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魔導部隊がいなくなった戦線では兵士同士の戦闘が始まっていた。
魔道士がいなくなった理由は分からずとも逃げの一手から攻めに転じる機会だとケルテ軍は反転してきた、反対にムングロ軍は援軍としてきてくれた魔道士達がいきなり戦場から離脱した事で、此処からは自分達の力で攻める番だと剣を抜いて攻め込んでいた。
後少しでケルテ国検問所、攻め込まれた悔しさを晴らしてやるとムングロ軍が健闘した結果、検問所を奪い取る事が出来た。
(勢いに任せて敵陣まで攻め込みましたか……)
しかしムングロ軍の攻勢はここまでだった、ケルテ軍の後ろから新たな勢力が動いていたのである。
魔道士の出現に恐れをなしたケルテ軍はベストラとディストレアに沿岸州の危機と銘打って援軍の要請を出したのだ。
ムングロだけなら手を出すつもりはなかった二国だったが、ムングロ国が何処かから魔道士を連れて来たとなれば話は別だった、拮抗する戦争なら何れは和平に落ち着くだろうと踏んでいたが、他国から援軍を呼んだとなれば相手を完全に落としに来たとみるべきである。
ケルテが落とされれば次はディストレアにベストラと、明日は我が身になっていくのを防がねばならないと二国は援軍要請を受理したのである。
これがグルバヌスの恐れていた目先だけで動いた結果である、敵を国内から追い出した後で止めておけばケルテも自国に危機感を覚えずにいられただろうに、カリンの暴走で沿岸州全体の危機感を呼び込んでしまったのである。
検問所を取った事で勢いを増すムングロ軍が検問所を起点に攻撃を繰り返して二日が経った時、兵士の中に他国の鎧を着た兵士が混じり始め、それがディストレア兵やベストラ兵だと分かるとムングロ軍に動揺が広がった。
二国の参戦の一報はすぐにムングロ国王に伝えられると、国王は何故二国が参戦してきたのか不思議がっていた。
兵士からの説明でキエヌの魔道士がケルテ国検問所寸前まで攻め込んでいたが、急に戦線離脱した事を知るとグルバヌスを呼びつけた。
「どういう理由か説明して貰おう」
頭を垂れたグルバヌスは、
「我々の任務はムングロ国内からケルテ兵を追い出す事でしたので、引き上げさせただけで御座います」
「ケルテの検問所まで追い返しておいて、いきなり離脱して後の事は我が軍に放り投げたらしいではないか」
「放棄したわけではありません、我々の任務外と判断したまでで約束通りだと認識しております」
「ならば何故我が国の検問所で攻撃を止めなかったか、我が国は今、ディストレアやベストラとも戦わねばならなくなったではないか、其方らがケルテを刺激し過ぎた所為ではないのか」
「戦は生き物、多少の誤差は生まれるもので私共も最小限に抑えたつもりですが、こうなってしまったのは想定外で御座います」
「言い訳ばかりを……」
国王が吐き捨てるように言い顔色が変わる程怒ってるのが、下を向いて聞いていたグルバヌスにもヒシヒシと感じて分かった。
「魔道士なんぞを援軍に寄越すからこの様な事態になったのではないか」
国王が大臣達に怒鳴りつけ不満を漏らす。
「お言葉では御座いますが、兵を送り込む事についてはこちらでも検討した結果、メラルド側から通行の許可が下りなかったので私共魔導部隊が代わりに来た次第であり、決して兵を送るつもりがなかった訳では無い事を強く申し上げておきます」
とグルバヌスはキエヌが兵を出したくなかった訳ではない事を説明した。
「ぐぬう、ではこの状況をどうしてくれるか、其方ら魔道士の働きが招いた事、責任は取ってくれるのであろうな」
「我々はムングロ国より国内からケルテ軍を追いだして欲しいとの援軍要請を受けて要請通り完遂したと思いますが、何とかせよと申しますなら改めて約束を結び直して頂けませんと私の一存では動く事は出来ません」
「ぬう、下に見おって……」
わなわなと国王の怒りが込み上がるのを大臣が止めに入った。
「陛下、今はそれどころではありませぬ、三国相手ではムングロ国の滅亡が目に見えております、ここは何とか抑えて下さいませ」
怒り狂っていた国王の手が緩む、流石にこの状況は不味いと判断したのか仕方なく大臣の言葉に従った。
「ではムングロ国よりキエヌ王国に要請をしたい、ケルテ軍は我が軍で対抗するとしてディストレア、ベストラ軍の排除をお願いしたい、これで良いか?」
「出来なくはないですが、それだけの物をお支払い頂けるのですか?」
「分かっておるわ」
吐き捨てるように国王が言い放つと、
「分かりました、その様に尽力しましょう」
と、グルバヌスは要請を受け入れた。
これでカリン達の失態を隠す事が出来た、もし国王が約束と違うと駄々をこねていればただ働きで処理をしなくてはいけなかった所だった、それに関しては大臣達の横やりに感謝しなくてはいけなかっただろう。
(全く、私に一任されていて良かったです、何故私がカリン達の尻ぬぐいをしなくてはいけないのですか)
初任務という事で多少の暴走は大目に見ようと思っていたが、無駄な任務が増えてしまったカリン達には責任を取らさなくては示しが付かない。
「……と、本国にお伝え下さい」
魔道士の一人を伝令に立て、本国に現状とムングロ間で新たな任務が発生した事によって帰国が遅れると報告に行って貰い、魔導部隊に新たな任務を説明した。
「次は後方支援ではありません直接敵兵との戦闘になるでしょう、剣の早さは皆さん知っての通りでどれだけ詠唱に集中出来るかです、慌てず距離を取っていれば問題はありませんので頑張って下さい」
グルバヌスは実際に最前線を彼らに任せようとは考えていない、まだ詠唱が遅い人もいれば生死を決める戦場で敵の剣を目の前に集中出来るか分からないのだ、そこはグルバヌス達で助けるつもりである。
ムーベの町へ魔導部隊を先に行かせてからグルバヌスはカリン達に向き直り、
「カリン、ラーダ、今度の任務は貴方達の命令違反が起こした結果です反省しなさい、決められた任務でこの様な結果になるのと身勝手な行動でなるのとは全く違うのです、貴方達の行動は国を貶める行為で国家間の約束を守らなければ責任を問われるのです、今回のような事でもし誰か仲間が死んだりすれば貴方達は責任を取れるのですか、貴重な魔道士を無駄死にさせた事になるのですよ」
と延々とグルバヌスの説教が続き二人は顔を伏せ聞いていたが、余りにも長い説教に堪忍袋の緒が切れたのかカリンが噛み付いてきた。
「煩い煩い煩い、グルバヌスはしつこいんだよ、私が敵を全部やれば良いだろ、見ていろ私の力で片付けてやる」
「お姉様」
とカリンはそのまま歩き出していくのをラーダが後を追った。
(カリンは我慢というのを覚えて貰わないといけませんね、これがどれだけ重大な事か分からないのでしょうか)
溜息を吐いたグルバヌスは頭を掻いた、これ以上想定外の任務を続けていけば必ず誰かが死ぬ事になる、そうなる前に任務を熟してさっさと引き上げたかった。
これは他国の戦争、初任務の多い魔道士達に簡単な任務から経験を積ませる目的で来たのに、いきなり対面戦闘をさせて死なせるつもりはない。
(まずは私が敵軍を分断させた方が良いでしょうね)
敵軍はどれだけの兵力で援軍に来ているかを見極めない事にはいけなかった。
ムーベの町で集合すると、グルバヌスはその場で焼き石に印を付けると、
「此処に導路が開いたら直ぐに戦闘が始まると思って入ってきて下さい、私が先頭に立って戦いますから皆さんは自身の身を守りつつ周囲の敵を攻撃、固まって行動するよう心掛けて下さい、戦線離脱して貰っても構いませんので命だけは大切にして下さい」
「はっ」
「では行ってきます」
ちらりとカリン達に視線を飛ばしてからグルバヌスは北へと飛んで行った。




