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フィッシングとリンが町の食堂で食事を楽しんでいた、ベストラでは年々漁獲量が減っていて特にベストラは一番北にある国でその総漁獲量は悲惨な所まで下がっていた。
どの店も魚料理がお品書きから削除されてきている事で、店も経営上、魚から肉料理を増やしていくしかないらしい。
「海があるのに魚料理が食べられねえのかよ」
「ムングロが殆どを獲っていっているらしいからね、そのムングロから魚を買わないと食べられないんだよ、なのにその国と戦争をおっぱじめたってんだから余計に魚が入ってこなくなったんだ」
「けっ、こんな所まで来て肉料理かよ」
と言いつつ、甘辛く焼いた肉を口に運んで文句を言う。
「あの子の方はどうなんだい?」
「ん? あぁデビの所で生活してるぜ」
リンの言うあの子とはカルエの事で、偶然出会いアルステルまで案内したリンはその後のカルエを気にしていたようだ。
「あの子、中々の手練れだよ」
「俺の相手じゃねえからどうでも良いけどよ、結構都会に染まってきておめかしなんか覚え始めてたぞ」
「へえ、フィッシュもしかして手を出そうとしてるんじゃないだろうね」
女好きのフィッシングに釘を刺す。
「馬鹿、あの女よりかおめえの方が何倍も良い女じゃねえか」
「そりゃあね、あの子に負けたんじゃ恥ずかしくて生きていられないよ」
リンは自慢の胸を張って言い返した。
「でもさあの子、マリアに一人で挑んで勝ったんだよ」
「マリア……あぁあの遊女か、俺達が会った時は盗賊になってやがったけどな、襲って来やがったから俺が軽く遊んでやったのによ、バルが助けてあげてって何かと気に掛けてたやがったな、まだ盗賊なんかやってやがったのか」
折角助かった命なのにまだ足を洗ってないのかと、呆れた様にフィッシングは言った。
「あいつが真面な人間になれるはずがないよ、ずっと貧困街で生きてきたんだから学も無けりゃ体を売るしかないやつらだったんだよ、真人間になれるわけないよ」
「別に俺ぁあの女がどうなろうが構いやしねえ、いちいちそんな奴らの生き方を心配してたら身が持たねえよ」
「そりゃああたしだってそうさ、でも何だかんだとあたしを目の敵にしてくるから堪ったもんじゃないんだよ」
マリアとユーナとは元同業者でその時から何かと敵対意識を持たれていて、リンも気の強い女性でありお互い気が合わない仲と思っていたのだが、何かあれば出くわす偶然が重なり奇妙な縁があった。
「あの子と会った時もそうだったよ、ムングロの祭りに連れ出してた時にマリアの奴が喧嘩を売ってきたんだよ、あたしがちょいと危なくなった時にあの子が割って入ってきてマリアと戦ったんだけどさ、マリアに何もさせずに身体中傷だらけにして勝っちまったんだよ」
興味ないと言っていたフィッシングも人の喧嘩話は好きなようで、素知らぬふりをしながらも静かに聞き耳を立て最後はふうんと生返事で返していた。
リンが言う程に強いならアルステルに戻ったら一度腕試ししてやろうかなとフィッシングは考えて食事を終えた。
二人は町を歩きながら散策する、陽光の照らす海原はキラキラと輝き何も無い真っ直ぐ伸びた水平線を眺めながらリンは言う。
「フィッシュ、いつまでいられるのさ」
「別に用事もねえけどギルドの活動もしねえといけねえしな、そんなに長居は出来ねえかも知れねえな、けどまぁすぐ帰るってわけじゃねえ」
「そっか」
「寂しいならおめえもアルステルに住みゃあいいじゃねえか」
「あたしが寒い所は苦手だって知ってんでしょ」
「おめえまだサンに帰りてえって思ってんじゃねえだろうな、やめとけよあんな何もねえクソ暑い場所はよ」
「暑くてもあそこはあたしの故郷なんだよ、親父が守って来た場所なんだ帰れるなら帰りたいに決まってんだろ」
「まぁそう怒んなよ、可愛い顔が台無しだぜ」
もう、とリンは頬を膨らませてフィッシングの肩を叩いてみせた。
リンとの甘い日々を過ごし沿岸州の気候にも体が慣れてきた頃、町で小さな騒ぎが起きていた。
買い物から帰ってきたリンが、
「戦争が終わったみたいだね、ベストラ軍が引き上げてきたらしいよ」
と言ったが、それは間違いではないが正解でもなかった。
戻って来たのは一部の部隊を除いた援軍で、兵士達の兵站問題で大部分は国に戻る事になり居残り組はケルテ国に駐留するとなった。
「どっちが勝ったんだ?」
「ムングロ」
「へえ」
「というかさ、向かったベストラ軍は戦う前に引き上げてきたみたい」
「ケルテが降伏したって事か」
「細かい事は知らないよ」
援軍が到着する前に決着が着いたのか、意外にもムングロ軍がケルテに勝った事に、何があったのかフィッシングは面白そうに考えながらにやついていた。
フィッシングのような他国の人間には楽しく思うだろうが、ディストレア、ベストラにとっては一大事な事であった。
ケルテ国の敗北は予想外で連合四国が二国になり、勝利の味をしめたムングロ国がこれからどの様な横暴な態度に出てくるのか分からないのでディストレアとベストラは緊急の会議に入っていた。
ベストラ軍の派遣をとりまとめたのは父親の大臣職を受け継いだデュースで、初めての大仕事に息巻いて送り出したのに成果も出せずに帰ってきたのだから彼の落胆は凄まじかった。
「どうしてだ私の力を証明する機会だったのにケルテ王が降伏するなんて……」
ここでベストラ軍の力を見せつければ大臣として采配が光ると思っていた、諸侯達に行ってこいと格好を付けて言ったのに戦わずして戻って来た軍を見て恥ずかしくなった。
あの時の高揚感が羞恥心として跳ね返ってきて周りの大臣達の目が冷たく感じて居たたまれない気分だった。
(まだ終わったわけじゃない、ケルテの残党兵が奪還するのに力を貸せば私の面目も保てるというものなんだ)
「帰還した軍にはいつまた出陣するか分からないので待機命令を」
(戦争が続きますように)
とデュースは残党兵が愛国ある兵士達と信じて、自軍が活躍出来るのを期待して命令を下した。
そのケルテ残党兵を率いる諸侯達は簡易の橋を渡しムングロ兵に間近まで接近すると、彼らが叫んでいる内容を聞き取った。
ケルテ王降伏の言葉を聞いた諸侯達の内心では、やはりという言葉が思い浮かんでいた、こんな所にムングロ軍がいる事自体怪しく願っていなかった事が現実になったかといった気持ちだった。
「如何すべきか」
「ムングロめ、魔道士を使うとは卑怯な真似をしおって、奴らがいなければケルテがムングロに負けるはずがないのだ」
「今更何を言っても遅い、これから我々で出来る事を考えようではないか、我が兵はどの位残ってるだろうか」
残されたケルテ兵は援軍要請でケルテまで案内してきた一団だった為、千もいなかった、この兵と援軍としてきてくれた二国の援軍を足しても五千ほどしかいなかった。
これでケルテ国奪還はほぼ絶望的で、口にしなくても諸侯達の顔に勝てる想像が浮かんでこないような不安な顔をしていた、しかし家族が首都に待っている者達にとってはここで諦めるわけにはいかないのである。
「卿ら、陛下が降伏したのであれば殺されてはいないはず、我々が戦に勝てばまだケルテは取り戻せると言う事では無いか」
「やるしかあるまい、妻も子供も首都にいる、このままおめおめと逃げるわけにはいかぬ」
「ディストレアとベストラに連絡し協力を仰ごう」
と諸侯達は決断した、その事に二国も惜しみなく協力する事を承諾してくれ、帰国した本隊に再度伝令を走らせた。
そして三日後に本隊が合流を果たし簡易の橋を携え街道に出向いていった、総勢一万五千まで増えた連合軍の首都奪還作戦であった。




