゃねえ南方でも俺の名を轟かせてやるぜ」
皆、何か言いたそうな顔をしていたが場の雰囲気を考えて静かにしていた、これで一応全員の意見を聞いたデビットが改めて、
「皆、覚悟は出来たようだね、これまで色々と皆でこうして話し合ったりしてきたけど今回の話はかなり真剣に考えてくれたと思うよ、俺達の付き合いも長くなって子共を授かる人も出て来た、今までの様な関係ではなくそろそろ自分の生き方を考える時に来たと思うんだ」
「止めて下さいよデビさん、永遠の別れみたいじゃないですか」
スーグリが悲しそうに言う。
「いや人はこうして切っ掛けがあれば自分の道を見つけていくものだと思ってる、いつまでも同じ環境では生きていけないという事だよ」
「うんうん、そうだよスグリちゃん、皆昔に比べて大人になったんだ、ミサさんなんてお父さんになるんだよ、スグリちゃんだっていつかは子を産み母親になった時に子共の成長を見ていれば時間の変化ってのを感じるし、歳をとれば生き方にも変化が出てくるんだよ」
オットが諭す様にスーグリを宥めた。
「でもそうだね……私達のギルドも二人抜けるとかなり寂しくなるね、ミサさん達も家庭持ちとなるわけだしこの家も私一人じゃ広すぎる」
「なぁに言ってんだよ、まだエスタルに行くしか決まってねえだろ」
「僕だってギルドを断ったのに国王の下で働くなんて駄目って言われるかもです、もしかしたら此処に帰ってくるかもです」
フィッシングとバルートがオットに答えた。
「俺が先走りすぎたのがいけなかったかな、まだマルに会いに行く事しか決まっていないんだ、マルに会って話をしてからでも遅くはないからね、だからスグリやカルエさんもちゃんと話をしてから決めて来なよ」
デビットは自分が不安を煽るよな言い方をした事に謝った。
「ご免ね、こういう場で子共の事を話そうとは思っていなかったんだけど、私だってマルちゃんに会いたかったわ」
「だな、子供の事が無かったら俺もエスタルに行ってたかも知れねえけどよ、俺も親父になる事に腹括って此処で頑張るって決めたんだ」
ミサエルとミエールは顔を見合わせ微笑んだ、学生の頃から喧嘩ばかりしていてもいつも一緒にいた二人を見てきたバルートも嬉しそうにしていた。
「早く子供の顔が見たいです、きっとミエールさんみたいに可愛い子だと信じてるです」
「まだ早いわよバルさん、生まれるのは来年になるのよ」
「あっそうだ、お祝いしなくちゃ」
スーグリが立ち上がって買い物行ってきますとカルエを連れて出て行った。
「全く、ここはいつも賑やかだな、へっ」
「これが楽しいから今までやって来られたんだよ、こういう友人を集めてくれたマルちゃんには感謝だね」
オットの言葉に皆口にしなくてもしみじみと感じていた、マルティアーゼがいたから出会い、助け合う仲の良い友人としてやってこられた。
運命の出会い、マルティアーゼから言わせれば必然の出会いと結果でしかないと言いそうだが、人は出会うだけなら日々沢山の人と会っている、その中で惹き合う人達と人生の時間を共にするなんて数限られていて、良好な関係でいられるのはもっと少ないだろう、彼らにとってはこの引き合わせはかけがえのない出会いであり一生涯忘れる事なんてない仲間達であった。
今日はその仲間達の懐妊祝いと四人の門出に、スーグリとカルエが大量の食材を買い込んできて、居間は喜びと悲しみの混じる豪勢な食事会へと様変わりした。
後日、フィッシング達は伝令兵と一緒にエスタルへ向かって出発していったのを皆で見送った。
「行っちゃったねデビさん、スグリちゃん達がマルちゃんの下で働く事になったら寂しくなるんじゃない?」
「まぁそうだけど、彼女達が選ぶ事だから仕方ないよ」
「行った人達だって同じ思いのはずだよ、居残り組と別れる寂しさがあるはずだし知らない場所での不安や期待で色々な感情が交差している顔をしていたからね」
オットの言う通り、出発したスーグリ達の顔には笑みがあったがデビット達との別れに何処か悲しい表情にも見えていた.。
「フィッシュの奴らは心配いらねえと思うぜ、あいつらは一人でも平気だしなんだかんだ文句を言っても何処でもやっていけるからな」
「そうだね、自分の腕に自信があるのに面倒臭がって動かなかった者と、自信がないのに危険な所へ行ってしまう者の対照的な二人が同じ道を進めば何が起こるのかとても気になるよ」
英雄に集まる英雄達、そこには信じられない戦いが待ち構えているという本を読んでいるデビットは、彼らも英雄になれるのだろうかと期待を胸に、遠ざかっていく彼らの背中に思いを馳せていた。




