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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1091/1115

1091 それぞれの岐路

 どんなに悲しい事が起きても刻み続ける時間に迷ってる暇はなかった、トムが去った後にマルティアーゼは精力的に政務に励んでいた。

 手を止めれば彼の事を考えてしまう、今のマルティアーゼに人生を見つめ直すなんて余裕はない。

 ローザンの件が解決してもグルバヌスとの対決が残っている以上、彼と決着を付けるまでは進み続けなくてはいけなかった。

 これまで出来なかったグルバヌスの動向を調べる為にギルド長と話し合って数人のギルド員をエストラに送り出た。

 ギルド員を殺された一件はギルド内でも大事件であり、ギルド長ホロバンも前々からマルティアーゼにグルバヌス調査を持ちかけておりそれが今回認められた、だがあくまで偵察であって、彼の実力が未知数である事、彼とは因縁があり自分が直接手を下すまで接触は避けるように念を押した。

 淡々と実務を熟しエスタル王国内でも見える形で変化が起こっていた、まずは諸侯達の移動である。

 各町に最低でも二人の諸侯の赴任という形で領地を設けて、大通りや街道には私兵を連れた諸侯が、与えられた新領地への大移動が見受けられた、その為、遠くに赴任した諸侯は謁見に出る事は免除され、平時の謁見はエスタル周辺の諸侯達だけとなり重要な時にだけ登城すれば良いようにした。

 これまで治めていた土地に領主がいなくなった所は、今エスタル周辺にいる諸侯に再配分とする為、暫くの間は不在としてその領地には新たな諸侯を置こうと思っていた。

 マルティアーゼがローザン軍との戦いで感じていた組織の在り方について、もっと動ける軍隊にしたい、状況判断が上手く臨機応変に対応出来る人物を招こうと思っていた、それが新諸侯の誘致だった。




 状況に応じ各自の判断で目的達成の最善な行動が取れる人達、彼らの元に伝令が走る、彼ら以外にマルティアーゼの頭には思い浮かばなかった。

 しかし、彼らから良い返事が直ぐには返ってこなかった、それより卓を囲んで緊張した面持ち悩んでいた。

 伝令兵が返事を貰うまでは帰れないと、近くの宿で返事を待っているので彼らは緊急招集を掛けて話し合ったのだが、誰の口も重く居間は静けさを保っていた。

 マルティアーゼからの誘致、その内容がエスタルに来て私の下で働いて欲しいというものだった、それがどの様な意味かを分かっているだけに彼らは集まって真剣に悩んでいた。

「私は遠慮しておくよ、この仕事を辞めるわけにはいかないからね」

 そう初めに口にしたのはオットだった。

 ラビット・ポンズとラムズ・ラフィンの八人が、マルティアーゼからの伝言を伝え各々の考えを聞きたいとデビット達の家に集まっていた。

「マルさんの下でって事はどういう事なんですか?」

 スーグリがデビットに聞く。

「直轄かエスタル王国の兵士としてかは分からないけど、マルが直接俺達に声を掛けてきたって事は何か役職があると思うんだけど、今のエスタルで俺達を呼び寄せる意味が分からない」

「マルと一緒に働くなら私は行ってみたいな」

 カルエは漸くマルティアーゼと一緒になれる事が嬉しそうで、心はもう決まって良そうな感じだった。

「カルエさんそう単純な事じゃないよ、一緒にっていうのは毎日会ったり話をしたりするわけじゃないんだよ、国を守る為に働いて欲しいって事なんだ、働けばそれぞれの仕事を毎日しなくちゃいけないし、マルと会える日の方が少ないんだよ、それに礼儀や作法も覚えなくちゃいけないよ」

「……面倒な事ばっかじゃん」

「それが国で働くって事でお友達気分では駄目だよ」

「それよかローザンを滅ぼしたんだろマルは……自分の姉を処刑したって言うじゃねえか」

 新しい情報を手に入れたミサエルは、その事が原因で知り合いのいなくなったエスタルで寂しくなったから俺達を呼んだんじゃないかと言ってきた。

「それはどうなんだろうね、トムさんもいるわけだしこれまで旅をしてきたマルが寂しいだけで俺達を呼ぶのかなって疑問はあるけど、それにローザンを滅ぼした理由を聞かない事には何とも言えないね、確かにマルの姉は子供の頃からマルを嫌っていたようだし、俺がローザンにいた時も姉とのやり取りを見たけど嫌な感じだったよ、ほぼ一方的にマルが嫌われていた感じだったけどね」

「そんなくだらねえ理由で呼ぶわけねえだろ」

 フィッシングがふて腐れた様に言い放つ。

「そうだね、多分グルバヌス絡みだと推測するけど、それだけの為と言えば聞こえは悪いけど、その件が片付いたあとの事まで考えなくちゃね、その後もずっとエスタルで働く覚悟があるかどうかだよ」

 それを聞いて一同は黙り込む、ただエスタルでマルティアーゼの下で働くというのは一時的な事ではない、これから長い時間、もしかすると一生をエスタル王国民として生きていくという意味でもあるので、此処にいる全員は思い悩んでいた。

 ミサエルはミエールに目を合わせると、彼女は意を決したようにこくりと頷く。

「あの……」

 ミエールの言葉に皆の視線が一斉に注がれてはっと息を呑んだ。

「えっと、悪いんだけど私達もエスタルには行けない……かな」

 頬を赤らめるミエールに全員の顔が?となる。

 歯切れの悪い彼女に代わってミサエルが答える。

「すまねえ、ミエールの腹に赤ん坊がいるから俺達はエスタル行きを止めておこうと思ってんだ」

「は?」

 それが皆の反応だった。

 何を言ってるんだと一瞬の間の後に、居間が一気に悲鳴に変わった。

「ミミ、ミサさんの子共が出来たですか、早く処分した方が良いかもです」

 がつんとミエールの拳がバルートの頭頂部にめり込んだ。

「凄いミエールさん、おめでとう御座います」

「おぉ子共が出来たんだあぁ」

「ほう、それはそれは目出度いね」

 喜ぶ女性二人とオットから祝福の返事を貰うと、有り難うと照れ臭そうにミエールが言った。

「ミサさんがお父さんか……信じられないねって事はないはずなんだけど、実感が湧かないから改めて聞くと、当然の事なんだよね」

 此処にいる皆も婚期として適齢に達している、その事を分かっていながらもずっと一緒に生活してきたので、いつからかずっとこの関係が続いていくと思ってしまっていた。

「じゃあ今日はご馳走でも作りましょうか、ねぇデビさん」

「それも良いんだけどもう少し我慢してよ、今はエスタルの事を話し合わないと伝令の人が待ってる」

「あぁそうでしたね」

「オトさんにミサさん、ミエールさんはエスタル行きを断念するのは決定って事でいいんだね、じゃあ俺からも言わせて貰うよ」

 とデビットが続けて、

「おれもエスタル行きは止めようと思っている、これには理由があって俺の力ではマルの力にはなれないと思っているんだ」

「デビさんの観察力はマルさんも認めてましたよ、きっと力になれますって」

 意外にもデビットも行かない方向で考えていた事にスーグリが驚いた。

「エスタルには沢山の諸侯や俺よりももっと賢い人達がいるんだよ、俺の考えなんて凡人程度だよ、それに俺はまだマルから約束されている事があるからね、エスタルではなく此処に残って外からマルを助けようと思ってるんだ」

「約束って何だよ?」

 フィッシングの問いに、

「ミーハマットの三人の子供達だよ」

「サム達の事?」

 とカルエが言うと、そうそうとデビットが頷く。

「マルの所に行くと言っていたなら誰かが案内してあげなくちゃと思ってる、それにこのギルドは残したいんだ、これは俺の考えだからスグリやカルエさんは気にしないで自分のこれからの道を選んでよ」

「そんな事言われたら行きたい何て言いにくいじゃないですか……」

 スーグリは人が悪いですよと拗ねるように言った。

「私は……」

 向こうに行けばトムがいる、好きな人の近くで一緒にマルティアーゼを支えていける、しかも世界一の国で働けるなんてミーハマットの小さな村から出て来た一人の少女にとっては夢の様な話だった。

「……まだ決められません、私だってデビさんと同じで自分の腕じゃ力不足だし何か特別な事が出来るわけじゃないですよ、だから一度マルさんに会って話をしてから決めようかなって……」

 夢と現実を考えてみれば、剣の腕だって人並み程度に魔導だってバルートに教えて貰っているといってもこちらも一般魔道士程度しかない、そんな自分がエスタルで何の役に立つのかと言われると答えられないのが現状で、行きたい気持ちと自分の能力の差が乖離していた。

「私もスグリと同じだ、一回マールに会って話をしてから決めるよ」

 とカルエもスーグリと一緒でマルティアーゼに会ってから決めると言うと、それも一つの選択だねとデビットは言ってくれた。

 残すはバルートとフィッシングの二人だった、二人は皆の反応を待つ顔に緊張した面持ちで自分の考えを口にした。

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