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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1058/1117

1058 戦場拡大

 北の歴史が動く、国を揺るがす大事件から新国家の広がりまで、雪解けと共に北方に新たな風が流れる一方で、今現在熱い戦場と化している沿岸州でも歴史を書き換える事が起きていた。

 グルバヌス率いる魔導部隊が来てから戦況はムングロ国が圧倒的に押していた。

 魔道士達の半数が前線に配置され、ムングロ軍の後方支援として魔法を飛ばしケルテ軍を後退させる事に成功し、突然の魔道士の出現に後退を余儀なくされたケルテ軍はムーベの町に引き籠もる感じで防衛を固めた、しかし風属性を持つ魔導部隊が既に背後からムーベに侵入していて、丘の家々に潜伏しているケルテ軍の弓兵の位置を確認、殲滅に努めていた。

 侵入部隊を率いるのがグルバヌスで、彼はここぞとばかりに新たな力を試した。

 物質を溶かす魔法だった黒矢の新たな力は、黒矢が刺さると相手に意思が流れ込むというものを敵兵達に試したのだ。

 成功する場合とそうでない時がありまだまだ改良や練習が必要だが、相手の強く思う意思を読んだりその人物の思い出などが読み取れた。

(素晴らしい力ですね、内容に興味はありませんがこの力をもっと自分の物に出来れば間者を拷問などで白状させなくても相手から情報を得る事が出来る、なんて事に使えますね)

 そして当然の様に試した敵兵は生かしておくわけにはいかず、暗躍に特化した魔導部隊は敵にバレる事なく排除を済ませていった。

 魔導部隊の参加で勢い付くムングロ軍が一斉にムーベの町に侵入してきても、弓兵の支援がないケルテ軍に防衛する事は出来ず、雪崩込んでくるムングロ軍と魔道士に為す術無く町を放棄するしかなかった。

 あれだけ苦戦したケルテ軍からいとも簡単にムーベの町を取り戻したムングロ軍は、これが魔道士の強さかとその異様な姿には見慣れていても実力を目の当たりにした者は少なく、驚きと共に好機と捉え逆襲の合図を掛けて検問所まで進軍を続けていった。

 グルバヌスからすればこの程度で戦況が一転するなんて簡単な任務だという感じでしかなかった、やはりまだまだ魔導の存在が知れ渡っていてもどの様な物かまでは実際に体験しない事には実感が湧かないのだろうと、南方の認知度の低さが知れた、とはいえ魔導部隊のキエヌ兵達には自分達の働きが役に立った事に興奮しグルバヌスに笑顔で報告にやって来ると、

「皆さん素晴らしい働きです、まだ国境の外まで敵を追いだしては居ないのでもう少し頑張って下さい」

 はっ、と剣士の癖が抜けないのか起立して手を胸に押し当てて返事をしてくる。

(まだ魔道士同士の戦闘には不向きですが少しずつ場数を与えていくしかないですね、さてカリン達は上手くやってるでしょうか)

 グルバヌスがいないと、カリンは場の雰囲気に飲み込まれやすく調子に乗って戦場を荒らさないか不安だったのでラーダを付けたのだが、彼女も姉を持ち上げる癖があるので逆効果になるのではと思っていた。

(現状あの二人が一番魔力を持ってるので他に止める者がいないですから)

 ムーベの町がムングロ軍で染まりきると、家に隠れていた国民が外に出て来て歓声を上げていた。

 高台から望む鎧姿のムングロ軍とキラキラと広がる海の青さ、くっきり引かれた白い空との水平線が何とも言えない縞模様となっている、こんな快晴な天気で地上では血なまぐさい殺し合いが行っているとは誰も思わない良い日だった。

 グルバヌス達の任務はムングロ領内からケルテ軍を追い出す事であり進軍の手伝いではない、その事を口酸っぱく二人には伝えてはいるので流石に二人とも忘れる事は無いだろうと信じてグルバヌスは仲間達と戦況を見守った。

 ムーベを通過しいくムングロ軍の進軍がにわかに足早になり、最後尾になると駆け足のように町から出て行った。

「何かおかしいですね」

「ケルテ軍は我々の力に恐れをなして国に引き下がったのではないですか?」

 それだけムングロ軍の勢いが止まらないのか、我々魔導部隊の手助けの行き着く先は検問所までで、その先の事は手伝わないと国同士の約束を交わしているのを知ってるはずだ、その先の進軍に関してはムングロ軍側の軍略で我々が手を出す事はない、それでもムングロ軍が急ぎ進軍して行くのは戦況がとても良好とみるのが普通である。

(それなら良いんですが、まさかカリン達が暴走してケルテ領内にまで進行しているという事ではないでしょうね)

 グルバヌスの脳裏に嫌な予感が過ぎる。

「少し前線の様子を見て来ますので、ここで待機しておいて下さい、何かあれば遠話でお知らせします」

「了解です」

 グルバヌスは一人天高く空へと飛翔すると、高い崖に上り人気のない森を突き進みながら、湾曲した街道沿いを眼下に望み道を埋め尽くすムングロ軍の最前線は何処だと探した。

(もうすぐ検問所が見えてくるはずですが……)

 岬に隠れた検問所が現れたが、グルバヌスの予想通りにムングロ軍が突破しており、軍はまだ先へと連なっていてカリン達魔導部隊の姿もなかった。

(思っていた事が起きていましたね)

 此処からはそれ程長くはない緩衝地帯、せめてケルテ検問所に行くまでにカリン達を捕まえないと、とグルバヌスは疾風の如く飛ばした。




 ケルテ軍に襲う炎の旋風、蛇が地を這う炎は普通の火ではない。

 竜巻のように渦を巻いた炎は兵士の体を一瞬にして炭化させる程の高温、近付くだけでもじりじりと焼ける音が聞こえてくる。

 ラーダの風とカリンの火が合わさった強力な協力技に仲間の魔道士達も近付けなくて後ろを付いて行くしかなかった。

「わははっ見ろラーダ、私達の力に怯えて逃げてばかりだぞ」

「これでお姉様の名前が世界に広がりますわ」

「私は大魔道士カリンだ、この名を覚えておけ、わーはっはっ」

 二人はまるで遊びに来たのかと思う程に笑いながら前進を繰り返していた、彼女達の後続には魔道士にムングロ軍が付き従う感じでケルテ国検問所が見えてくる所までやって来ていた。

(あれですね)

 遠目からでも分かる巨大な火柱を見て、グルバヌスは苦虫を噛みしめた様な顔になって二人のいる場所に急いだ。

「おぉラーダ、入り口が見えてきたぞ、あそこまで敵を押し込もう」

「はい、お姉様」

 ケルテ検問所を指差し檄を飛ばしたカリン達の前にグルバヌスが空から落ちて来る。

「何をやってるのですか貴方達は!」

 降りてきたグルバヌスが二人に一喝すると、

「きゃあ」

「わっ、なんだグルバヌスか……驚かすな」

 いきなりの出現に驚いた二人が悲鳴を上げた。

「なんだではありません、此処を何処だと思ってるのですか、私達の任務はケルテ軍を追い出す事だと何度言ったら分かるのですか、ケルテ国を攻め込むのは直ぐ止めて帰りますよ」

「どうしてだ、私の力で敵は逃げるしかないんだぞ、このまま潰しちゃえば良いじゃ無いか」

 カリンの言い訳にも耳を貸さずに、

「ラーダ、何故カリンを止めなかったのですか、こうなるだろうとカリンと一緒に行かせたというのに……ここから先はムングロ軍に任せるのです、貴方達も戻りますよ」

 と魔導部隊の仲間達にも声を掛けグルバヌスは導路を開いた。

「さぁ入りなさい、魔導部隊は撤退します」

 有無を言わさぬグルバヌスの一喝に魔道士達は従って導路に消えていく、残ったカリンとラーダも渋々導路に入ったのを確認すると、最後にグルバヌスが導路に消えていった。

 するとどうだろう、魔道士の居なくなった街道で両軍の兵士達が呆然と立ち尽くし、何が起きたのか暫く立ち尽くしていたが、どちらの陣営から掛け声が飛んだのか街道に突撃の合図に我に返った両軍がぶつかり合った。

 ムングロの首都に集結させた魔導部隊にグルバヌスが叱責していた。

「あれほどムングロから追い出すまでが任務だと伝えていたのに全く貴方達は……任務はそれ以上でも以下でも駄目です、国から言われた事を遂行する事が求められているのです、貴方達のした事で戦況が変わってしまったら私達の責任になるんですよ」

「なるわけないよ、あんなに押してやったんだぞ負けたらこの国の奴らが弱すぎるだけで私達の所為じゃないぞ」

 とカリンが反論した。

「そう言う問題ではありません、勝ち負けは私達には関係が無いのです、それよりも命令違反をした事が問題だと言ってるのです」

 グルバヌスは深い溜息を吐くと、カリンを任務から外して宿で自粛するよう命令をした。

「全員待機して命令があるまで体を休めておいて下さい」

 とだけ言うと、グルバヌスは一人戦場に戻っていった。

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