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ケルテ検問所を取ったムングロ軍だったが、ディストレア、ベストラの参戦に腰が引けたのか占拠した検問所を早々に放棄し、後退して戦線を自国に近い場所に移していた。
ケルテ軍は魔道士の攻撃に耐え抜き他国からの援軍を得た事で勢いを盛り返していた、急に消えた魔道士に不安はあったが攻められる時に攻めなくてはと合同軍はムングロ軍を押し返していた。
遙か後方では街道が破壊されているなんて事は知らずにムングロ軍に攻撃を仕掛けていた。
グルバヌス達は前線の確認をするとケルテ軍の後方に回り込んでいく、挟撃で合同軍を殲滅させる為である、合同軍の勢いを見れば後方で起きた事は知らされていないようである、知っていれば攻撃している余裕はないはずだ。
ずっと続く敵兵の列を見ながらグルバヌス達は崖上の荒野を疾走していく。
(数的には少ないのでしょうがこうして狭い街道で隊列が続くと多い様にみえてしまいますね)
ケルテ軍は最近まで沿岸州で一番の兵力を保有している国だが、これまでの戦闘で随分減ってきてはいるので見た目よりは多くはない。
(とにかくムングロ軍だけでも勝てるぐらいに数を減らしておけば良いでしょう、ムングロ王にこれ以上文句は言わせたくはないですからね)
ムングロ軍は兵力だけは互角に集められてもケルテ軍との練度の差は一朝一夕では埋められないのは、ディストレアやベストラ参戦を除いても戦況を見て明らかだった。
「もうあんなに攻め込まれてますね……」
ムングロ軍は折角取り戻した検問所が直ぐ後ろまで迫っていた。
一度撤退の意思を見せるとムングロ軍の士気は一気に落ちるのか、敵が三国相手だと分かったからなのか、周りの味方も無理に前に出て殺されるなんて馬鹿げていると思って引け腰で攻撃を受けるだけで、死にたくないといった意思が伝わってくる戦い方だった。
「この辺りから降りますか」
自分達で起こした戦争なのに負けそうになると援軍を頼みに来て、横暴な態度で文句を言う。
(経済だけで勝てると思ったのですか)
経済力で勝ちたいなら経済で勝負すべきで、経済を元に武力で勝とうとするのは余りにも成金思考である。
グルバヌス達は崖下を見下ろし二人に目で合図をしてから飛び降りると、カリンとラーダも手を繋いだまま続いて降りていった。
「どうも」
グルバヌスは言葉を掛けると同時に周囲に疾風を起こして敵兵を吹き飛ばす、空いた場所にカリン達が降り立ち直ぐさま魔法を飛ばしていく。
グルバヌスはカリンとラーダと背中合わせに次々と魔法を繰り出し合同軍をバタバタと倒れ、混乱で身動きが出来ない敵兵が後ろに下がれと声を張り上げる。
すると空中を舞った一本の剣がどこからともなく飛んで来て、グルバヌスの足元の地面に突き刺さった。
「わっ」
なんだ、と突き刺さった剣に驚くと、
「どけどけ」
一団の奥から一騎の敵兵がやって来て、
「魔道士共に恐れるな剣を持て、敵も生身の人間だぞ」
と、全員に届くように野太い声が辺りに響いた。
誰だろうと目の前に立つ武人はケルテの諸侯であるのは分かるが見た事も無い人物であった、上半身が異様に分厚いので下半身が細く見える。
見るからに力自慢な相手にグルバヌスは黙って見ていると、
「おいっ魔道士、後方で見ていればよくも我が兵を痛めつけてくれたな、儂はケルテ国ロウ男爵だ、儂にそんなそよ風は通じぬぞ、我が剣を受けてみよ」
「はぁ……」
(今の間に何回殺せたのでしょうか)
口上を述べるロウにグルバヌスは呆れながら聞いていた、だがこういう面白い人間がいるとは思っていなかったので新鮮な気分であった。
ロウは周りの兵士から剣を取り上げると、
「魔法を撃ってこい」
それに応えるようにグルバヌスは詠唱を唱えた時、ビュンと頭上をかすめるように剣が回転しながら通過した。
「……え?」
(剣を投げた……)
ロウはまたもや兵士から剣を取り上げ大きく構えるのを見て、
(本気ですか、剣士にとって剣は命の次に大事な物では無いのですか)
これまで剣を投げてくる人間なんて見た事は無かった、それを躊躇もなく他人の剣までも使ってくるなんてどんな人なんだと、グルバヌスは初めて震えた。
ヒュンヒュンと弧を描いて飛んで来る剣を避けていく、力任せな投擲に狙いが悪くて助かったが、こんなのを放っておけばいつか大怪我をしてしまう。
(こういう人は早めに倒した方が正解でしょうね)
黒矢を飛ばしロウの頭上に降り注いでいく。
「こんな物……」
必死に剣で叩き落としながらグルバヌスに向けて剣を飛ばすと同時に、最後の一矢がロウに突き刺さり、苦悶の悲鳴を上げて体が溶けていく様子に兵士達は驚き後退りをする。
最後の一刀を軽く避けたグルバヌスがほっとした瞬間、後ろで悲鳴が上がり振り返ったグルバヌスの目に入ったのは、カリンの背にロウの投げた剣が突き刺さっている姿だった。
悲鳴はラーダのもので前屈みに倒れた姉に口を押さえて硬直していた。
「カリン」
慌てて駆け寄る、彼女に刺さった剣は抜け落ち背中が赤く染まっていた。
「いけない、ラーダ退きますよ飛びなさい……ラーダ!」
「あっはい……」
カリンを抱き上げたグルバヌスにラーダが我に返り返事をした、敵兵がここぞとばかりに剣を振りかぶって詰め寄って来る。
振り下ろす敵兵の剣を間一髪の所で飛翔した二人は崖上に避難した。
「カリンしっかりしなさい」
グルバヌスは直ぐに治癒魔法をカリンに施す。
「お姉様」
治癒の魔法を掛けながら名を呼んだがカリンから返事は返ってこない。
「ラーダこれで導路を開いて下さい」
と焼き石を彼女に渡した。
「ちゃんとした所で治療をしない事には……」
「グルバヌス様、導路を開きました」
「宿に戻りましょう」
ムングロ首都の宿に急いで連れて帰ると、休んでいた仲間達が何があったんだとカリン達の部屋の前に集まってくる。
「血は止まりましたがまだ予断を許さない状態です、引き続き治療をして下さい、私は戦場へ戻ります」
寝台に寝かせたカリンの治療をラーダと代わったグルバヌスは、そそくさと出て行くと部屋の外にいた仲間達に、
「済みません、ラーダが疲れたら治療を代わってあげて下さい」
と皆にラーダを助けてあげてと言い残して外に出た。
(これは私の責任です、相手を舐めて掛かった所為でカリンが……)
自分の不甲斐なさに嘆くグルバヌスは、さっさとこの不毛な戦争を終わらせてやると戦場に急いだ。
(こんな脆い国の勝ち負けには興味はありません、自分達だけでまともに戦えないなら負けた方が良いのですよ、勝とうが負けようがどうせキエヌの踏み台にしかならない国なんですから、もう回りくどい作戦は事は止めて終わらせて帰りますよ)
もう崖上から攻めるような事はせず街道を疾走して、行く手を塞ぐムングロ軍に対し道を空けて下さいと叫びながら検問所を目指す、段々と街道に兵士が密集し始めると道を空けるのにも狭くなってくる、もう前線は見えていたのでグルバヌスは一気に上空に飛んで兵士達の頭上を越えていった。
「検問所を取れば勝ちじゃないんですよ」
いつまでも押し合いへし合いで戦ってる両軍さえ、グルバヌスからすれば敵に見えてこのまま両軍纏めて殺してやろうかと思う程に今の彼は苛立っていた。
グルバヌスは上空から街道で戦う最前線に狙いを定めて詠唱を唱えた、彼の両手から目に見える空気の渦が生成されていき、生き物のように伸びていくそれは巨大な竜巻だった。
「全員消えなさい」
鞭のようにしなる竜巻が街道にいる兵士達目掛けて打ち下ろされた。




