1062 反省
ケルテ軍の前線が竜巻によって一瞬にして消え去る、上空に飛ばされた兵士達は為す術無く雨の様に地面や海に降り注ぎ、嫌な音を立てて死んでいた。
一瞬にして何十人といった敵兵の消失にムングロ兵は唖然とし、拓けた視界には数名のケルテ兵だけが立っていた。
上を見上げると黒衣の魔道士が一人浮かんでいて、今の魔法があの魔道士の仕業だったのかと分かるとムングロ軍は一斉に声を上げて前進を始めた。
(誰かの力を借りないと前に出てこられないとは……)
もうグルバヌスはムングロ軍の力を当てにしておらず、そのままケルテ軍のいる街道に向けて魔法を飛ばし続けた。
黒矢の雨、真空の風など中級以上の威力の魔法が敵である混合軍に襲いかかり、何百といた敵兵がみるみると排除されて街道が掃除されていった、それでもグルバヌスの攻撃は止まらない、通りやすくなった街道をムングロ軍が詰めようと疾走しているのを横目に彼は一人先行して先に敵を排除していく。
ケルテ検問所から敵兵があっという間にいなくなってもグルバヌスは止まらず、ケルテ最南端の町にまで進撃してくるとあれだけ街道上にいた敵兵の殆どが死亡排除されていた、僅かに生き残った者も押し寄せてくるムングロ軍によって轢き殺されていく。
グルバヌスの本気の力に敵味方が驚愕と畏怖を感じる程であった、敵に回してはいけない者、不用意に触れればどうなるか分からない者という認識が自然と刻み込まれていた。
逃げ延びた合同軍は目で数えられるのではないか思う程まばらに逃げ惑う兵士達しか残されておらず、町に入っても一安心は出来なかった。
地上に降りたグルバヌスは町中で竜巻を起こし建物がいとも簡単に瓦礫に変え、更に凶暴な竜巻となって全ての人工物や人を巻き込みながら破壊の限りを尽くしていった。
ふうふう、グルバヌスの口から熱い吐息が繰り返し吐き出される。
これだけ大きな魔法を何度も使ったのだから疲れないはずはない、萎縮した兵士達の顔を見ればもう敵に刃向かう力は無く、逃げたい狙われたくないと自分達の存在を如何に消して生き延びようかとする小動物のように震えていた。
「ここまですればムングロ軍だけでも大丈夫でしょう、これで負けるぐらいならもう滅亡した方がマシという物です」
後ろからやって来るムングロ軍の軍靴の音を聞いてグルバヌスはそう思った。
町にやって来たムングロ軍は町の惨状を見て絶句した。
廃墟となった町、石造りの建物だけが残り、人や木材で出来ている建物は瓦礫隣家の中の物が辺り一面に散乱して、もう何年も人が足を踏み入れていないような荒廃した土地に変貌していた。
「これは……」
「もう敵は残り少ないです後は貴方方で対処出来るでしょう、首都より先の街道は私達魔導部隊で破壊しておきましたので援軍が来る事はまずありません」
ムングロ軍の兵士に事の詳細を告げると、後は任せましたと言い残してグルバヌスは姿を瞬時に消した。
グルバヌスは首都に戻って来ても宿には向かわず、その足の向きは城にあった。
大股に城門に向かい国王に会わせて欲しい旨を伝えた。
通されたグルバヌスは国王へ、
「ディストレア、ベストラの本隊はケルテ首都まで進軍出来ないよう街道を破壊してきました、貴軍と対峙していたケルテ軍もほぼ壊滅状態まで減らして参りましたので、残った敵兵力は貴軍の兵でも勝てると考えております、これで満足で御座いましょうか、我が部隊に負傷者を出してしまいましたので本国へ引き上げたいと思います」
「まだ結果は出ておらぬが戻ると申すのか?}
「我々は援軍の任務以上の働きをしたと考えております、これはムングロ国とケルテ国の問題、キエヌの戦争では御座いません故これ以上の介入は出来ません、もしお疑いなら前線の確認をして頂ければ宜しいかと、我が部隊だけでケルテ軍の半数以上は削っております、いかなムングロ軍でも残ったケルテ兵の処理は出来ると思いますが」
「……むむ、なんだその言い草は、まるで我が軍が弱いと申しておるようではないかけしからん奴だ」
(全くその通りですよ、余りにも弱すぎる所為でこちらは無駄な追加の任務を行ったわけですから)
ムングロ王はグルバヌスを睨みつけ何か言いたそうに視線を止めていたが、
「ふんっもう良い分かった」
と一言を残して手で下がれと合図をした。
自分達から助けてくれと泣きついてきて勝てるお膳立てまでして貰ったのだ、これ以上はもし戦況が悪くなった時に助けを得られないのではないか、キエヌという強国の後ろ盾を失った場合の事を考え言い留まったのかも知れない。
グルバヌスからすれば国王の我が儘を聞き入れた感じで、しかも勝てない状況にしたのはキエヌ側だからどうにかしろいう曖昧な要請に、グルバヌスはぐうの音も出ない程の成果を上げて戻って来たのだ、これで勝てないなら戦争なんて止めた方がいいと遠回しに言っただけである。
カリンの尻拭いやグルバヌス自身の油断もあったが、それ以上の働きでムングロへ貢献は出来たので国としての面子は立ったはずである、後は早く国に帰ってカリンの治療に専念させてやりたかった。
(幾ら問題児でも今の魔導部隊にカリンの力は必要、ここで死なせるわけにはいきません)
「ラーダ、カリンの様子はどうですか?」
宿に戻るなりラーダに聞くと、彼女は眉を下げながら首を振った。
「……えっ、死んだのですか?」
「違います、まだ意識が戻らないだけです、皆さんにも治療を手伝って貰って傷口は塞がったのですがお姉様が目を覚ましません」
「そうですか……体の中がまだ癒えていないのかも知れません、兎に角ゆっくりと治療をさせたいので今から国に帰りますよ」
グルバヌスは魔導部隊全員に任務の完了と帰国の準備をするよう伝えると、カリンを抱き上げ皆でキエヌに帰還していった。
辺りがすっかり暗くなったキエヌに帰国してきた、こんな時間だったがガウリスは城にいて急な呼び出しにも快く出迎えてくれた。
「こんな夜更けに申し訳ありません」
カリンを他の者に任せてグルバヌスは一人ガウリスに会いに来た。
「向こうの任務は終わったのですかな?」
「はい、少々問題はありましたが結果的にムングロ優勢の戦況まで手伝ってきましたので、援軍としての役目は達成出来たかと思います」
「もう少し残ると言っていたので不測の事態が起きたのかと思いましたぞ」
「はぁ、ムングロとの約束以上に魔導部隊の者が張り切ってしまいまして、必要以上にケルテを刺激してしまい沿岸州の他二国まで参戦させてしまったのです、その為ムングロ王から責任を取れと余計な任務が増えてしまいました」
「ふむ、それはムングロ王も少々横暴に見えるが、向こうが援軍を頼んでおいての物言いですな」
「本来なら初めの約束通り国内からケルテ軍を追い出して早々に帰国しようと思っていましたが、結局ケルテ国内までの進軍の手伝いをしてきたのです」
「ふうむ」
「問題は色々ありますがムングロ軍が余りにも弱すぎます、よくあれで戦争をしようと考えたのか理解出来ない弱さでした、急激な経済力を物に人だけを整えて勝てると踏んだ国の愚かさが原因かと、しかし援軍として行ったわけですからこちらも援軍を了承したわけですから成果を残さぬ訳にはいきませんので、すべき事をして戻って来ました」
「ご苦労でありましたな、ではムングロに関して今後あの街道を利用するのに難しい国ではないと言う事ですな」
「もとより……ですが、それに関してムングロ王からの報酬は受け取ってきておりません」
「ほう、何故かな?」
「恩を残してきましたので、これを利用すれば街道の通行も楽になるかと思いまして、わざと要求はしませんでした、駄目でしたでしょうか?」
ガウリスは首を振ってその通りだと笑みを浮かべた。
「儂でもその様にしたでしょうな、やはりグルバヌス殿に任せて良かったですな」
ガウリスからの労いを受け他グルバヌスは、今日はゆっくりと休むように言われたので一礼をして城を出ると足早に邸宅に戻った。
「グルバヌス様」
家に帰るとラーダが走ってきて、
「お姉さまが目を覚ましました」
「おぉそうですか」
部屋に入るとカリンの頭が扉にいる二人に向く、ローブを脱いで軽装になった小さな体が大きな寝台に横たわっていた。
「意識が戻りましたか」
「お姉様、軽い食事を作ってきました」
カリンは笑ったが首を振って要らない素振りをした。
「少しでも食べないと良くなりませんよ」
ラーダが何とか食べさせようとするが、カリンは口を閉ざして弱々しく顔を背ける、まだ顔色は悪く額に玉のような汗を浮かべるカリンを見てグルバヌスは、
「ラーダ少し向こうで話しましょう」
「はい」
部屋を出たグルバヌスはラーダに、
「暫くは修行には出なくて良いので彼女の治療に専念して下さい、あと体力が落ちてるように見えましたので食事は無理にでも食べさせるように」
「分かりました」
とラーダは部屋に戻って行く。
(今回は初任務と言う事で気分がふわふわしていた所があったようです、それは私もですがもう少し気を引き締めないといけません)
反省を含めて今後カリンのような怪我をさせない為にも意識を高めていこうと、グルバヌス自身の甘さが出た初任務であった。




