↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の魔導   作者: 雪仲 響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1069/1117

1069

 防衛を固めたローザン軍はただ単に守るに徹したわけでは無かった。

 建物を越えて飛んで来る火矢での攻撃、魔導対策として雪の間に矢を大量に製作していたのだが何分剣が専門の国で弓兵は少なく、訓練もまともに出来なかったので練度は低く闇雲に敵陣に打ち込むだけだったが威嚇にはなる、偶然でも魔道士に当たれば御の字ぐらいには考えていただろう。

 魔道士達も建物の向こう側にいる弓兵の処理に向かうが、姿を現した途端に魔道士に向けて一斉射撃をされ堪らず引き返す羽目となる、ここが沿岸州と北方の戦い方の違いだろう。

 武人の国でも魔道士の扱いが分かっていれば被害も抑えられ対等に戦う事も出来る、だからと魔導の力は侮れないのも事実である。

 ここまで対魔道士の事も考えられ、武力だけに頼らない明らかな戦闘方法の変更に流石にローザン内で大きな変化があったに違いないとトムは思った。

(敵前面後方に集中)

 魔道士長が目標を飛ばす。

 エスタル軍も黙ってされるがままではなかった、相手が町の建物を防壁として戦うなら敵が集まる出入り口後方に集中して魔法を飛ばした、後衛のローザン兵は前衛と交代するまで飛んで来る魔法を防ぎながら耐えるしかなく、いざ自分の出番になった時は体力が削られた状態でも戦わないといけなかった。

「出て来いローザンの諸侯ども、我々に恐れをなしたか」

 バンティール侯がローザン軍を挑発した、ローザン兵も前に出て戦いたそうな苦い顔で我慢している様子だが、防衛しろとの命令には逆らえない。

 何度も挑発するバンティール侯の声にも応じないローザン諸侯に苛立ちが募り、

「これでは消耗戦ではないか」

 消耗戦になれば圧倒的にエスタル軍が不利である、兵糧があるとはいえ帰りの分である、まだ最初の町でこの様な戦いでは首都までにどの位の日数が掛かるかバンティール侯には想像も出来なかった。

「ファンガス殿、何か良い手はなかろうか?」

 前線で戦うトムにバンティール侯は助言を求める。

 バロンの町は片側が山の斜面に寄り添う形で、もう片側は崖が直ぐ近くにあり建物との間を進む事は出来るが狭い為、一歩間違えれば多数の死者を作る事になる、それに突破出来たとしてもローザン兵が知らないはずもなく、トムはこの案を口にする事はなかった。

(この町を突破出来ればあとは平坦な町になる)

 バロンの町から先は緩やかな下り坂となり平坦な場所まで下って行ければ

「いえ、ここを突き抜けるしかありません」

 戦闘が始まって数刻、長く戦い続けた膠着状態の戦場からバンティール侯は休憩を入れる為に後陣に下がってきて水を一杯流し込むとマルティアーゼに会った。

 天幕で状況を見守っていたマルティアーゼに状況を伝え、このままでは時間と兵力だけが無駄に消耗するだけだと言うと、

「分かりました」

 とマルティアーゼは言うと立ち上がって天幕を出て行こうしたので、

「マルティアーゼ様、何をされるおつもりですか?」

 バンティール侯が聞き返した。

「膠着状態なんですよね、私が進軍出来る様にします」

「えっ……危険で御座います、我々で何とかしますのでマルティアーゼ様はここでお待ち下さい」

 慌てたバンティール侯が彼女の前に立ち塞がる、しかしマルティアーゼはそれを否定して、

「これは私の問題でもあるのです、それなのにエスタルの人達が苦戦していると聞いて黙っていられないわ」

「マルティアーゼ様、では私が護衛させて貰います」

 そう言ったバンティール侯は急いで彼女の後を追った。

 町を挟んで飛び交う弓矢と魔法、怒号と金属音の渦巻く前線へ、マルティアーゼは力強い足取りで進んで行った。

 それを見たエスタル兵が彼女の為に道を空け、

(味方が下がったら目標を最前線へ)

 と、魔道士達に遠話を飛ばすと、

「全員下がって」

 マルティアーゼは大声で兵士達に叫ぶと、驚き振り返った兵士達が慌てたように戦うのを止めて引き下がってきた、するとぽっかりと空いた前線に雪崩込もうとしたローザン兵に魔道士達の魔法が投げ込まれ、マルティアーゼが詠唱を唱えると空から大量の光の矢が降り注いだ。

 太く輝く矢が人であれ建物であれ凄い勢いで貫通して地面に突き刺さっていく、その下にいたローザン兵は鉄の鎧が紙切れのように苦も無く貫かれ身体にぽっかりと大きな穴を残して絶命していく。

「……姫様」

 それに驚いたのはトムだった。

(姫様が……ローザン兵にここまでするとは)

 自分が育ってきた故郷の兵士達に対してここまで無慈悲な攻撃をするのかと、冷淡な表情で魔法を飛ばす彼女に驚きを隠せなかった。

 マルティアーゼの魔法はこれまでのどれよりも強力で、魔道士達の攻撃が小さな花火に見えるぐらいだった、規模、威力、大きさが今までトムが見た事も無い力だった。

(姫様にこんな力が……)

 トムはバルグとマルティアーゼの戦いを見ていないので、彼がマルティアーゼと長い間一緒にいてこれ程までの魔導を見た事はなかったのである、だがバルグとの戦いを知らなくてもフィッシング達、あの場にいた者達の誰もが今のマルティアーゼの力があの時とは全く違うものだと思っただろう。

 一瞬にして町の出入り口には無数のローザン兵の屍が無残な格好で倒れていた、貫かれた体は腕や頭、一部が本体から離れて転がっていたのである、その威力に圧倒された両軍が一瞬静寂に陥る程だった。

「前進!」

 マルティアーゼの一言で我に返ったエスタル軍が声を張り上げ町へ雪崩込んでいくと、膠着状態が崩壊したローザン軍はエスタル軍を受け止められず後退を余儀なくされ、町の通りにはバラバラに逃げていくローザン兵をエスタル兵が追い込んでいった。

 バロンの町からあっという間にローザン兵を追い出し、敵に防衛を固めさせないようその勢いそのままに追撃を継続し撤退と追撃で、延々と街道には敵味方の隊列が伸びていて、

「バンティール様、追撃の手を緩めて下さい、後続が追いつけていません」

 エスタル軍を囃し立てるバンティール侯に追いついたトムが呼び止める。

「ファンガス殿、マルティアーゼ様が戦況を打開して頂いたのですぞ、この好機をおいて追撃をやめろとは如何なものか」

「ここで敵が反転してくれば我々が危険になってしまいます、もう少し味方を集めてからでも遅くはありません」

 バンティール侯が後ろを振り返って味方を確認すると、ずらりと続くまばらな隊列に漸く自分達が先行しすぎている事に気付いた。

「ふむ、確かに……そう言われれば、マルティアーゼ様が作って頂いた絶好の機会だと少し熱くなっていたようだ、貴殿に言われなければこのまま突き進んでいたかも知れなかった」

 大きく深呼吸をするとバンティール侯は前にいた兵士達に止まれの合図をした。

 後続が追いつき集まってくると、バンティール侯はトムを呼んだ。

「ファンガス殿、私は先行して敵が防御を固めさせないよう時間を稼いでおくので貴殿は兵を集めてから来て下さらぬか」

「分かりましたすぐに兵を連れて向かいます、でも危険だと感じたら無理せず退いて下さい」

「有り難う、肝に命じておくとする、では」

 バンティール侯が兵を纏めて進軍を開始すると、トムの所に集まって来た兵や諸侯達にバンティール侯が先行した事を伝えた。

「あいつは無茶をしやすいからな、マルティアーゼ様の前では特にな、早く行ってやらんと何をしでかすか……」

 マルティアーゼを護衛しながらやって来たアンビル侯が友人のバンティール侯に対して愚痴を飛ばした。

「トム」

「はい?」

 馬車から顔を出したマルティアーゼがトムを呼ぶ。

「どうかしましたか?」

「もうこの後は止まらず首都まで目指すわよ、遅れる者に歩調を合わせないで進軍するのよ」

「……分かりました」

 トムは全員に彼女の言葉を伝えると直ぐに進軍を開始する。

「アンビル侯」

「はっ」

 続いてマルティアーゼはアンビル侯に騎馬を率いて早急にバンティール侯の援軍に向かうよう伝えた。

 駆け抜けて行く騎馬隊と駆け足で進む歩兵が街道を埋め尽くし、ローザンの奥深く敵陣の中へ突き進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。