1055 伝達
「あぁあ行っちゃった、バルさん大丈夫かな」
「ほっとけよ行こうぜ」
子共が走ってる様な後ろ姿を見ながら、デビット達はその場を離れて町の様子を見に行った。
「はぁはぁ」
「おいっ止まれ」
城の前に立っていた兵士がわらわらと集まって来て城へ近付くなと手で制止してくると、バルートは魔道士ギルドに用事がある事を伝えたが兵士は首を振った。
「今は駄目だ、さぁ帰れ」
「重要な用事があるです、中に入れてくれなくても良いからギルドの誰かを呼んで欲しいです」
と、バルートは食い下がると、兵士はどうしたものかと仲間と顔を見合わせた。
そこにバルートは中級魔道士の証明となる木札を見せると、こんな子共が中級なのかと兵士達は驚き少し待つようにと態度が軟化した。
他国ならそれがどうしたと言われる物でも、エスタルでは魔道士にも身分というか敬意が払われ、それが中級ともなれば数少ない実力者であるという事を分かっている兵士達には、彼に対して態度を改めてきたのである。
(こんな所で木札が役に立ったけど気を悪くさせたかな)
バルートは人に対して身分の違いや偉そうにする態度が苦手で、人とは対等な立場でいたい性格で、今みたいな重要な問題で来て融通の利かない相手には仕方なく立場を利用するだけでも申し訳無い気持ちになってしまう。
ギルドに連絡に行った兵士が戻ってくると、許可が出たからとバルートを城内へ案内してくれた。
ギルド本部まで来ると中から男の魔道士が出て来て、
「下級魔道士のウォーレンです、何用でしょう?」
「えっと去年ここに怪我をした魔道士を連れてきたです、後で連絡するって言われてたけどあれから何も連絡が来なくてどうなったか聞きに来たです」
「去年……クレスの事ですか?」
「そんな名前だったような……」
「立ち話もなんですから中で詳しく」
と言うと、兵士は一礼をして自分の持ち場へと戻って行く。
本部に通されたバルートは椅子に座り、以前ここに助けた女性の魔道士を連れてきた事を告げ、その後どうなったのか気になったのか聞いてみた、すると奥の部屋から出て来た人物が、
「貴方はアルステルのバルートさんですね、私はエト貴方の事は聞いております」
バルートが頷くと、エトという女魔道士はウォーレンに二人で話すからと席を外させた。
「申し訳ありませんでした、エスタルで重大な事件が起きたので連絡が遅れてしまいました」
事情を知ってるエトが連絡が出来なかった理由を教えてくれた。
「国王様が亡くなったですね」
「……えぇそうです、なので今現在も警戒態勢が敷かれているのです」
言いにくそうにエトが口籠もる、他国の人から自国の問題を言われる事の恥ずかしさがあるのだろう、しかしバルートはお構いなしに次の国王は決まったのか尋ねてみた。
「いえまだ発表はされていませんので、こうして警戒態勢を取っているのです」
「そですか……」
(マルさんが王様にならないんだ)
マルティアーゼは国王に立たないのか、それとも女性だから反対されているのだろうかとバルートは思った、なんせエスタル始まって以来の出来事だから慎重になるのは分かるが、いつまでも国王不在とはいかないのから何かしらの発表はされると思いたかった。
「クレスの事でしたね、彼女は……亡くなりました、貴方達が介抱してくれた事には感謝致します、彼女を私達の元に届けてくれたお陰で犯人の所在が分かったのですから」
「……グルバヌスですよね」
ぽつりとバルートは告げた、その瞬間、エトの顔色が変わった。
「何故その名を……クレスに聞いたのですか?」
するとバルートは首を振って、
「グルバヌスがそのクレスって女性を殺そうと追って来て……戦ったです」
その言葉はエトには強烈な衝撃となって、彼女は震える声でそれでどうしたのかと聞いてきた。
「逃がしたです、後一歩って所で逃げられちゃったです」
「ちょっ……一寸待って下さい、相手はあのグルバヌスです、その彼に勝ったという事ですか、バルートさんは中級ですよね、しかもまだ成り立てだと聞かされていましたが」
「うん、でも逃がしたから勝ったわけじゃないです」
「そんな……」
エトがバルートの実力に驚愕しているのかそれとも他に驚いているのか、彼女の目はバルートを見ているようで見ておらず視線が彷徨っていた。
バルートは彼女が言葉を発するまでじっと待ち続ける、静寂の部屋でエトの荒くなる息遣いだけが耳に届く。
「どうしましょう、これは問題が増えました……」
「えっ何がです?」
もしかして何か危ない事でも言ってしまったかと思った、だが彼女の口からでた言葉は、
「彼女だけではありません他にも二名の魔道士が殺されたのです、しかもその内の一人はバルートさんと同じ中級魔道士だったのです、ギルドではグルバヌスに対してどうすべきか対応に追われていたのですが……まさかバルートさんが戦い勝っていたなんて、もっと早く連絡をしてその事を知る事が出来ていたなら」
「どういう事ですか?」
エトはこれは直ぐにでも上に連絡すべきだと、バルートに此処で待っていて下さいと一方的に伝えると奥の部屋に消えていった。
「あわわ」
何があったのか聞きたい事を蔑ろにされ一人部屋で待たされている状況に、バルートはこれから何が起きるのか何かされるのではないかと不安な気持ちで一杯で、中々戻って来ない彼女に更に不安が募る。
どれだけ待っただろうか、うつらうつらし始めたバルートに声が掛かり、はっとして顔を上げるとそこにはエトが立っていた。
「お待たせしましたバルートさん、私に付いてきて貰えますか?」
「へっ、どこに……」
訳も分からずに付いていくと暗室に通され、中にいた三人の魔道士の前に立たされた。
「ギルド長、バルートさんをお連れしました」
(ギルド長!)
魔道士ギルドの長と言えば導師でありエスタル王に次ぐ最高魔道士だ、初めて見るギルド長を前にバルートは体が緊張で固まり小刻みに震えだす。
どうしてこんな所に連れて来られたのか、何も悪い事はしていないのに自分の身に何が起こるのか不安で逃げ出したい気分だった。
「ご苦労」
しわがれた低い声にもバルートの体が反応する。
「グルバヌスの事を何処で知ったのか聞かせて貰おう」
「え……」
ギルド長からの質問にバルートが戸惑っていると隣でエトが小声で、
「バルートさん、グルバヌスについて教えてくれませんか?」
「ぼぼ、僕は……」
マルティアーゼ王女の知り合いと言って信じて貰えるのか、妄言、不敬と怒られはしないか、フィッシング達にマルティアーゼとの関係性をバラして怒ってこないかと、色々な葛藤がバルートの頭の中で駆け巡って言い淀んだ、しかし相手はギルド長、これまで悩んでいた問題を話せば自分よりも力のある魔道士が一気に解決してくれる、ギルドの組織力であればグルバヌスも手も足も出せずに倒してくれると考え、
「マルティアーゼ王女の知り合いです」
相手から何も反応はない、隣のエトだけが驚いている様子は感じ取る事が出来たが、目の前の三人には動揺はないように見えた。
「王女様とはアルステルに居た時からの知り合いです、国に帰ってからは僕は会ってないけど他の人達は王女様と会ってて、えっとその時にグルバヌスに狙われてる事を聞いてたし友達がグルバヌスに怪我をさせられたりしたから知ってたです」
バルートは言葉を選びがら理解して貰おうと頑張って話した。
「グルバヌスの事は分かった、しかしマルティアーゼ様と知り合いという事に付いては確認が必要だ、それでグルバヌスと戦ったというのは事実か?」
「はい」
「奴の力は中級以上という報告が来ていたがお主の力は中級と聞くが、何故勝てたのか聞きたい」
何故と言われてもバルートは無我夢中で戦っただけで、グルバヌスが中級以上という情報も知らずあの時はデビット達を逃がす為に戦っただけなのだ、もし事前に中級以上というのが分かっていても逃げる選択はなかったのだ、それに勝てた理由なんてバルート自身が知りたいぐらいだった。
「えっと、分かんないです……必死だったし負けたくなかったし、グルバヌスを倒さなくてはまた王女様を狙うんだろうなって思って戦っただけです」
「そうか、もう下がって良い」
「えっ、一寸待って」
理解したのか落胆したのか、興味を無くしたような言いようにバルートの方が聞き返した。
「マルさん、違っ……王女様に伝えて欲しいです、僕達はアルステルにいるです、何かあったらいつでも助けるですって」
「バルートさん、それ以上は……」
バルートがまだ何か言おうとしたした時、エトが彼のの腕を引いて部屋から引き摺り出していった。
元の部屋まで連れて来られたバルートは、エトにギルド長に失礼な物言いは止めて下さいと叱られて謝った、けれどギルド長と会えるなんて一生に一度あるかないかだったので、ここで逃したらという思いで伝えただけなのだ。
「今日はもうお帰り下さい、バルートさんには何かあればこちらから連絡しますのでエスタルにいる間は何処に泊まっているか教えておいて下さい」
肩を落とすバルートは渋々アンヌの家を教えると城から出された、閉まる城門の音が二度と来るなと言ってる様に体に響いてとぼとぼと歩き出していった。




