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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1087/1117

1087 魔力争奪戦

 国王のいなくなったローザンは生き残った大臣達が取りあえず国家運営を維持していたが、畑違いの業務に追われて右往左往の日々だった、諸侯も大半が戦死、脱走と数える程しか残って居らず、頂点がいなくなった国は少しずつ崩壊へと向かっていた。

 兵士も戦いでかなり減り武器も大量にエスタル軍が持ち帰ったので、装備する兵士は非武装で首都以外の町や村の治安は悪くなり強盗が横行し始める。

 国王不在でいち早くローザンに見切りを付けたのが商人達だった、国として機能しなくなった場所での商売なんて必ず強盗がやって来るのが分かっているので、直ぐに店を畳み夜逃げのように中央国に逃げていった。

 そうなれば物流も止まり国から脱出する前に商品を売り尽くそうと物価は高騰、人々の生活が一気に悪化してくれば人の流出も増えるのは当たり前である。

 連日街道には家財道具を乗せた馬車が西に向かう姿が絶えず、今はまだ安全に脱出出来ているが強盗が目を付ければ一本道の街道では為す術も無く強奪、殺人が始まるだろうと予想出来た。

 日に日にに町では暴動や略奪、喧嘩が視界に入るようになり、没落していく様が見て取れた。

 その混沌とした時期に西の空からやって来た氷竜、火竜がローザン城の上空を飛び回っていて、お互いを敵と認識しているのか、空中でぐるぐると弧を描きながら咆哮を上げながら氷の息と炎の息を吐いて威嚇し合っていた、竜達が何の目的でやって来たのか場所の取り合いでもしているようにローザンの空で怪獣大戦争が行われていた。

 言い伝えの竜が二匹もローザンに現れただけでも大事件で新たな伝説となってもおかしくない出来事である、青と赤の巨体をぶつけ合い戦うその光景に人々は恐怖を感じ、地上では人々は逃げ回り家や物陰に隠れて竜達の動向を伺っていたが、日が暮れても夜空では竜の咆哮は絶えず朝まで人々の眠りを妨げ続けていた。

 竜の戦いは三日三晩続き、その頃には人々もまだやってるのかと早く何処かに行って欲しいとまで思っていたのだが、そこに新たに黒竜が加わってきた。

 黒竜の雷の息はローザンの町に落雷となって家屋の破壊や火事を引き起こし、これには人々もただ事ではないと、もうこの国は終わりだと絶望を身近に感じて首都からの脱出を始めた。

 何が竜達をここまで戦いに投じるのか、それはマルティアーゼが魔導王の力を使った魔力の痕跡に引き寄せられたからで、竜達にとっては新たな卵を産む為の膨大な魔力であり、残り香であってもこんな膨大な魔力は何百年ぶりのご馳走で、我が物にする為には他の竜達に勝たなくてはいけなかった。

 そんな事を知らないローザンの人々にとってはただの厄災でしかなく、マルティアーゼの残して行った不幸としか言えない。

「うああああぁ、逃げろ」

 雨の様に落ちてくる轟音にパラパラと頭上に家屋の破片が降り注ぎ、崩れた建物に押し潰される人や火災によって逃げ場を塞がれ焼かれていく人で阿鼻叫喚の様相を呈していく。

 そこに軍や貴族なんて役にも立たず誰もが平等に死の恐怖に襲われると、逃げ惑うしかない人々で町の西と南の出口に人が殺到して、荷台や馬車が出口を塞ぎそこに後ろから人が押してくるので余計に外に出られず、後方から聞こえてくる建物の焼ける音や破壊音で恐慌状態となって混乱に拍車を掛けていた。

 三匹の竜の堅い体にも次第に傷が目立ち始めていた、強靱な鱗は剥がれ血に染まり、焼けた所からは香ばしい匂いを振りまきながらも戦いを止める気配はない。

 日々それぞれの領地で僅かな魔力を吸い取りながら長い年月を過ごし、蓄えた魔力でもって次の子孫を産み落としていく、彼らもまた魔力によって生まれ出た生物であり魔導がこの世に存在した時から魔力によって生き続けている、その魔力を膨大に有している魔導王が魔導を使えば、その場に漂う魔力の痕跡は竜達にとってご馳走で、子を産む為には必要な栄養源なので竜達も必死だった。

 三色の息が空に交差し身を翻しては攻撃に転じる戦いは、まるで天災の戦いのようで、この世の災害がローザンに集結したみたいに首都は破壊され徐々に荒廃した都市に変貌していった、それはローザン城も被害を免れなかった。

 尖塔は崩れ、城の中から火の手が上がり窓から赤い炎が立ち昇っている、中にいた人達は皆逃げ出し、がらんとした城にかつての栄光は見る影もなくなっていた。

 ドンッガラガラと王室のあった城の最上階が崩れ落ち、謁見の間の天井が崩壊して大広間が丸見えになった、すると三匹の竜達は動きを止め一目散に下降に転じ、我先にと謁見の間に急降下を始めた。

 人には見えない巨大な魔力が竜達には見える、濃厚な魔力の固まりが渦巻くように王座の前で留まっていた、あの魔力だけで何十年分の魔力になるだろうか、三匹は城への激突すら恐れていないような速度で落ちていった。

 三匹の竜が垂直に城に吸い込まれる様に消えたかと思った瞬間、轟音が鳴り響いて城壁が大きく崩れると内部が露わになった。

 ガアアアアアァァァ、謁見の間では三匹の竜が何も無い空間に口を開けて魔力を貪り食う異様な光景が繰り広げられていた、三匹は一口でも多く他の竜より食べようと大きな口を開けて我武者羅に魔力を取り込んでいく。

 みるみるうちに魔力の痕跡は薄まり竜達の付いた傷が回復していく、元気を取り戻した竜達のお腹は幾分膨らんだように見え、完全に魔力が消えてなくなると空に向けて咆哮を飛ばした。

 それは歓喜の咆哮かまだ食い足りない不満の叫びか、お互い巨大な翼を羽ばたかせて突風を作り出すと気流に乗って上空に飛び上がり、三匹の竜はそれぞれの故郷がある方角の空へと飛んで行った。




 国の象徴でもある王城は見るも無惨な姿にされ、復興不可能なまでに破壊尽くされたローザンの町で生き残った人達は、帰って行った竜に安堵するもこの荒廃した現状を見てもう此処では住めない事を実感し、彼らに残された解決策は一つしかなかった。

「これがローザンなのか……あの素晴らしかった俺達の故郷が」

「ああっこれからどうすれば良いのよ、ううっ……」

 周りでは命からがら逃げてきた人達が、少しでも財産を持って行こうと火事場泥棒に勤しむ姿があちこちで起きていた、もう誰が誰の物など関係ない、手に入れられる物を持ってこの地から早く逃げるだけの意識しか人々の頭にはなかった。

 取られる者は守る事も出来ず、守ってくれる兵士すら略奪に加担している程で、一度恐慌状態に陥った者に歯止めはなく、もうこの国では治安なんて言葉は存在しなかった。

 街道に向かった者は強盗に遭って引き返してきて、何処に居ても人を見ると警戒し疑心暗鬼に陥りながらなるべく人のいない所へと森に隠れたり、殺し合いや逃げ惑う人達でどの町も全員が敵となって、蜘蛛の子を散らす様に一刻も早くローザンの地からの脱出を図った。

 ローザン南の小さな町では事件団を組織し、逃げてきた人々の対応に追われていた、被害のない町であったがこれ程の人達を受け入れられない。

 次々とやって来る避難民に、町としては此処から直ぐに立ち去るように通達する苦渋の決断を下すしかなかった。

「何処に行けと言うんだ、首都や街道はもう駄目だ、強盗や略奪者で一杯なんだ、助けてくれ」

「駄目だ、この町を守るのが俺達の役目でお前達を受け入れられない、直ぐにこの町から離れるんだ」

 同じ国の者だった相手でも非情に振る舞うしかなく、もしこの中に強盗や略奪者が紛れていれば自分達の町までも破壊の対象になる事を恐れ、剣を見せつけて追い出しに掛かった。

 行き先を見失った人達は迂回を余儀なくされ、更に南へ、とぼとぼと深い森に消えていった。

 いきなりやって来て一国を破滅した三匹の竜は、伝説以上の恐ろしさと絶望を人々に味わらせ、役目を終えれば何食わぬ顔で帰って行った竜達の伝説が新たに書き換えられていく事となる。

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