1051 集まる国民
雪解けで動き出すのはエスタルだけではない、此処リム遺跡で国造りを行っているサレス達の所でも大きな動きはあった。
城に繋がる街道の雪が解け足場は悪いが集落の人々がぞろぞろと集まってきた。
工夫達は勿論仕事の為にきていたが、中にはその工夫の妻や子供も連れて集落を抜けてサレスの新国家に希望を乗せてやって来たようだ。
雪降る間もカミュラ達が森を切り開き、開拓地と材料の準備をしていてくれたお陰で到着して直ぐに自分達や移住してくる人達の家の建設に取りかかり始めた。
「サレス様、工夫達が戻って来てくれたのは良いのですが、住む場所が足りなくなりそうです」
人を集めたのはサレスだ、彼が国民となってくれるなら歓迎する、住む場所もあげるよ何て言ったからそれを信じた人達がやって来ているのだ、しかし家の数はそれ程多くもないのに人が急激に増える事は考えていなかったのだろうかと、タリアは目の前で悠々と椅子に座って本を読むサレスに言った。
「それは彼らだって分かって家族や友人を連れてきたんじゃないかな、こちらは建設に必要な資材の準備はしてある、後は彼らに好きなように家を建てさせれば良いいんだよ、大丈夫、彼らは新しい生活の希望を持ってやって来ているんだ、必要な物を用意しておけば後は自分の願った家を建てるはずだ」
その為にタリアも土地の広さが均一になるように整地を頑張っていたのだ、本当にそれで工夫達は怒らないのだろうかと外に出て皆の様子を見に行くと、彼は目を見開いて驚いていた。
他人の家でも楽しそうに笑いながら建築に励む工夫達、色々な集落から集まった人達なのにまるで家族のように苦楽をともに働いている姿に、タリアは自分の考えが間違っていたと感じた。
此処に居る人達は移住するだけが目的ではない、もうこの国の国民になる決意も持ってやって来ているんだ、此処に自分達の居場所を作ろうとする同じ気持ちを持った人達なんだろうと、その働き具合から見て取れた。
透き通る空気と青空が眩しい、家の基礎と通りの境目がはっきりと分かるぐらいに雪は溶け昨年整備した町の形が姿を現す、肌寒い陽光の下で丸太を削ったり切ったりと、汗水を垂らして湯気を纏う屈強な男達がせっせと木材を運んでいる。
手慣れた工夫達は小集団を作り同時に何軒もの建築に携わっているので、あちこちで木槌の音が聞こえてくる。
「早い……」
これなら今建っている家で数日我慢すれば出来るだろう、それにこれからまだやって来る工夫達が加わればあっという間にこの辺り一帯が住宅街になる程の建築速度だった。
タリアの心配事は杞憂に終わったのは良かったが、ここで彼ははっと気付く。
「この人数では食糧の方が足りなくなるのでは……」
住み着いてくれても暫くの食糧自給はこちらで用意をしなくてはいけない、まさかこんなにも人が集まってくるなんて思いもしなかったタリアは、慌てて城へ戻りサレスに直ぐに町に向かって食糧調達に行ってきますと伝えた。
「じゃあついでに……町の様子とエスタルの情報がどうなっているのかも調べてきてくれない?」
「分かってますよ、ですがアルステルに行きますのでまだ情報が流れてきてない可能性もあるので期待はしないで下さい」
タリアは一人馬車を出してきて出発した、カミュラを呼んで道路を開いて貰う。
「何か入り用がありましたら買ってきますよ」
「ふむ……特に必要な物はないが」
とカミュラは言ったが、結局乾物や秘薬、毛布などが買えるなら欲しいと言ってきた。
(何だかカミュラさんも気難しい人だからな)
聞かないと自分からは言おうとしない性格はどういう感覚で生きているのか、タリアにはそういう人間の心境は分からなかった、だがまぁ聞けば答えてくれるだけ天邪鬼な人よりは素直な人なんだろう。
馬車が通れる程の大きな導路に入っていく、片道だけで五日は掛かる行程を短縮出来るだけでもカミュラのような力のある魔道士が居てくれて頼もしい。
アルステル東の街道上に出て来たタリアは、そのまま馬車を首都アルステルに向かった。
人の行き交った街道に雪はなく、泥となった地面には幾筋もの水溜まりが街道に出来ていた。
(向こうよりも人通りが多いから雪も随分と溶けてきているな)
轍に溜まった泥水を撥ねながら風景を見回せば木々の緑も雪解けは進んでいる様で、芽吹いてきた鮮やかな緑色の葉が季節の変わり目を教えてくれていた。
「さて生野菜は売り出されてるのかな……」
長い間、主食が乾物だったので瑞々しい生野菜が恋しくなっていた、移住してきた集落の人達も新たな生活の門出に新鮮な野菜を食べれば気分も上がるのではないかと、少しは喜んで貰えれば良いなと思った。
町の中は外と比べて違う国に来たのではないかと思うほどに活気があり、往来する人々の熱気か少し温かく感じる。
「こんな風に大きな国になれたら良いんだが……」
サレスが思い描く国がどんな者かは知らないが、タリアとしてはアルステルのように綺麗に区画整備された首都が理想なのではないかと思う、四区画に別れその間に大通りがある、そして下町を望むように北に城が聳え立つ。
(俺としてはアルステルの町は分かりやすくて理想なんだが……ん?)
町中を進んでいると見覚えのある顔を見つけた。
「ミサエルさん」
と呼びかけられて振り向いたミサエルと隣に立つ女性にタリアは挨拶をすると、
女性の方も挨拶を返してきた。
「おっタリアか、久しぶりじゃねえか」
ラミールの戦争以来の再会だった、隣の女性もミサエルが戦争に参加する前に一度出会った事があり顔だけは覚えていた。
「お買い物ですか?」
「あぁそうだぜ、タリアはこんな所で何してるんだ?」
「私も買い物に来たんですよ」
二人の馴れ馴れしい会話は、ラミールでサレスの看病をしていた隠れ家に居た時に言葉を交わしていたからだった。
「あぁそうだ、新鮮な野菜を売ってるお店を知っていたら教えてくれませんか?」
「八百屋か……ミエール知ってるか?」
「そうねぇ」
(ミエールって言うのか、何かそんな名前だったような)
あの時は良く顔を見ていなかったが中々綺麗な人だなと、ミサエルには勿体ない相手に見えて羨ましくも思った。
(あれ、何か既視感が……)
そうだ、レシティさんと食事に行った時の俺のようだった、ミサエル達のように自分もこんな風に不釣り合いに見られていたのかと考えると笑えなかった。
「私達の良く行く八百屋はまだ売ってなかったしまだ出回ってないのかも知れないわね……そうだわ、スグリちゃんが言ってたお店なら売ってるかも」
「そうなんですか、まだ早かったかな……まぁ一度そのお店に行ってみようと思います、売ってなければ諦めるだけですから」
タリアはミエールから聞いた八百屋の場所に行ってみようと、南西地区の入り組んだ裏路地に迷いながら現地の人に尋ね歩いてやっとの思いで辿り着いた。
「ここか……」
奥まった路地にある小さな店だが、店頭には色鮮やかな野菜が陳列されていて一人の美人な店員が笑顔でタリアに声をかけてきた。
「いらっしゃいませ」
(なんだアルステルは……こんなに美人が多い国だったのか)
タリアはこの国が美人国だとは知らなかった。
ミエールは黒髪、八百屋の店員は茶色と顔も雰囲気も違うのにそれぞれの美しさがあった。
「凄い、色々な種類の野菜があるんですね」
「ここの大家さんが頑張って育てているんですよ」
「ふうむ」
見ているだけで涎が出そうな懐かしい味が思い起こされ、タリアの脳裏に色々な料理を思い浮かべていた。
(この野菜を使って何か料理が出来れば良いな)
料理の事は知らないが移住してきた中には女性も多い、彼女達に頼めば色々な物を作ってくれるのではないかと、使えそうな野菜をあれこれと選んで店の商品が無くなってしまうのではないかと思う程買い込んだ。
「……」
店員の女性もあたふたしながら商品の計算をしていて、本当に買うのかと不安な様子で商品を荷台に運んでいく。
「えっと……」
女性が代金の多さに驚きながらたりに告げると、彼は懐からそのお金を出してすんなりと渡してきて更に驚いた。
「こんなに買ってくれる人は初めてです」
「済みません大人数がいるもので……他の人達の分まで買ってしまって迷惑でしたか?」
「いえ、大家さんも喜ぶんじゃないですかね、こんな事は初めてですから」
「有り難う御座います」
美人な店員と目が合ってどきっとしながらタリアは馬車を引く。
カラカラと店から遠ざかっていると、
「ええっ……どどど、どうしたんですかこれ、何にも無いですよ」
「ご免なさい売り切れちゃって、いまはこれ位しか今無いの……」
常連なのか女性客二人が八百屋の前で店員と騒いでいるのを、タリアは申し訳なさそうに流し目で確認するとそそくさと立ち去っていった。




