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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1053/1117

1053 各々の立場

「それは本当かい?」

 家に帰ってきたスーグリはエスタル王が亡くなった事をデビットに教えると、彼は驚いて聞き返した。

 エスタル王が亡くなったとはどういう事か、病死なのか事故死なのか、はたまた自殺、暗殺なのか一体何があって亡くなったのかはスーグリの言葉だけでは不明である。

 この雪の間にエスタルで何かが起きた事は確かで、エスタル王ファリスは国王になって間もなく年齢も若いので、病死は考えにくかった。

 あれだけ国王に固執しマルティアーゼに乗っ取られるのではないかと殺そうとまでした地位を手に入れたのに自殺とも考えられない。

 考えられるのは事故か暗殺だが、どう考えてもマルティアーゼ絡みで何かが起きたと考える方が可能性が高い。

 グルバヌスに狙われている事やローザン夫妻事故死等、彼女の周りには常に何か事件が纏わり付いている、そこにきてエスタル王死去と聞けば自ずと事件が起きたと思うのは自然な流れであって、グルバヌスに関してはついこの間デビット達の前に現れバルートが撃退した件もある。

「ローザンの両親が亡くなったのに次はお兄さんだなんて、マルさん可哀想」

「ふむ、確かにそうだけどそれはマルを取り巻く問題が表面化してきているからかも知れないよ」

「あの魔道士の事ですか?」

「それもあるし姉のディアンドルの事もそうだ、俺はローザンで少しばかり療養させて貰っている時にマルと姉の口喧嘩を見た事がある、喧嘩と言っても姉からの一方的な叱責だったけど、あれを見て到底仲が良いとは思えない関係だったからね、彼女の生活環境を考えれば国から逃げ出したくなるのも今なら分かるよ」

「お姉さんってどんな人なんでしょう」

 スーグリも一度マルに会いにローザンに行った事はあったが、ディアンドルと出会う事はなかったのでそんな恐い女性が近くに居たとは驚きであった。

「まぁ見た目は綺麗な人だけどマルとは性格が正反対な人だったよ、そんな人とやっと離ればなれになれてマルも落ち着くだろうと思っていたんだけどね、エスタルに来てもマルに不運が降りかかってるのは異常な事だよ」

「エスタルの国王は誰になるんですかね?」

「それは……」

 デビットでさえ直ぐには言葉に出来ない問題だった。

 もう王族で残されているのはマルティアーゼしかいない、彼女を国王として国が認めるのかそれとも遠縁から王を輩出するのかによって、エスタル王国という国の道筋が変わってくる重要な問題だった。

「今ならエスタルじゃ何か進展があるかもね、行ってみる価値はあるか……」

 デビットは新しい情報がどうなっているのか気になり、街道も使えるようになったのだから行ってみようかと思った。

「私も行きたいです、マルさんには会えないかも知れないけど」

「私も行くぞ」

 スーグリもカルエもマルティアーゼの事ならとエスタル行きを唱える。

「この話、お魚さん達にも教えてあげないとね」

 と言うと、デビットは立ち上がって早速フィッシングの所へ向かった。




「これはエスタルに行って確かめてこないといけないと思うんだ」

 しんとする居間、フィッシング達三人の顔は真剣な様子でデビットの言葉に耳を傾けていた。

 ファリスの死は彼らにとっても他人事ではない、一度は真正面から戦ったフィッシングにはあれだけの魔力を持ったファリスが事件に巻き込まれるのか、兵士やギルドに守られている堅固なエスタルの中で亡くなるなんて考え難く、デビットの考察に疑問はあった。

「事故じゃねえのか、露台から落ちたとか雪で滑って転んだとかよ」

「その可能性だってあるよ、だからエスタルに行って確かめてみようと思うんだ、でもマルの関係者ばかり被害に遭うのはどう考えてもおかしいと思わないかい?」

 それは自分達の事も含んでの言い回しだった。

「じゃあ僕も行ってみたいです」

「やっと外に出歩けると思ったらエスタルの事件かよ、全く騒がしいぜ」

 と悪態を付きつつフィッシングも行く気のようで、ニヤニヤと笑みを溢し事件が起きた事に興奮が隠しきれていないようだった。

「二人とも事件に首を突っ込みすぎないようにするんだよ」

 オットは流石に大人な対応で自分は留守番をしておくと言い、フィッシング達には物事を大きくしないよう注意を促した。

 翌日の朝に西大城門前に集まった五人がそろそろと冷たい朝靄の中、アルステルを出発していった。

 久しぶりのスーグリにフィッシングが色々とちょっかいをかけてきては、彼女に冷たくあしらわれていた。

「お魚さん何しに来たですか」

 朝っぱらから下世話な態度でスーグリに色目を使うフィッシングに、バルートは呆れた様に言い放つ。

「そりゃおめえ旅は楽しくなきゃいけねえだろ、旅の間、何にもしゃべらねえで黙々と旅をして楽しいか?」

「お魚さん朝から元気だね」

「へっへっ、そりゃあこんな別嬪二人と旅が出来るんだぜ、なぁスグリも俺と一緒の旅は楽しいだろ」

「……」

 明らかに嫌がってる顔で見ているスーグリにフィッシングは嬉しそうに大笑いをした。

「スグリに何かしたら承知しないぞ」

 カルエはスーグリを守る様に間に入ってフィッシングを睨んだ。

「カルエも町の生活に慣れてきただろ、初めの頃に比べりゃ色っぽくなってきたじゃねえか、おめえもそろそろ女の楽しみってやつを教えてやっても良いんだぜ」

「もっ、って何ですか、私はお魚さんとは何でもありませんから誤解するような言い方は止めて下さい、私はお魚さんに教わった事なんてありませんよ」

 間髪入れずにスーグリが言い返してきた。

「デビさんやっぱりお魚さんを連れてきたのは間違いです」

「ははっ良いじゃ無い、お魚さんはああ言って気晴らしをしてるだけでリンさん一筋なんだからスグリ達には手は出さないよ」

「僕は信じないです」

 と、前を行く二人はフィッシングの行動について話し合っていた。

「それよりバルさんは彼女の事が気になってるんでしょう、どうやってギルドと接触するんだい、国王が亡くなってるエスタルの警備は厳重になってるはずだよ、城に入れるとは思えないけど」

「う~ん、どうしよう」

 グルバヌスに怪我を負わされた魔道士が無事ならそれで良いのだが、あれから何の音沙汰がないのが不安を煽っていた、国王死去という国にとって一大事にバルート達の事など後回しにされたのならそれは国として当然なのだが、バルート達にとっては相手がグルバヌスだった事が重大な案件でもある。

 せめて一言だけでも結果を教えてくれれば、バルート達は後の事はギルドに任せられると安心出来るので、それだけを聞きたかったのである。

「なんとももどかしいな」

 ぽつりとデビットが呟いた。

「へ……何がです?」

「俺達だけ後手後手に動いてる感じがしないかい、当たり前の事だけど俺達は部外者なのは分かってるよ、マルと繋がりがあると考えるのは傲慢だとも思う、俺達とマルはもう別の世界の住人なんだ、いつまでも馴れ馴れしくするのはいけないと思ってはいるんだけどね」

「……それはそうですけど」

 少しの間、彼女と同じ町で生活をし会話を交わした仲、お姫様と平民が友達だったという普通ならあり得ない状況を体験しただけの赤の他人だ。

 彼女と別れてからもう四年は経っている、マルティアーゼも元の生活に戻り自分の人生を歩んでいるのに、自分達が勝手にマルティアーゼの友達だと考えのは、彼女からすれば迷惑ではないかと思った。

「でも僕はマルさんを助けたいです」

「俺達は何もせず静観している方が良いんじゃ無いかって思う時があるんだ、動けば動く程マルにとっては邪魔でしかないかって思うんだ、相手は国家だ任せておけば良いと思う、俺達が居ても役に立つとは思えないよ」

「デビさんの言葉じゃないみたいです」

「そうかい、自分では行動するより傍観者だと思ってるんだけどね」

 ははっとデビットは笑う。

「デビさんだって力はあるです、お魚さんを助けたじゃないですか」

「補助は出来ても何かを変える力は無いよ、俺は自分がどんな人間か知ってるから限界も分かるんだよ、一介の魔道士が偶々マルと出会っただけで俺が出来るのは考える事だけだからね、でもバルさん達は違う、才能がある人からみればどうしてこんな事が出来ないのか不思議に見えるだろうね、それが才能の違いだよ」

「僕だって自分にこんな力があるなんて思って無かったです」

「バルさん達が羨ましくもあり、俺には俺の出来る事をやろうと思ったんだ、それが見守る事、情報を集め考える事、まぁ適材適所ってやつだよ」

 バルートは何と言って良いのか分からず難しい顔でデビットを見た。

「良いんだよバルさん、バルさんは自分の力に自信を持って上を目指していればきっとマルを助けられる、君は特別な人間なんだ」

 特別と聞いてバルートはどきっとした、デビットのいう特別では無く自分だけが知っている特別の意味を……。

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