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馬でなければ今頃は下半身は泥まみれになっているぐらいに足元は悪く、行き交う商人が漸く通行出来る様になった街道を急ぎ駆けていくと轍の泥がフィッシング達に降り注ぎ、その度にフィッシングが大声で怒りをぶちまけていた。
「ったくよ、これじゃ着替えが幾らあっても足りねえじゃねえか」
宿で洗濯をした服がまだ乾いていないのに、替えの服には幾つもの泥が付着してしまいフィッシングが悪態を吐いた。
スーグリ達は泥が掛からないよう道の端を進んでいるのに、フィッシングだけが道の真ん中を進んでいるのだから当然ではないか、どうして分からないんだといった風な目で見つめていた。
「お魚さんもっと端に寄った方が良いよ」
「そんな所を歩かない方が良いですよ」
デビットとスーグリが忠告してくれているのにフィッシングはにやりと笑いながら、
「けっ、俺様が道の端っこを歩くなんて出来るかよ、俺は常に道のど真ん中を歩くのが似合ってるんだ」
がははっと馬鹿笑いするフィッシングにバルートが、
「水が好きだからもっと浴びれば良いです、そんなに濡れるのが好きなら僕が掛けてあげても良いです」
「お前ら覚えとけよ、俺がでっかい奴になって堂々と道を練り歩く時が来た時にゃ道端で跪いて拝ませてやるぜ」
「お魚さんが偉い人になったら国が滅ぶです」
「けけけっ、そりゃあ俺が負けるはずがねえからな」
「あわわ……馬鹿です」
勘違いをしているフィッシングにバルートが呆れる。
「はははっ、相手国の事だと思ってるね」
下らない話に花を咲かせながら五人はエスタル国内を進んでいて、国に入ってから一層人の往来は激しくなり、人々の表情にエスタル王死去に対する悲壮感は感じられず、淡々と仕事を熟す事に集中しているように思えた。
「辛気くせえ顔で働いてやがんな」
「皆さんエスタル王が亡くなったから不安になってるんですよ」
宿の店主に聞くとまだ新国王は発表されていないと言う事だった。
国民としては国王が亡くなった事は今後の生活に直結してくる重要な問題で、新国王の采配で生活が一変する事だってある。
それがエスタルなら尚更で、建国以来、現国王が亡くなる事はなかったのだから人々が不安に思うのは当然だとスーグリが言った。
「姉ちゃんに聞けば何か分かるかも知れないね」
五人の今日の宿泊地はアンの家で、首都に住む彼女ならお店に来る客とお喋りをするのが好きなので色々と話を仕入れているかも知れないと思っていた。
「アンさんと合うのも久しぶりですね、元気かな」
「姉ちゃんは元気だけが取り柄だからね、スグリ達が来たら病気に掛かってても一発で治るんじゃないかな、ははっ」
悪路に悩まされながらの片道四日間という旅が目の前の首都を見て、これで一息付けるなと五人は安堵して早く町に入りたいと自然と足が早めた。
石畳の街道になるとカツカツと軽やかな音が耳に入り、馬も歩きやすさに元気になってくる。
「着いた……」
カルエの声に皆に笑顔が浮かばせ町の門を潜る。
アンヌの裁縫屋の看板を見つけるとスーグリとカルエが駆け足で走り出し、飛び降りるように馬から下りると勢いよく玄関の扉を開けた。
家の中から悲鳴のようなアンヌの声が聞こえ喜ぶ声に変わる。
遅れて到着したデビット達が家に入ると、
「ただいま」
「まぁまぁ、スグリちゃんにカルエちゃん綺麗になったねぇ、まだ寒かっただろうに早く中に入りな」
デビットの言葉を無視してスーグリ達と楽しそうに話すアンヌにもう一度、
「ただいま」
と言った。
「なんだいあんたも来たのかい、おかえり」
「自分家に帰ってきてがっかりされるとは思わなかったな」
とぼそりとデビットが愚痴るが、バルートとフィッシングが陽気に挨拶をすれば、アンヌも笑顔に戻り二人を奥へと招き入れた。
溜息を吐きながらデビットも家に入っていく、その時にアンヌにエスタルの事を尋ねてみた。
「まだ何にも無いさね、いつまで王様のいない国が続くんだろうねぇ」
「まだか……」
「昨日、沢山の兵士が国を出て行ったけど何処に行ったんだろうね、町じゃ大騒ぎだったよ」
「軍が移動?」
「あぁ、あたしは見に行ってないけどね、お客さんからそう聞いたのさ」
「そう、分かったよ」
とデビットが奥へ行こうとするとアンヌが呼び止める。
「ちょっとあんた、お尻が泥だらけじゃないかい、そんな服で椅子に座るんじゃないよ、直ぐ着替えてきな」
知らない間にお尻に泥が飛んでいたようで、後ろを覗いたデビットが苦い顔をして、
「あいよ、じゃあ皆の服も見ておいた方が良いと思うよ、早くしないと椅子に座っちまうかも知れないよ」
と忠告をしてデビットが自室の二階へと上がって行くと、アンヌが悲鳴を上げて慌てて走り出した。
いきなりやって来た五人の世話で騒がしくなったアンヌが落ち着いて居間にやって来た時には、皆一様に疲れた顔で椅子に座り溜息を漏らしていた。
着替えを済ませて身なりは良くなったが、呆けたように目の前に置かれた飲み物に誰も手を付けずじっと見つめていた。
「これでいいさね、所であんた達、エスタルに何しに来たのさ」
あっ、といった顔になったスーグリが、
「エスタル王が亡くなったって聞いたから来たんですよ、雪の間に何があったんですか?」
「あたしにゃ分かんないよ、国王と前王夫妻が亡くなったって立て札を見たって聞いただけだからね、その直ぐ後に雪が降り始めてあっという間に一面真っ白になったからね、こっちも雪籠もりの準備で忙しくてその後の事は知らないわさ」
「昨日多くの軍が何処かに移動して行ったらしい、この時期に行くところって言えば……」
「ローザンか?」
デビットの問いにフィッシングが即答する。
「しかないよね、南に下りてきてるなんて聞いてないし北に向かったとしか考えられない、サスタークに向かうとしても護衛ならそんなに多くの兵はいらないだろうけど大軍で護衛する人物なんてマルしかいないんだよ、マルがサスタークに用事があるというなら別だけど、この大事な時期に用事ぐらいなら使者を送れば良いだけでわざわざマルが行く必要は無いだろう」
「じゃあどうしてローザンに行くですか、そんな大勢で行くなんてまるで戦争をしに行くみたいです」
「!」
バルートの一言で皆に緊張が広がり、
「それを調べてみようと思うんだ、バルさんはギルドに会いに行くんだよね、俺とお魚さんで町を歩いてみようと思うんだ」
「今からかよ」
「その為に来たんだよ」
不平を言うフィッシングを連れて三人は城の方へと出掛けて行った、残ったスーグリ達には帰ってきたら冷えた体を温まる料理を作っておいてよと伝えておいた。
「もっとゆっくりしようぜ、別に一日二日遊んでても何も変わらねえだろ」
「でも早めに情報を知っておいた方がゆっくり考える時間があるじゃない、こういうのは早いほうが良いんだよ」
「それを知ったからって俺達が何か出来る事ぁねえだぜ」
「そうかも知れないけど何もせず家にいるよりは良いでしょう」
町を見ていると兵士が多いように思える。
通りの角に立つ兵士は警備兵では無く国軍兵士で、その目の前を馬に乗った警備兵が通り過ぎていく、厳戒態勢とまでは行かないが何かから守っているような感じがした。
特に城の周りは兵士達が並んで近付く者に目を光らせ、用がないなら向こうへ行けと怒鳴っていた。
「なんだかぴりぴりしてるね」
城を前にデビットが言う。
「ああいうのを見るとむかついてくるぜ、ややこしくなる前に他行こうぜ」
とフィッシングが言うと、
「僕、ギルドに会えるか連絡取って来るです」
「バルさん!」
と言ってバルートは一人駆け出して行くのをデビットが止めようとしたが、彼は止まること無く城へと走っていってしまった。




