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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 思いがけないギルド長との面会に、バルートは凄い人と会ったなと一人興奮しながらデビットの家に戻ってきた。

 家にはデビット達が先に帰っていて、戻って来たバルートにフィッシングが、

「よう、迷子にならずに良く帰ってこられたな」

「あう、僕はエスタルで住んでたです」

「そうだったな、かかかっ」

「バルさん、本部に行けたんだ」

 うん、とバルートが首を縦に振って、

「凄い人に会ったです」

「ほう、凄い人ってマルにかい?」

 今度は首を横に振ると、

「ギルド長です」

 それを聞いてデビットもフィッシングも軽く驚く。

「導師に会ったのは凄い事だね、どんな人だったの?」

「暗い部屋でよく顔は見えなかったけどお爺さんみたいな声だったです」

「まぁ導師になるんだからかなりの高齢だとは思うけど、どうして会う事になったの?」

「あう、えっと……」

 バルートが本部に向かったのは、助けた女魔道士のその後がどうなったのかを聞きにいったと思っていたのに、何故ギルド長に会う事になったのか不思議だった。

 バルートは悪い事でもしたかのようにもじもじしながら、

「僕がグルバヌスの事を話したからです、そしたらギルドもグルバヌスの事を調べていたみたいで、それでギルド長に会って……マルさんの事も話しちゃったです」

「かぁ……馬鹿、なんでマルと俺達の事を話すんだよ」

「いやいやお魚さん、それは知られたって問題無いよ、だってもう四年前に俺達がエスタル城で何をしたのかぐらいギルド長なら知ってるはずだよ、それでギルド長は何て言ったの?」

「グルバヌスを何処で知ったとか……僕達が出会う前に中級の人がやられていたらしいです、なのに中級に成り立ての僕がどうして勝てたんだって言われたです」

「あの女性の他にもやられていた人がいたんだ」

「うん、どうしてって言われても必死に戦っただけです、それに勝ってないです逃がしちゃったし……」

「ふうむ、それでも凄い事だよ」

「こいつぁただの中級じゃねえからな、もっと上を目指せるはずなのに本気にならねえだけだ」

 バルートの保護者かと思う程に自慢するフィッシングに、デビットも同じ気持ちのようなのか同じように頷いてみせた。

「バルさんは中級とかそう言った肩書きで収まる人ではないね、まだ俺達が知らない実力があると思ってるよ」

「買いかぶり過ぎです」

 とはいえ、これでギルドにグルバヌスの事を伝えられたという事は、この後何があってもギルドに事情を説明する必要が省けると考えれば、少しは楽になったのではないかと感じた。

「それでデビさん達の方は何か情報はつかめたですか?」

「こっちは何も、新国王の発表はまだだって誰に聞いても同じ答えだったよ、ギルドには聞いてみなかったの?」

「ギルドの人も聞いてないって言ってたです」

「そっか……ギルドでも分からないなら待つしか無いかな」

「何だよ、誰も知らねえんじゃ来た意味がねえじゃねえか、マルに会えばどうなってるのか聞けるのによ、ったくエスタルなんて面倒臭え国に来たもんだな」

 厳重な場所ならマルティアーゼの身の安全が保証されると思っていたのに、今はその厳重過ぎる所為で連絡も取れなくなってしまったのだ。

「それだけマルも安心して過ごせると思っていたんだけどね」

「エスタル王が死んでるのに安心もねえよ」

 何処にいてもマルティアーゼの周りで問題が起きるのは彼女の宿命か、警備や国の問題ではなく彼女の存在そのものなら何処にいても解決策とはならない、この事はデビットが前々から懸念していた。

「まさかエスタルに来てもこんな大事件が起きるなんて思ってもみなかったよ」

「で、どうすんだよこれから……国王の後釜も分からねえ、マルとも連絡は取れねえ、ギルドの用事は済ませてグルバヌスの奴の事も伝えたんだろう、今日来ばっかなのによやる事ねえじゃねえか」

 泥だらけになりながらエスタルまで来たのに用事は全て終わってしまい、余りのあっけなさにフィッシングは面白くねえと言い放った。

 彼としてはもしかするとマルティアーゼに会えるかも、城に入って豪華な料理や酒が飲めるかもと淡い期待を抱いていたが、何も無し、デビットの家でむさ苦しい男共と寝るだけの退屈な現実にげんなりした。

「エスタルで遊べば良いじゃ無い、お魚さんの好きな白酒が飲めるよ」

「デビ、おめえは分かってねえな……酒ってのは女と飲むから美味えんだぞ、ここにいたらおめえの姉ちゃんの所為でスグリ達を誘えねえじゃねえか」

 アンヌと仲の良いスーグリ達は楽しそうにずっと彼女にべったりで声を掛けるのも憚れる状況に、そんな所に酒を飲みに行こうなんて言えるわけもなかった。

「あう、何しに来たですか」

 国王が亡くなってマルティアーゼの事が心配できたのに、する事がなくなったからと直ぐに遊ぶ事に切り替えの早さにバルートは辟易して、

「ここにギルドから連絡が来るかも知れないです」

「何かあるの?」

「いや……何かあれば連絡するって言ってただけです」

「はぁ、何もなけりゃ連絡してこねえって事だろ、そんな事でずっと家で待ってられっかっての」

「あうう」

 もういいやとフィッシングはデビットの寝台に体を横たえて、飯の時間になったら呼んでくれと言って眠ってしまう。

「俺の寝床なんだけど……」

 仕方なくデビットはバルートと階下に降りて女性陣の様子を見に行った。




「グルバヌスの件、如何しますか?」

「ふむ、マルティアーゼ様にはローザンから戻られてから報告とする、先程の魔道士が以前に城に侵入した一味の一人ならばファリス様と交戦した可能性があるという事、それだけの力を有しているとなれば階級だけで実力を測る事は出来ぬな、グルバヌスの実力と拮抗しているのであれば今は一人でも多くの魔道士を集めておきたい」

「同意です」

 何も見えない暗闇で交わされるギルド長の話に両側に座る側近の魔道士達も賛同する。

「この際、彼にグルバヌス討伐に行かせるというのは如何でしょうか、もう一人二人中級を付ければグルバヌスを排除出来るのではありませぬか?」

 どちらの側近が言ったのか声だけが響く、バルートに討伐させようと提案してきたがそれに対しギルド長は、

「マルティアーゼ様のご友人を行かせて何かあれば大事、それに魔道士も連れて行っておられる今、エスタルの守備を手薄には出来ぬ、はマルティアーゼ様が戻られるまで此処を守るのみとする」

 それ以上何も聞こえなくなり、物音一つしない暗黙の世界になった。

 アンヌが言っていた数日前に兵士が何処かに出陣していったのはマルティアーゼが率いる一軍であり、総勢一万五千、魔道士十人を引き連れローザンへ移動を開始していたのだ。

 ローザンまでの道のりは長い、だが一日一日がローザン王国の命運を削る日数であってどうなるかはディアンドルの対応次第で、マルティアーゼがそれにどう反応するかにもよる。

 彼女が戻ってくるのはおよそ二ヶ月、その間のエスタルの守護はギルドに任せていた、ここでグルバヌスに手を出しいらぬ問題を増やすのは得策ではないと考えての事だった。




 史上最大の姉妹喧嘩にサスタークもアルステルも固唾を飲んで成り行きを見守るしかない、静かに騒がず淡々と歩みだけは力強く前へと北に向かうマルティアーゼの目には奥底から吹き上がるような熱い炎が燻っていた。

 そして彼女に付き従う諸侯の中にはトムもいた、彼もマルティアーゼがこの行軍に並々ならぬ意志の強さを感じていた。

(姫様はディアンドル様をどうするおつもりなのか、まさか殺すなんて事は流石にしないだろう)

 親兄妹を殺された恨みはトムにも分かる、しかも育ての親でもあるローザン夫妻の件もあるが、相手は今や一国の王であり姉妹として育ってきたディアンドルだ。

 トムとて良い感情はディアンドルにはないが、マルティアーゼはもうエスタルの王女になったのだ、一国の王を他国の王女が処罰なんてすれば国際社会として顔が立たなくなる、それはマルティアーゼ自身がよく分かってるはずだ。

(姫様の不幸の原因がディアンドル様だった事を考えれば後悔の念しかないだろうが、そこは抑えて考えて欲しいものだ)

 数々の不幸は自分の行いの所為だと考え受け入れてきたマルティアーゼには到底受け入れがたい真実でもあり、憤りをぶつけたい相手なのも分かるが、彼女に手を汚して欲しくはないと思っていた。

 トムはこの行軍の間にマルティアーゼと話す機会があれば一度聞いてみようと馬上で考えながら前を行く馬車を見つめていた。

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