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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1088/1117

1088 王座の代償

 マルティアーゼの静粛にそして厳かに行われた王位就任の儀は、国民にとって一応の安堵感をもたらした、しかしマルティアーゼの事は元ローザン公女という肩書きの印象が残る者にとっては、これは簒奪ではないかという不信感を持つ者もいたのは否めない。

 ここはエスタル、魔導王の国家で王に就く者は魔道士の頂点者である事は必須である、それを示さなくてはただの王族ではエスタルという国の信頼や誇りを国民は持てない、そこで特別に国民の前で魔導王としての力を見せる事にした。

 貴族街の城壁に上から大勢の国民の前でマルティアーゼは巨大な光球を作り出してみせると歓声が巻き起こり、輝く光に誰もが見とれていた。

 エスタル建国以来、初めての女性の国王に本当に国を守れる力があるのか不信がっていた者達も、彼女の力の大きさを間近に見て疑問が晴れていく。

(素晴らしい力だ、本当に魔導王なのか)

(何て優しい光でしょう)

「女性でも魔導王になれたんだな」

「これは疑いようもねえ本物だ……」

 多くの人々は我知らずの内に口角を上げて笑顔になって見取れていた、そこにマルティアーゼは光球を上空に投げ国民の頭上で破裂させると、細かい光の粒が雪のようにゆっくりと落ちてきて、人々は光を掴もうと手を上げて子共の様にはしゃいでいた。

 何万という人達の前でマルティアーゼは後ろを向いて上着を脱いだ、その肩に浮かんだ王家の紋章を見た人達は歓喜の声を上げる。

 おおおおぉぉ。

 遠目でも分かる発光する王家の紋章で彼らの疑問は払拭され、紛れもない正統なエスタルの王だと決定的なものとなった。

「我が兄であり前王ファリスの意志を継ぎ、エスタル国民の為に安泰の時代を築きます、エスタルに栄光あれ」

 わあああぁぁぁ、地鳴りのような歓声と拍手がマルティアーゼに送られる。

「陛下」

 右大臣からの言葉に国民に手を振りながら立ち去っていくが彼女の姿が消えても国民の歓声は鳴り止まず、暗かったエスタルに再び活気が戻ったように町中が賑やかになった。

 城に戻る間にコドス右大臣はマルティアーゼが国民に肌を見せるのを反対していたのだが、それを押し切って人前で肌を露わにした事について言及していた。

「エスタルで初めての女性の国王なんです、エスタルの人達も正統な国王かどうか不安になってるでしょうし、これが一番手っ取り早い証明になったんですよ、恥じらいなんて気にしていられません」

「高貴なそれも王家の者が人前で肌を晒すのは国民に良からぬ噂の種を与えてしまいます、この様な事は以後お止め下さいませ」

「分かってるわ、必要だからした事で人に裸を見せる趣味はありません」

 もう傭兵でも公女でもない、一国の王としての立場を弁えろと釘を刺されたように聞いていた。

(エスタル王として……とうとう私は一国の王になってしまったのね)

 長い旅路の果てに魔導王国エスタルの王に到達してしまった、まだ実際に政務を行っていないので実感は湧かないものの、これからどの様に運営をしていこうか自分の思うエスタルへと実行出来た時に、初めて国王としての力を感じられるはずだった。

(私の目指す国ね)

 このまま王女として生きていく、そう思ってエスタルにやって来たので国王になるなんて思いもせずこの様な形になってしまい、流されるままに王座に就いた感じになってしまったので、王として何をするべきかというのをローザン遠征前からずっと考えていた。

(私だけの剣が欲しい、トムも素晴らしい剣だけれども彼一人だけでは心許ない、このエスタルを守る為にはもっと私だけの剣が欲しいわ)

 それはローザンでの戦いではっきりと分かった、トムやバンティール侯はマルティアーゼの意を汲んで動いてくれるので一団を任せられるが、他の諸侯達は彼女からの指示なしでは動いてくれず、マルティアーゼとしては臨機応変にその場で対応出来る臣下でなくては今後の戦いには赴けないと考えていた。

 それがまずマルティアーゼが考えた国王としての一つ目の改革であった、ローザンとの戦いは最後の戦いではない、グルバヌスという大公夫妻の暗殺実行犯でありずっと自分を付け狙ってくる宿敵とも言うべき相手が残っている、彼の狡猾な性格や執拗な忘執にこれ以上付き合う気はさらさらない。

(もう動けないお姫様じゃない、これまでしたくても出来なかった事が出来る、待つだけの私ではなくなったのよ、今度はこちらから行かせて貰うわ)

 マルティアーゼは城に戻ると早速臣下達の前で宣誓した。

「この度のローザン遠征で命を賭けて戦ってくれた皆に礼を言います、多くの被害を出しましたが父や母、前王である兄の暗殺計画を企てた首謀者であるローザン王ディアンドルとの処分について決着が付きました」

 トムやバンティール侯達、マルティアーゼの遠征に付き従ってくれた諸侯達が頭を垂れる。

「エスタル王国としてはこの件に関して解決はしましたが、私の中ではまだ終わっていない事を伝えておきます、ローザン大公夫妻暗殺もまたディアンドルの計画であり、その実行犯のグルバヌスという魔道士がまだ生き残ってます、このグルバヌスという魔道士との決着が付かない事には私の戦いは終わりません」

 一同、また戦いが始まるのかと神妙な面持ちで聞き入っていた、しかしマルティアーゼはこれはローザン公女であった時の個人的な問題としてエスタルに迷惑は掛けないつもりであり、これ以上のエスタル軍派遣はない事を伝えた。

「陛下、エスタル王国はもう陛下のお国であります、陛下がその魔道士を討つとお命じになるならば我々はいつなりとも陛下の為に出陣致します」

 とバンティール侯が前に出て敬礼をした。

「有り難うバンティール侯、その時があればお願いします、まずは兵を休め国を整えたいと考えております、その折りには皆の力をお貸りしたいと思います」

 はっ、と一同が敬礼をして返事をすると、マルティアーゼは全員の顔を見回してからこくりと頷いた。

 今回のローザン遠征に出征してくれた諸侯達には褒美を取らせ、働いてくれた兵士達にも恩賞という形で功を労った。




 エスタルの新王マルティアーゼが王位に就いて国に平穏が戻ってきてから、彼女は国の組織について調べていた。

 各諸侯にはそれぞれの領地があり私兵を持つ事を許されている、勿論それには制約があるのだが、領地はその家系のみで継続し譲渡の禁止、家系が途絶えた場合は国に返却する事、私兵は三千までと他にも細々とした内容があったがそのどれも言えるのは、その場所は国から与えられた物であるという基本から成り立っているので、勝手に土地を増やしたり悪用する事は許されない。

「これは……」

 マルティアーゼはエスタルの版図を見ながらある事に気付いた。

 公爵、侯爵までが領地を持つのは当然としても、伯爵、子爵、男爵の中には侯爵と同等の領地を与えられている者までいた、前当主の侯爵が廃位してそのまま伯爵家が引き継いだのだろうが、逆に侯爵の領地が狭く辺鄙な場所にあったりと、長く続く国だからこそ起こりうる現象だった。

「一度きちんと整理しておかないと何れ問題になりそうね」

 単純に人の入れ替えだけでは必ず不平不満が出てくるのは織り込み済みで、納得させるように考えなくてはいけない。

 地図とにらめっこをしながら考え込むマルティアーゼに、侍女からトム子爵様がお越しになりましたと連絡が来た。

「良いわよ、呼んで頂戴」

 マルティアーゼは一息吐くと身支度を調え始める。

 王室に入れるのは王家の者だけとしていて、普通なら謁見の間まで出向くのが礼儀とされていたのだが、マルティアーゼは躊躇わずにトムを自室に来て貰う様に伝えたので侍女は驚いた顔をしていた。

「失礼します」

 トムも大広間に降りてくるものと思っていただけに、本当に部屋に入って良いのかと緊張しながら入室してきた。

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