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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1063 女心



 エスタルに行っていたバルート達は、ギルドから何らかの連絡が来るのかと十日程アンヌの家で滞在していたが何の音沙汰もなかったのでアルステルに戻って来ていた。

 収穫はあったもの進展はなかったのが残念だった、一縷の望みでマルティアーゼに会えるかと期待はしたがそれも叶わず、滞在中は飲み食いだけの日々を過ごしていただけだった。

「何だか僕達蚊帳の外です」

 アルステルに帰ってきてからもモヤモヤが取れないバルートが椅子に座りながら呟いた。

 居間ではオットが今日の食事当番で料理を作りながらバルートの言葉に耳を傾けていた。

「元から私達は部外者だよ、どんなに一時マルちゃんと一緒に遊んでいたとしても彼女はお姫様なんだ、一時の夢を見させて貰った様なもんだよ」

「う~ん、そうだけどやっぱり知ってしまったなら気になるです」

「分からないでもないけど、人にはそれぞれ人生があるんだからそっと見守ってあげるのも友達だと思うけどね、じゃあバルさんはどうすれば気が済むのかな」

「あう、それは……僕にも分かんないけど、例えばだけどグルバヌスを倒してきてって僕達に頼んでくれれば役に立ってるって思えるです」

「ううむ、バルさんはマルちゃんの為に働きたいって事なんだね、これまで怖い事は嫌だって言ってたのに心境が変わったのかな」

「あう、恐いのは嫌だけど……僕の力で助けられる事があるんだってグルバヌスと戦ってみて分かったです」

「バルさんは昔から強いってお魚さんも言ってたからね、あとはバルさんの気持ち次第だったんだよ、その気持ちをやっと自分で受け入れられたって事は良い事だ」

 グルバヌスがとても強いと皆が言っていたのでバルートは自分の力でも勝てないと思っていた、しかしいざ戦わないといけない状況で自分の力が通用する事に気付いて、自分にも役に立てる事が出来るんだと自信がついたようだ。

 自信がつけば意識が高まり出来る事への幅が広がる感じになって、もう少し大きな事も出来るのでは無いかと思ったからこそバルートはモヤモヤしていた。

「もっと早く僕がこの力を知っていればデビさんも怪我をしなくて良かったのになって思うです」

「そうだねぇ……でもちょっと違うかな、今のバルさんだからこそ自分の力に自信が持てただけで昔ならグルバヌスに負けていたかも知れないよ、だからそんなに嘆く必要は無いと思うよ」

 う~んとバルートが悲しそうに落ち込んでいるのを、

「ははっ、私はバルさんが少し大人になったような気がして嬉しいよ、そうやって悩める内は成長している証拠だよ」

 とオットは励ました。

 日々の生活では友人達と共に過ごしていて何も感じなくても人は成長していくもので、経験と実績が知らずに自信に繋がっていく。

 バルートもこれまでヴァンからエスタルまでやって来た実績や、フィッシング達との数々の冒険を経て自分の力を磨いてきた結果が今である、それが恐い思いや寂しい記憶であっても、乗り越え生き抜いてきた実績は彼の精神力を確実に強くさせていた。

 そんな彼ももう二十二歳、いつまでも子共扱いされる年齢ではなく、立派な男の大人だという自覚を持たなくてはいけない年齢でもあるので、グルバヌスとの対戦はバルートを大人に引き上げた良い経験になったとも言える。

「ヴァンの時から友達がいなくて学校を卒業をしたら一人で冒険しながら生きていくつもりだったけど、こんなに友達が一杯出来るなんて思ってなかったから、僕から何かしてあげなくちゃって思ったです」

「良い事だね、さぁ料理が出来たよ、久しぶりの野菜だからねいっぱい食べてよ量だけは沢山あるからね」

 台所から卓へと大きな鍋を運んで来たオットが言うと、先程までしんみりしていたバルートの目に光りが宿り、

「わあい」

 と色んな具材の入ったスープに喜んだ。

 香辛料の辛そうな匂いがまだ寒いこんな日に食欲をそそらせてくる、バルートはお皿一杯に注ぐと頂きますと夢中で食べ始めた。




「スグリこれ見て、どうだ?」

 カルエが髪に止めた髪飾りをスーグリに見せつける、エスタルで見つけた金細工の髪飾りだ。

「似合ってますよ」

 前髪を纏めて左右のこめかみで留めると、おでこが見えて表情が明るく感じられた。

 カルエも此処に来て随分になる、伸びた後ろ髪は紐で留められるが前髪だけは前から鬱陶しいと思っていたのだ。

「スグリも買ったんだろ着けてみてよ」

「これですか……」

 手に持ったC型の髪飾りを前髪と一緒に頭頂まで滑り込ませる、盛り上がった前髪におでこが丸見えになったスーグリは少し恥ずかしそうにすると、カルエは笑顔で声を上げる。

「わあスグリ可愛い」

「少し大人っぽくないですかね」

 長く伸びた茶色の髪を全て後ろに流して顔がよく見える様になったスーグリは、令嬢の様な気品が漂っていて大人っぽく見えた、これに化粧を施しドレスを着れば何処かの舞踏会に行っても誰も平民だとは思わないだろう。

「よしスグリ、デビに見せてやろう」

「えっ、いや……きゃ」

 スーグリの腕を掴んで部屋から連れ出したカルエがデビットの部屋の扉を叩く。

「おおいデビ、出て来い」

 どんどん、と扉を叩いていると気怠そうな顔のデビットが出て来た。

「なんだい、寝ていた所なんだけど……」

 目もまともに開ききっておらずしわがれた声で文句を言うデビットに、我関せず戸言ったカルエは、

「デビこれを見ろ、どうだ可愛いだろう?」

「……ん、あぁ可愛いね、それじゃお休み」

 と言って扉を閉めようとした。

「おいっ、ちゃんと見てないだろ、ちゃんと顔を見ろ」

「なんだい、こっちは夜中まで読書してて寝てないんだよ」

 少し鬱陶しそうにデビットは反論しながら立ったまま目を閉じ寝てしまった。

「うわっ立ったまま寝てるぞデビ」

 カルエが驚く。

「もう良いですよカルエさん、寝かせてあげましょう」

 気の毒になったスーグリがデビットにゆっくり寝て下さいと彼を部屋に押し込んで扉を閉めた、すると部屋の中から倒れる大きな物音が聞こえてきた。

「なんだあいつ」

 呆れるカルエに部屋に戻ろうと言うスーグリだったが、

「まだだよ、バルんとこに行こうよ」

 このままでは収まらないとカルエはバルートの家に行こうと提案すると、悲鳴を上げるスーグリを強引に外へと連れ出し彼の家へと向かった。

 髪飾り着けたまま町の中を歩くのが恥ずかしいようで、腕を引っ張るカルエに恥ずかしいよと何度も言いながら下を向いて早く着かないかなと願っていた。

「おおい、バル」

 家の前で声を張ってバルートを呼んだ。

「どど、どしたですか」

 雰囲気の変わった二人を見てバルートは驚きながら家の中へ誘う。

 食事中だったのか、居間にはオットもいて挨拶を交わした。

「食事中にご免なさい」

 スーグリが謝るがオットは笑ったまま座りなよと言ってくれた。

「何かあったですか?」

 バルートがそう聞くと、

「バル、私達の頭、どうだ?」

「えっと……その髪飾り、の事ですか?」

 うんうんとカルエが頷く、ちらりとオットに目をやったバルートは、

「と、とても似合ってるです」

「それだけか?」

 カルエの真顔で詰めてくる気迫に圧倒されてバルートの唇がブルブル震える。

「わわっ、それだけ……って、えっときき、綺麗な髪飾りですとっても綺麗です」

「……」

(……まだ何か言わないといけないのかな)

 カルエ達の沈黙に耐えきれないバルートが目を丸くしながらオットに視線で助け船を出しているのに、オットは無言で食事に没頭していた。

「ま、まだ何か……」

 バルートがどきまぎしているとカルエが溜息交じりに、

「はぁ……スグリ男共は駄目だ、女の子を褒める事も出来ないみたいだよ」

「いいですってカルエさん、バルさんも困ってるんですから帰りましょうよ」

 だってさと文句を言うカルエをスーグリが肩を押しながら、二人に失礼しましたと言って家を出た。

「もう、いきなり家に押しかけてどう思うなんて言ってもバルさん達怖がってましたよ」

 家を出た所でスーグリがカルエに言う。

「こんなに綺麗になったのに男共は何も感じないなんてどうかしてるよ」

「良いんですよ、私が好きで買っただけで誰かに褒めて貰う為に買ったんじゃないですよ」

「勿体ないじゃん、折角可愛くなったのにさ、ここの男共は駄目な奴ばかりだ」

 カルエは怒りながら町を歩き出し、それに付いていくスーグリは彼女の行動力の恐ろしさに困惑していた。

「オトさん、僕なんて言えば良かったのかな……」

 二人が帰った居間でバルートがオットに聞いた。

「ははっ、女心は難しいからね私にも分からないな」

 と、豪快に笑うだけだった。

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