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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「なんで俺がこそこそしなくちゃいけないんだ、ちゃんとお金を払って買ったんだ何も悪い事はしていないんだから堂々とすれば良いんだ」

 早くこの地区から出ようと馬車を走らせていたタリアは、よく考えれば逃げる必要は無いじゃないかと手綱をゆっくりと引いた。

「それにこんなに購入しても良いのかとも聞いて了解も得たんだ」

 その後すぐに他の客が来たので後ろ髪を引かれる思いを感じてしまっただけで、客が来なければ何事も無く済んだはずだ。

「少し買いすぎだったかな、仕方ないよな気軽に来られる場所じゃないんだし」

 工夫、女性子共の数を考えればこれ位なくては足りないと思っていた、それにこの町の人なら一日二日我慢すればまた新鮮な野菜が届けられるだろうが、こちらは片道だけで五日は掛かるんだとタリアは言い訳をして、

「まぁこれも早い者勝ちなんだ」

 と自分を慰めていた。

 大量の野菜を荷台に乗せて大通りを走らせていると周囲の目が荷台に集まり、何処でそんな大量の野菜を買ったんだという感じで見られていた。

(後で毛布で隠さないとな)

「さっさと買い物をして帰ろう」

 折角久しぶりの大きな町に来たというのに人の目が気になり、居心地の悪さに居たたまれなくなるとは思っていなかった。

 導具屋、雑貨屋とお店を回り頼まれた物を買い込んで行くと、荷台にもう置けなくなる程一杯になった。

「肉も買った、あと調理器具も良しと……もう買い忘れはないよな」

 あとは……。

(そうだ、つい買い物に夢中で情報収集を忘れていた、ミサエルさんに会った時に聞いておけば良かったな)

 まだ通りの何処かで買い物をしていないかなとリーファス通りを進んでみた。

 雪よけの屋根は取り外され明るい通りに多くの露店が建ち並ぶ。

 衣服、薪、食器、干し肉、酒など寒い間に家で作れる物を売っている店が多い、野菜などの作物も少ないが売っている店はあったが、やはり人々も野菜を求めているのか僅かに残った野菜が店頭に置かれているだけで、店主の方は早々に店仕舞いを始めていた。

(雪の間でも商売が出来て現金収入が入るのは助かるよな)

 アルステルの多くは農家で作物を売らなくては生活が成り立たない、なので雪の間は蓄えたお金を切り崩しながらの生活となれば厳しいと考え、家で出来る副業で稼げるよう通りに屋根を設置し、雪が降っていても商売が出来る様にしてくれるのは国が国民目線で見てくれている証拠だった。

(これは帰ってからサレス様と相談した方が良いな、町作りをする前で良かったのか作るなら分かりやすく住みやすい方が良いよな)

 リム王国の首都が実際どの位の大きさなのかまだ分からない、もう何百年も前の国を蘇らせるのだ、当時は大国であっても現代と比べれば人口も増え文明も進歩しているのだ、意外と小さい国だったかも知れない。

「ううむ……」

 いつからこんなに町作りに熱心になったのかと思う程、タリアは自分達の町を想像しこんな国にしたいと真面目に考えていた。

「はっ……す、済みません」

 馬車の上で考え事をし過ぎた所為で通りを塞いでしまっていた、後ろからどけっと言う叫び声に我に返ったタリアが急いで馬車を移動させた。

「ミサエルさん達はいないな、もう帰ったか」

 通りを見回してもミサエル達は見つからず、仕方なくタリアは人混みから逃れる為に路地に入った。

「どうするかな、適当に人に聞いてみるか」

 大通りの人の流れは速く声をかけるのは無理がある、通りを外れて地区の人に聞こうかとした時、路地から出て来た人物がタリアの荷台を見て驚いた声を上げた。

「あぁこんなに野菜があるよ、この人が沢山買った人だ」

 タリアは振り返った時に二人の女性と目があう。

「……なんだ?」

 女性二人が恨めしそうに布で隠してあった荷台の野菜を指差し、タリアの事を犯人みたいな冷たい目で見つめてきて言葉を失った。

「……」

 見つめ合う三人に、最初に口を開いたのはカルエだった。

「ねえあんた、こんなに一杯野菜を買ってどうするのさ、その所為で私らは殆ど買えなかったんだぞ」

 一人の気の強そうな女性がタリアに向かって怒鳴ってきた。

(さっき八百屋に来た女性達か……)

 と言われても、先に購入しただけで怒られては堪ったものじゃない。

「カルエさん止めましょうよ、私達の行くのが遅かっただけなんですから」

 もう一人の方は……これまた美人な女性で長く茶色い髪がレシティと重なり、タリアは一瞬ハッとさせられた。

「ご免なさい悪気はないんです、久しぶりに八百屋に行ったら品物が買い占められたって聞いたもので……」

「折角新鮮な物が食べられるってわくわくしてたのに」

 謝る女性に苛立ちを見せる女性にタリアは、

「それは申し訳ないです、私も新鮮な野菜ならアルステルだと思って遠路はるばる来たもので、中々手に入らないと思って買ってしまいました、一応あの店員の方に大丈夫かと聞いたんですが問題ないと言われたので……済みませんでした」

「いえ、こちらこそいきなり怒鳴ったりしてご免なさい、カルエさんが絡むから困ってるじゃないですか」

「だってさぁ、今日は野菜をもりもり食べるって気分だったんだよ」

(そうだ)

「あのぅ……少しなら分けて差し上げられますが、故郷の皆の分に買ったので多くは分けられませんが」

「……え?」

「おっ、やったなスグリ言ってみるもんじゃないか」

 タリアの提案にカルエは喜んだがスーグリの方は申し訳なさそうな顔で、

「他の人達の分で買ったのなら私達は受け取れないです」

「良いんです、皆を驚かせようと思って買っただけですから、この事は私だけしか知りませんので構いませんよ」

 スーグリとカルエは目を合わせてどうしようかと小声で相談し合った結果、スーグリがそろりと本当に良いんですかと聞いてきて、タリアは笑顔で勿論と答える。

 荷台の布をめくると二人の顔に笑顔が浮かび野菜を眺めている所に、タリアが好きなのをどうぞと言った。

 野菜を選んでいる二人にタリアが、

「ところでエスタル王が亡くなったのは知ってますか、今エスタルでは大騒ぎみたいですが」

 と聞いた所、スーグリは驚愕の表情で選んでいた手を止めた。

「えっ、今何て……?」

「えぇ、ですからエスタル王が亡くなったのですが知りませんでしたか?」

「……知らないです、本当ですか?」

(まだ情報が流れてきていないのか、それともこの人だけが知らないのか)

 これは外れだったかと思いつつ、二人に野菜を分け与えた。

 スーグリが貰った分のお金を払いますと言って差し出してきたが、タリアは受け取らず二人と別れた。

 彼女だけが知らないだけで他の人にも聞いて見ようと、通りを渡って適当な酒場に足を向けてみたが、店内にいた常連客らしい人達の会話からエスタルの話題も無く、店主と世間話をしても季節や食べ物の話しか聞こえてこなかった。

(ふむ、アルステルにまだ伝わって来ていないとすれば、街道も通れるようになってるから、これから話好きの商人や旅人が広めていくんだろうな)

 時期が少し早かったのかも知れない。

 雪解けしたからとやって来たが、カミュラに送って貰ったので五日分程は早く来た事になる、往復十日では工夫達の食事が乏しい物になると思い、食糧を少しでも早く届けてやりたいという気持ちで導路を使ったのだが、それが裏目に出てしまった感じである。

 どうしたものかとタリアは悩んでいた、情報が得られなかったのなら仕方ないと言えばそうであるが、タリア自身もエスタルの大事件に関する事情を知りたいという気持ちがあったので焦っていたのかも知れない。

 アルステルで滞在して情報収集に努めようかとも考えたが、生ものを放置する事は出来ないと考えやむなくサレスの元に帰る事にした、しかしタリアは分かっていなかったのである。

 彼自身がエスタルの重大事件をアルステルに広めたという事を……。

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